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剥製屋事件簿<山わらわ>  作者: 仙堂ルリコ


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6/9

大往生

 その夜、早い時間にマユは出現。

 早速、薫とのやりとりを詳細に報告した。


「……『生首現場』は『ワイヤー切断の事件』?」

 マユも、失念していたのか。

 いや、違った。

「あれはネットで『首』で検索しても出てこない筈。報道では『身体の一部を切断』だから。被害者は相当な殺人事件オタクね」

 と感心している。

 君だって……と、思った。(言わないけど)


「薫の推理は、どう思う?」

 マユは暫く考え……首を傾げた。


「時間的、物理的に可能ではあるわね。でも……憶測の段階だと思う」

「憶測だと、薫自身も言ってたよ」


「想像部分が多すぎるわ」

1 母親と子がトイレに行った(店主の証言)

2 被害者が入店、トイレに(薫が目撃)

3 父親がトイレに行った(店主の証言)

4 父親が被害者の入っている個室のドアを壊し殺害

5 被害者のジャケットを着た母親が店から出た(店主は後ろ姿を見た)

6 裏口から父親と母親で遺体を車に運ぶ

7 橋の上に遺棄

8 店主がトイレの鍵が壊れているのを確認


「4から7が、想像の段階でしょ。可能だった、だけ」

「まあ、そうかな」

「可能=犯人では無いでしょ。たとえば……薫さんにも犯行は可能だった」

「へ?」

「被害者の後を付けてトイレに向かったの」

「いや、無理だろ。ばーちゃんも父親も店内にいた。なにより俺と電話中だよ」

「おバアさんは見ていなかった。父親は携帯電話、触っていた。薫さんなら携帯は胸ポケット、スピーカーにして、セイと話ながら殺人くらい出来そうよ」


「……ま、絶対無理ではないか」

「3つあるトイレの、2つは母親と子供が使っていた、あと1つの個室に入りかけた被害者を殺害。トイレの隅に遺体を置き、鍵を壊す。その時上着をゲット。外から見て鍵は壊れドアが半開きになっていたら、誰も使わない」

「それで?……被害者のジャケット着て出て行ったのは?」

「薫さんよ。上着は店の中に隠していた。座敷のどこか」

「続きは分かったよ。店を出た後、裏口から引き返す。被害者の上着を羽織り、膝曲げて身長低く見せて、ささっ店を出る……」


「おバアさんの注意を逸らすために、電話かけてね」

「で、あとからトイレの遺体を回収?」

「暗くなってから共犯者が車で回収に来たの」

 と聖を指差す。

「え? 俺?」


「おばあさんに不審がられない。時間的にも可能よ」


「……その推理、穴だらけだよ。被害者を追って店の中で殺した、それって誰かに見られる可能性高いじゃん。トイレに遺体を放置? これも誰かが覗く可能性はゼロじゃない。他に客が無かったのは偶然だ。何よりも、薫には全く動機が無い」


「その通りね。薫さんの推理も同じだと思わない? たとえば、3人家族より、被害者より先に、薫さんが酒屋を出たのは、たまたまでしょ。薫さんもトイレに行ったかも知れないしね」

「……そりゃ、そうだ」


「動機が不明も同じ。計画的な犯行だとしたら、わざわざ酒屋のトイレを選ばない。じゃあ突発的なトラブル?……それがね。どうしても想像出来ないのよ」

「そうだよね。たまたま酒屋で一緒になった家族連れ、だもんな」

「……お金目当てでも無いし。怒りが乗じて殺意に、というのも考えにくいでしょ」

「殺す、だけが目的とか」

「快楽殺人?……家族連れよ。しかも田舎の店のトイレで、それ殺る? 変でしょ」

「確かにね」

「分からないわね……車で連れ去られたに違いないと、思っていたから」

「新たに、意外な情報が出てくるかも知れないしね」

「……そうね」

 マユはこの事件に関心が高まっている様子。

「捜査に進展があれば、薫が知らせてくれるよ」


 翌日、酒屋の前を通ると

 駐車場に警察車輌が数台停まっていた。

 店先には「臨時休業」の札。

 

「警察が調べているみたいだよ」

 とマユに報告。

「それって被害者が店を出た痕跡が見当たらない、って事かしら?」

「念の為、事件当時に壊されていたトイレを調べてるのかも知れないしね」

「カオルさんから、何も連絡は無いのね?」

「うん。こっちからは聞けないしね」

 ……待つしか無い。


 1週間過ぎても薫から連絡は無い。

 事件の続報も無い。


 酒屋は店を閉めたままだった。

 捜査は終了した様子であるのに……。


12月10日

 山田動物霊園にシロを迎えに行くと

 悠斗が、酒屋の主が心配だと、言う。


「昨日の夜、店の前を通ったんです。そしたら2階の明かりが点いてなかったんですよ。どこかへ行ったんですかね」

「ばあちゃん、居ないんですか……」


「捜査官がバタバタ出入りしてましたよね。対応に疲れて、倒れたんじゃないでしょうか?」

「まさか。あの、(超パワフルな)ばあちゃんが?……大丈夫でしょ」

 聖は、ありえないと思った。

 しかし、すぐに自分の認識が正しくないと気付く。

 年齢を考えれば、悠斗の心配は尤もだった。

 

「……そっか。何かあったかも」

「セイさん、近所の人だったら、知ってるんでしょうかね、」

 

 話の最中に聖の携帯電話が鳴る。

 <幸森>からだった。

 (資産家、幸森一族の老人)


「三代目(神流剝製工房の三代目)、今、ちょっと喋ってもええか? あんなあ、酒屋のばあさんなあ……」

 そこで言葉を切り、溜息。

 長過ぎる沈黙。

 何? 

 心がざわつく……。

 

 スピーカにして、悠斗と一緒に、

 続きの言葉を持つ。


「ワシなあ、ばあさんは、八十、五六やと、思てたんや。……なんとなあ、94才、やってんて。そんだけ生きてな、間際まで、動いて食べて喋って……大往生やな」 


「だいおうじょう……」

 悠斗は、復唱しながら……ゆっくり顎を上げ……空を仰いだ。

 灰色の雲で覆われた冬の空を。

 

 心配したことが起こっていたと、悟ったのだ。


「コウモリさん、もう1回、言って下さい、ばあちゃんが、どうしたんですか?」

 聖は、訃報を告げられたと、分からない。

 

「昨日の朝、神戸の孫が迎えにきてん。そろそろ1人で置いとかれへんとな。ほんでな車の中でな……死んだんやで」

「え……ええつ。ばあちゃん、死んじゃったんですか?」

 なんで、

 と、子供のように問うていた。




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