8話 ~乗り掛かった舟~
電話を終えた真利亜がリビングに戻って来ると、その顔に弾んだ微笑みを浮かべて言った。
「お母さんに話したらね、フレイヤの宝飾品にすごく興味を持っていて、これから急いで日本に戻って来るって言ってたわ!」
「……買って、くれますか?」
フレイヤはすがるような、けれどどこか怯えるような声で尋ねた。真利亜は力強く頷く。
「うん。どれくらいの値段になるかは、まだ私も想像は付かないけれど、ある程度の量の金を買うことは出来ると思う」
「ありがとうございます……! 金があれば、私の国が魔物から救われます」
フレイヤの表情に、ようやく張り詰めていた緊張が解け、大きな安堵が広がった。真利亜は言葉を続ける。
「ただ、色々と向こうでの片付けや準備をしなくちゃいけない事があるから、こっちに到着するのは三日後くらいになるんだって」
「三日後、ですか………」
「その間は、知り合いのツテに頼んで、いつでも金を融通してもらえるように準備しておくって言ってたわ。日本だとね、沢山の金を買うためには法律でいろいろと手続きが必要なの。前もってそれをやっておけば、鑑定が終わったらすぐに金と交換することが出来るようになるからね」
「分かりました。そこまでしていただいて……本当に、助けてくれて、ありがとうございます」
椅子から立ち上がったフレイヤは、まだ不慣れなたどたどしい言葉の後に、深々と頭を下げた。その一連の動作は、ただ頭を下げるのとは違う、指先の角度に至るまで徹底して洗練されたものだった。それは彼女が異世界において、相応に高い身分や立場にいることを容易に想像させた。
「そんな、気にしないで! ね、兄さん」
真利亜が話を振ると、それまで静かに聞いていた招福が、いつも通りの平坦な声で応じた。
「ああ。乗り掛かった舟というやつだ」
「のりかかった、ふね……?」
初めて聞く言葉に、フレイヤは小首を傾げた。
「それはね……」
招福がその言葉の意味を、分かりやすく噛み砕いて説明し始める。その静かな語り口を、フレイヤは熱心に耳を傾けて聞いていた。
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