20話
別れの夜は、出会いの夜とまったく同じように、冷たい雨が降っていた。
三人はそれぞれ違う色の傘を差し、雨粒と街灯の淡い光を弾く漆黒のアスファルトを踏みしめて歩く。
誰も何も口にしない。いまさら、ありきたりで陳腐な別れの言葉など誰も求めていなかった。ただ、もしもこの静寂のなかで無理に言葉を紡ぎ出すとするならば、それは「絆の深さに、一緒に過ごした時間の長さは関係ない」ということくらいだろうか。
三人が目指しているのは、家の近くにある見慣れたゴミ捨て場だった。
あの日――すべての始まりの夜。招福は真利亜に頼まれて、コンビニへプリンを買いに行った。
その帰り道、燃えないゴミの日のゴミ捨て場に、ぽつんと佇む奇妙な物影があった。目の端でそれを捉えた招福は、てっきり誰かが粗大ゴミでも不法投棄していったのだろうと思った。
街灯に照らされたその影を見つめながら、一歩、また一歩と近づいていく。そして、至近距離に達したとき、招福の口から思わず声が漏れた。
そこにいたのは、フレイヤだった。
彼女は激しい雨に打たれながらも、まるで魂が抜けてしまったかのように微動だにせず、ただ座り込んでいた。
一目で異常事態だと察し、警察を呼ぶべきだとポケットをまさぐったが、あいにくスマホを家に忘れてきたことに気がついた。
「大丈夫ですか!?」
焦って声をかけても、フレイヤからの反応は一切ない。
街灯の下で濡れそべる彼女の姿は、西洋画の女神のようにあまりにも整いすぎていて、その青白い肌も相まって、むしろ現実離れした不気味さすら感じさせた。
けれど、迷った末に招福は彼女を家に連れて帰ることを決めた。このまま見捨てれば、彼女はきっとこの冷たい雨のなかで死んでしまうと思ったからだ
。
必死の思いで、ずぶ濡れの彼女を背中に担ぎ上げて歩き出す。そのとき招福は、心の中で自分の母親に感謝した。日頃から泥酔した母を何度も部屋のベッドまで運んだ経験が、見ず知らずの少女を背負うという緊急事態において、思いがけず役に立ったのだ。
「…………」
歩調を合わせるようにして、あの日のゴミ捨て場がゆっくりと視界の先に現れた。
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