19話
都内の午後三時過ぎ。マクドナルドの二階席に、ずっしりとしたアタッシュケースを足元に置いたフレイヤ、招福、真利亜の三人がいた。
トレーの上には、いくつものバーガーの包み紙が山のように積み重なっている。三人はポテトをつまみ、ナゲットを口に運びながら、どこか気だるげで、それでいて愛おしい放課後のような時間を味わっていた。
「ところでさぁ………」
真利亜がポテトを口にくわえたまま、ふと思い出したように言った。
「なに?」
「フレイヤって魔法使いなんでしょ?」
「そうよ」
「その割には、魔法使いらしいところを一回も見たこと無いんだけどなぁ」
「そう言えば、確かにそうか………」
招福も真利亜の言葉に同意すると、フレイヤは心外そうに青い目を丸くした。
「失礼ね。真利亜が長年苦しんでいた腰痛を治してあげたじゃない、忘れたの?」
「それは感謝してるんだけど、でもあの時、フレイヤは私の腰を普通にマッサージしてくれたでしょ?」
「そうよ」
「だから私の中では、フレイヤは『ただマッサージがめちゃくちゃ上手な人』ってことになってるのよね」
「全然違うわよ! あれは魔法を体の中に送り込むためにやったの。治癒魔法は制御が凄く難しいから、悪い所に少しずつ、手から魔力を送り込んでいかないといけないんだから」
熱弁するフレイヤだったが、真利亜はまだどこか物足りなさそうな顔をしている。
「でもなんか、思ってたのと違うのよね。魔法ってもっとこう、光がビカビカ光る派手な感じだと思ってたから」
「そういう派手なのも、ちゃんと使えるから」
「そうなの? だったらなんで一回も見せてくれないのよ」
「だって、こんなに平和な街で派手な魔法を使う機会なんてないじゃない。魔物が大暴れしているわけでもないのに」
「……まぁ、そう言われてみればそうなんだけど………」
真利亜が渋々と引き下がったところで、今度は招福がしみじみとした声を上げた。
「それにしてもさ。フレイヤ、日本語がだいぶ上手くなったよね。今の会話なんか、思いっきり日本人って感じだったな」
「たしかに! 最初の頃と全然違う!」
二人に褒められ、フレイヤは急に照れくさそうに視線を泳がせた。
「あ、ありがとう、ございます……」
「あれ?また急にカタコトになった」
「き、緊張するとこうなってしまいます! って、どうして二人とも笑うんですか!」
「いや、なんか表情がね」
招福が吹き出すと、真利亜もクスクスと肩を揺らした。
「そうそう。なんか今のフレイヤ、ちょっと悲しそうな顔してたから、面白くて」
「だからって、笑わないでください!」
「いいじゃん、別にー」
「恥ずかしいですよ……もう」
フレイヤはそっぽを向いてポテトを口に放り込む。
ぷくっと頬を膨らませる彼女を見て、招福と真利亜の顔に自然と優しい笑みが浮かんだ。
今日の夜には、フレイヤは異世界に帰ってしまう。
それを分かっているからこそ、残された時間をできるだけ明るく、いつも通りに楽しく過ごしたい。言葉にはしなくても、それは三人に共通した、切なくて温かい願いだった。
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