12話 ~無印~
「真利亜、どうかしましたか?」
早くも真利亜の異変を察知した様子のフレイヤが心配そうに問いかけたが、真利亜は引きつった笑みを浮かべ、必死で平気なフリを装った。
「べ、別にどうもしてないわよ。色々なお店があるから、どこから入ろうかなってプロデュースの順序を考えていただけ」
「本当ですか?」
「もちろん! 本当はフロアの全部の店を見て回りたいところだけど、今回はお母様が帰ってくるまであまり時間もない事だし……一つのお店に絞るだけで十分ね」
真利亜は未だに強がっているが、招福から見れば、それは(もう一つのお店にしか行けない。これ以上店員さんと目が合ったら私の精神力が持たない)という、真利亜の心の奥底からの悲鳴にしか聞こえなかった。
(助けてやりたいところだけどな………)
招福は心の中で苦笑する。残念ながら、招福はファッションというものに一切の興味が無い人種だった。
自分の着る服に関しても無頓着なのだから、二十歳の女性の服を選ぶなどというのは、彼にとってはエベレストに軽装で登頂することよりも難しい。
いや、難しいを通り越して不可能だった。従って、このお洒落な空間のどの店に入ればよいのか、どんな服がフレイヤに似合うのかという判断など、彼には全く下せなかった。
「あれ……?」
だがその時、招福が声を上げた。きょろきょろとフロアを見渡した視線の先、遠くの方に見覚えのある、エンジ色に白文字の看板を見つけたからだ。
「あれって、無印良品だよな」
「そうだけど………」
真利亜はぽかんとした顔で兄を見た。
「あそこの店にも、確か服は売っていたはずだ。とりあえず、今日はあそこで全部買いそろえるというのはどうだろう?」
無印良品なら、招福でも知っているし、入ったこともあった。以前、真利亜から「どうしても無印の『不揃いバウム』が食べたい」とねだられ、別の店舗に買いに走らされた経験があったのだ。
あの店は、基本的に店員が無意味に話しかけてくることはない。お互いに適度な距離感を保ったまま買い物を楽しめる、人見知りにとってはまさに「オアシス」のような空間だ。あそこなら、真利亜も緊張せずに服を選ぶことができるはずだった。
「それに、僕もちょうど夏に向けて新しい服が買いたいと思っていたところなんだ。真利亜、アドバイスをくれるとありがたい。その代わりと言っては何だけど、今回は全部僕の奢りっていうことで、好きなだけカゴに入れていいからさ」
「………っ」
招福の言葉に、真利亜の瞳がパッと輝いた。兄が自分に助け舟を出してくれたこと、そして自分の見栄を汚さずにいてくれたことを瞬時に理解したのだ。
「……し、仕方ないわね。お兄ちゃんがそこまで言うのなら、今回は無印良品でもいいわよ。あそこの商品はデザインがシンプルで使い回しがしやすいし、何より生地の質が良いのよね」
「うん、助かるよ。頼むね」
「フレイヤも、それでいい?」
「もちろんです!私はこの世界のことは分かりません。真似浮くと真利亜に任せます」
「決まりね。それなら、あそこにしましょうか!お金とかは余裕だし私のファッションセンスを見せてあげたかったところだけど、まあ、今回は、ね………」
真利亜は声のトーンを露骨に明るくし、明らかに安堵した様子で無印良品に向かってトコトコと歩き出した。その足取りは、先ほどまでのタヌキのような震えが嘘のように軽やかだった。
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