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第1話

ブラックウェル・アレクは、日本屈指の名門校に転校してきたアメリカ人留学生。そこで彼は、美しいが、うるさく、偽善的で腐敗した生徒会長・片川葵と出会う。

11月。

アレクが東学院に転校してきてから、もう4か月が経っていた。

いつも通り退屈で、特に何の変哲もない木曜の朝。

目を覚ましたアレクは時間を確認する。

「クソ、遅刻する……」

彼は嫌々ベッドから起き上がった。

「まあ、急いでも意味ないか。どうせ遅刻するんだし、のんびり行こう」

いつも通り駅へ向かう途中、周囲から奇妙な視線を向けられる。

当然だろう。

アメリカ人で、欧米系の顔立ちをしていて、平均より背が高く、その上金髪だ。

東アジアの国では嫌でも目立ってしまう。

「東学院って名門校じゃなかったのか!? 染めた髪の不良まで入れるなんて。あんな立派な学校も落ちたもんだな」

40代後半から50代前半くらいのスーツ姿の男が、苛立ちと軽蔑を込めた声で呟く。

「ピアスまでして髪も染めてるなんてねぇ。ご家族も恥ずかしいでしょうね。いい? ああいう人には近づいちゃダメよ」

母親が小学校低学年くらいの子供に小声で言った。

だが、アレクはそんな言葉など気にも留めない。

慣れているからだ。

日本に来て以来、毎日のように聞いている。

アレクは学校へ到着する。

東学院は国内でも屈指の名門校だ。

そのため校舎は非常に大きく、校則も厳しい。

もっとも、彼にはどうでもいいことだった。

校門を抜けて廊下を歩いていると、同じクラスのカップルが目に入る。

手を繋ぎながら、廊下の大半を塞ぎ、カタツムリみたいな速度で歩いていた。

(気持ち悪い。どうせ一か月もしないうちに別れるくせに。ほんと……)

「くだらない」

背後から、自分と同じことを呟く声が聞こえた。

振り返ると、一人の少女が立っていた。

女性としては背が高いが、飛び抜けて高いわけではない。

170~173センチほどだろうか。

赤いネクタイから二年生だと分かる。

白い肌。

ウルフカットの長い黒髪。

頭頂部には跳ねた一本の髪。

髪の先端とその跳ねた髪の先だけが白く染められている。

緑色の瞳が嫌悪から困惑へと変わる。

「あなた、授業中じゃないの?」

彼女は少し苛立ったように尋ねた。

「先輩も授業あるでしょ……」

「今はあなたの話をしてるの。私じゃなくて」

「見事なまでのダブスタだな……」

「先輩には敬意を払いなさい!」

「うるさいな! 一学年上なだけだろ! 俺の質問から逃げるなよ!」

「それより、男子のピアスは禁止されてるわよ」

「髪染めるのも禁止だろ。先輩見てみろよ……」

二年生は呆れたように目を回した。

当然のことを言われたかのように。

「それで、名前は? 後輩くん」

「アレク。アレク・ブラックウェル。お会いできて光栄です」

明らかな皮肉を込めて言う。

「片川葵。こちらこそ、お会いできて光栄ですわ、ブラックウェルくん」

彼女も同じくらい露骨な皮肉で返した。

アレクが教室へ着くと、すでに40分の遅刻だった。

担任の菊池先生――いつも不機嫌そうな顔をした、小柄で薄毛の男――が怒鳴る。

「ブラックウェル! 40分遅刻だぞ! いい加減にしろ! 席について、たまにはちゃんと授業を聞け!」

「すみません、先生」

「それと放課後は図書委員の仕事だ!」

「マジでやらないとダメですか?」

「ダメだ! 決定事項だ!」

「めんどくさ……」

「文句を言うな!」

「はいはい……」

一方、葵も遅刻して教室へ入った。

しかしクラスメイトも担任の藤森先生も全く動じない。

むしろ気にしている様子すらない。

「あら、片川さん。来たのね。どうぞ座って。待っていたのよ。それと放課後の図書委員、お願いしてもいいかしら?」

「はい、大丈夫です」

「ありがとう。相変わらず頼りになるわね、片川さん。さすが生徒会長」

葵は大抵のことなら見逃される。

生徒会長という立場を利用し、小さな校則違反くらいなら平然とやってのけるからだ。

教師たちもかなり甘い。

何しろ彼女は髪を染めているし、唇の下にはピアスがあり、ブレザーも着ず、スカート丈も膝より上。

どれも学院の厳しい校則違反である。

放課後。

アレクは図書委員の仕事へ向かう。

教師から、もう一人一緒に担当する人がいると聞いていた。

図書室へ入ると、その相手を見つける。

「あれ? お前って葵とかいうやつじゃなかったっけ?」

「そう呼ばないで。先輩に敬意を払いなさい」

「名前で呼んでるだけだろ。普通に……」

「バカなアメリカ人……」

葵は小さく呟いた。

唇にはかすかな笑みが浮かんでいる。

「今笑っただろ。最悪だな……」

「それで? どうするの?」

「お、俺は……その……えっと……あーもう、うるせぇ!」

「あらまあ! なんて失礼な口の利き方かしら。か弱い乙女になんてことを!」

彼女は大げさに息を呑み、明らかにからかっていた。

その言葉に苛立ったアレクは、その場を離れようとする。

だが葵はしつこくついてくる。

「知ってる? 校則ではシャツはちゃんとズボンに入れなきゃいけないのよ。それにあなた、ベルトすらしてないじゃない」

まるで誰もが知っている当たり前の事実を述べるかのように言った。

「髪染めてるやつが言うなよ」

「その校則は私には適用されないの。小麦頭くん」

「なんでだよ? 校則は一年も二年も同じだろ。適当言うな」

「私が生徒会長だから。こういう小さな違反なら先生たちも大目に見てくれるの」

どこか得意げに、少し自慢するように言う。

「それ、汚職政治家みたいな発言だって分かってるか?」

その時、部屋の向こうから司書が叫んだ。

「ブラックウェル! おしゃべりしてないで仕事しろ!」

「でも先生、先輩の方から――」

「知らん! 仕事に戻れ!」

「はいはい、分かりましたよ!」

言われた通りにしようとした、その時だった。

突然、肩を掴まれる。

「何だよ――」

次の瞬間。

葵は彼を振り向かせ、制服のネクタイを引っ張って自分の方へ引き寄せる。

そして、適当に結ばれていたネクタイを結び直し始めた。

「最後に一つ。いい加減、まともにネクタイくらい結べるようになりなさい」

苛立った口調で言いながら、最後にぐいっと強く締める。

「……はい」

叱られた子供のように目を逸らしながら、彼は答えた。



読んでくださってありがとうございます!初めての作品なので、感想やアドバイスをいただけると嬉しいです。

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