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6話 ~目的~

 



「これで、私が異世界から来たことは、信じてくれますか?」


 フレイヤの静かな問いかけに、招福まねふく真利亜まりあは揃って深く頷いた。目の前で現れて消えた『ぬめぼん』という魔法生物は信じるに十分な根拠だった。


「私には、やることがあります。……そのために、ここへ来ました」


 たどたどしい日本語ではあったが、その青い瞳の奥には、モデルのような美しい容姿をより引き立てる、烈火のような強い意志が宿っていた。


「この世界に来た理由が、フレイヤにはあるんだね?」


 招福がいつも通りの淡々とした、けれど真摯な声で言葉を促す。フレイヤは小さく息を吸い込み、コクリと頷いた。


「はい。それは、きんを、元の世界に送ることです」


「金を……?」


 その単語が飛び出した瞬間、真利亜のアイドルのような童顔から、さっきまでの不貞腐れた子供のような表情が完全に消え失せた。何日も太陽を浴びていない青白い肌が、朝の光の中でハッと緊張に引き締まる。投資家として、彼女がこの数年間まばたきすら惜しんで睨み続けてきた、まさにその対象の名前だった。


「私の国は、とても困っています。……沢山の魔物が、現れたからです」


「魔物!」


 真利亜が思わず声を上げた。フレイヤは悲痛な面持ちで言葉を重ねる。


「魔物は、たくさん、たくさんいます。魔物を倒すには、武器が必要です。一番良いのは、魔法の拳銃です」


「拳銃?」


 今度は招福が、怪訝そうに平凡な顔を少し傾げた。


「魔法の拳銃は、魔力がない人でも使えます。なので、沢山の人が、魔物を倒すことができます。だけど、困っています。材料がありません」


「……それがきんというわけか」


 招福の淀みのない呟きに、フレイヤの美しい金髪が小さく揺れた。


「はい。私たちの世界には、金は少しだけ、あります。もっと、たくさんの金が、ひつようです。だから、私は来ました」


 食卓の上に置かれたコーヒーの湯気が、ゆっくりと消えていく。


「事情はなんとなく分かった。だけどフレイヤ、この世界でもきんというのはとても貴重で値段が高い。そう簡単にたくさん買えるものじゃないんだ」


 招福まねふくがいつも通り、感情の起伏のない淡々とした声で、現実的な世界のルールを説明する。ゴールドは世界共通の安全資産であり、一介の一般人が右から左へ大量に融通できるような代物ではない。


 しかし、フレイヤは困惑する風でもなく、モデルのような美しい顔をまっすぐに招福へと向けた。


「私は、あちらの世界から、宝石を持ってきました。これで、金を買うことは、できますか?」


「宝石!見て良い!? 見たい、見せて!」


 ガタッと椅子を鳴らして身を乗り出したのは、隣の真利亜まりあだった。


「わかりました」


 二人の視線が集まる中、フレイヤは借り物であるスウェットのポケットに手を差し入れた。そして、中からごそごそと、大人の握り拳ほどもある大きさの、古びた革袋を取り出した。


 そして革袋を固く縛っていた紐を指先で器用にほどき、中身を木目のテーブルの上へと一気に広げた。


「うわあ……!」


 真利亜の口から、感嘆とも悲鳴ともつかない吐息が漏れた。


 ジャラジャラと小気味よい音を立てて転がり出たのは、窓から差し込む朝の柔らかな光を浴びて、眩いばかりにきらめく多種多様な宝飾品の山だった。


 現代の精密なカット技術とは明らかに異なる、どこか神秘的なカッティングを施された、見たこともない色彩の裸石ルース。それだけではない。精緻な金属細工が施された指輪、アンティーク調の重厚なブローチ、そして半透明の不思議な鉱物が連なるブレスレット――。


 リビングの質素な食卓の上が、一瞬にして中世の王族の宝物庫へと変貌したかのような錯覚を覚えるほどの、圧倒的な輝きだった。


 真利亜は完全に目を奪われ、そのきらびやかな財宝の山を食い入るように見つめていた。





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