14話 ~真夜中の来訪者~
丑三つ時に雷鳴が轟いた。
「………」
何も言わずにベッドからガバと体を起こした招福は、枕元に静かに置いてある愛用の木刀を手に取った。
最近、テレビのワイドショーやネットのニュースを連日騒がせている、地域の『外国人グループによるトラブル問題』。公園や街角で大声で騒ぎ、住民ともめ事を起こしては警察沙汰になっているという不穏な噂だ。
普通なら他人事として眉をしかめる程度で済むかもしれないが、自分の住んでいるすぐ近隣、しかも目と鼻の先での出来事となれば話は全く別だった。
何より、妹の真利亜は小柄でアイドルのように整った顔立ちをしている。否応なしに、そうした不埒な連中の不躾な視線を引きつけてしまう危険性があった。
カツン、と衣服の擦れる音すら立てないよう、細心の注意を払ってゆっくりと階段を降りていく。
階下の玄関口からは、鍵穴を執拗に弄るようなガチャガチャとした硬質な金属音が不気味に響いていた。
招福は、木刀を握り締めている両手からあえてスッと力を抜いた。
(重要なのは、完全な脱力だ………)
いざという時に、コンマ一秒の遅れもなく素早く、そして躊躇なく肉体を駆動させるために最も重要なこと。それは緊張を解くことだ。余計な力みは、実戦における初動の動作を著しく阻害する。
(相手がドアを開けた瞬間、できれば一撃で先制無力化を狙いたい。遠慮は無用。命を屠る覚悟でいく)
完全に足音を殺し、気配を消したまま、ついに玄関の三和土へと辿り着いた。
カチャリ、と重い錠前が外れ、ドアが外側へとゆっくりと開いていく。
同時に、眩しい朝の光が隙間から差し込んできた。招福が木刀を上段に構えようとした、その瞬間――。
「ただいまー! 帰って来たよー! 一家の太陽であるお母さんが、はるばるイタリアから帰って来たよー!」
爆音のような明るい笑顔と共になだれ込んできたのは、小柄で、丸っこい体型をした我が家の絶対権力者――他でもない、母親の姿だった。
「お兄ちゃーん! お出迎えご苦労さま!」
(ええっ………!?)
あまりに完璧な肩透かしを食らい、木刀を構えたままぽかんと硬直している招福。
そんな彼の驚愕を置き去りにしたまま、招福はその分厚くたくましい母の体に、がっしりと勢いよく抱き寄せられるのだった。
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