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16話

 



 新宿・アンティークショップ『グリーンランド』の店舗の最奥にある、最新の精密機械が並ぶ重厚な鑑定室。


 そこにどっしりと腰を下ろしていたのは、日葵ひまりの共同経営者であり、この道四十年の大ベテラン鑑定士――巌頭がんとうだった。


 巌頭は、一行を一瞥したあとで威厳のある声で言った。


「……日葵。イタリアから急に帰国したと思えば、異世界の宝飾品、だったか。言われた通りに現物の『きん』は用意しておいたが、果たしてこれほど大量に用意する必要があるかは甚だ疑問だな」


 巌頭は白髪混じりの髭を厳かに撫でながら、品定めをするようにフレイヤをじろりと見た。その鋭い眼光に、フレイヤは思わずゴクリと息を呑む。


「ワシはこの世界で四十年も宝石を観て、飯を食ってきとるんだ。悪いが、異世界などというお伽話のような言葉に、そう簡単に騙されるとは思わないで貰おうか。どれ、まずはその『お宝』とやらを拝見させてもらおうか」


「ええと………」


「大丈夫よフレイヤちゃん、このお爺さんは変人だけど悪い人じゃないわ。変人だけど物の良し悪しはちゃんと見分けることが出来るし、不当に安く買い叩いたりもするような人間じゃない。だからあまり気にせず、あなたのお宝を見せてあげてね」


 フン、と鼻を鳴らしたあとで「誰が変人だ」などとぶつぶついいながら、巌頭は慣れた手つきでルーペを片目に構えた。


「わかりました、信じます」


 フレイヤは頷き、鞄から取り出した子袋の中身をテーブルの上に広げた――その、刹那だった。


「………………ッ!?」


 巌頭の身体が、まるで落雷でも受けたかのように文字通りガタガタと激しく震え出した。


 構えていたルーペを持つ手が小刻みに震え、限界まで見開かれた眼球が、今にも溢れ落ちそうなほどに石へと吸い寄せられていく。


「な、ななな……なんだこれは……ッ!?」


 さっきまでの厳格な大ベテランの威厳はどこへやら、巌頭は椅子をひっくり返さんばかりの勢いで立ち上がった。


「一見しただけで分かるぞ……! なんだこの鉱物は、こんなものは見たことがない!! 近年流行りの人工鉱物の類かとも思ったが、分子の結合が全く違う! なんだこれは、いったい何の鉱物を使っているのか、ワシの四十年の経験をもってしても、欠片も見当もつかんぞ……ッ!!」


「ちょ、ちょっと巌頭さん、落ち着きなさいよ!あんまり興奮すると体に悪いわよ」


「落ち着いていられるかァ! 日葵、顕微鏡だ! 早く顕微鏡を回せ!!」


 いきなりトランス状態に入って目を血走らせる巌頭の豹変ぶりに、招福まねふく真利亜まりあは顔を見合わせてドン引きしている。


「お母さんが変人っていうだけのことはあるわね………」


 真利亜の言葉に招福は頷いた。


 しかし興奮している巌頭にそんな言葉は少しも届いていない様子で、「 ライトをこっちに当てろ!」「お嬢さん、これはどこで採掘されたんだ!?」と、凄まじい熱量で鑑定室の中を動き回っていた。







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