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剥製屋事件簿<山わらわ>  作者: 仙堂ルリコ


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13/13

マユの解説

 いつしか吹雪はおさまり、

 辺りがオレンジ色に輝いている。


 ……陽が暮れ始めている。

 聖は帰り道を急いだ。

 

 早く帰ってマユに

 盛りだくさんの<奇想天外な事実>を

 報告しなければ……。


 マユは

 死体が生き返ったと聞いて、ひどく驚いた。

 獣医の話には微笑んだ。 

 イノシシが切断した足を食べた話には……(ふーん)と頷いた。


「怪奇現象だろ? レオに『どういうコト、やったんか、教えて欲しい』って言われたんだ」

 自分には説明不能。

 マユが解説してくれるのではと

 期待していた。


 マユはゆったりと椅子に身体を預け

 視線は聖でも剝製達でも無い

 遥か遠くに注がれている。


「ピンク色のリュック……それでモモタロウと呼ぶことにしたのかしら?」

「あ、そうかも」

 聖は全く気付いてなかった。


「セイ、昔話の桃太郎には猿とキジと犬が出てくるわね」

「そうだっけ」

「モモタロウ君が出会ったのは、猟犬と、漆黒のイノシシ……そしてフクロウみたいな獣医さん、かしら」 

  マユは面白そうに笑う。

「結果、自分を殺した父親を抹殺。鬼退治完了ね。めでたし、めでたし」

 両手を合わせて2回、叩く。

 柏手?

 パンパンと音はしないけど。


「何?……昔話の再現、ってコト?」

 メンツと状況が、チョコッと被ってるだけだし。

 恐ろしい怪奇現象なのに、のどかな話になってるんだけど……。

 

「セイ、さっき怪奇現象、と言ったわね」

「怪奇現象だよ。子供の死体が喋ったんだ」


「猟師さん達は、怪奇現象と恐れなかったんでしょ。奇跡が起こったと受け止めたのかな」

「奇跡?……そうも呼べるのか。奇跡だとしたら……そうか」

 奇跡を起こせるのは、カミしかいないではないか。  


「親に殺された子を哀れに思い、山のカミサマが生き返らせてくれたのか」

「山神に、たかが人間の子1人、気に掛けるような慈悲はないわ」

「……ないのか」


「真っ黒なイノシシは、吉野の山神様のモノかもしれないわね」

「え? あのイノシシ、カミサマの使い!」

 見た目通り、普通のイノシシではなかったのか。

 解体して剝製にしてしまったんだけど。

 罰当たりな所業だったりして……。


「大丈夫よ。剝製になって山に戻った。イノシシの思い通りになったのよ」

 イノシシの思い通り?

 なにそれ?


「モモタロウ君を助けたのはイノシシの意志でしょうね」

 黒いイノシシは子供のところまで猟師達を誘導した。

 その後、側におり

 全回復を見届けた頃に命果てた。


「マユ、フクロウみたいな獣医もカミサマの使い?……潰れた足を切り取ってイノシシに食べさせたのは、蘇生のために必要だったから?」


「獣医さんは呪術使いかしら。たまたま加わっただけの」

「たまたま、なんだ」


「その獣医さんを呼んだのは猟師さんでしょ?」

「そうだよ」


「なんとしてでも生かしてやりたいと、手を尽くしたのね。気味悪いとも思わずに」


 マユに言われて

 矢馬とレオの行動は当たり前では無いと気付いた。

 心臓が止まっているのに笑って喋ったのだ。

 ……ゾンビ、だよな。

 キャーッと叫んで逃げ出すのが普通かも。 


「マユ、もし矢馬さんが助けなかったら、モモタロウはどうなってた?」

「そうね……妖怪になってたんじゃない? 山に棲む子供の妖怪とかに」

「えーと、それって山童とかいう……カッパと同類の妖怪かな。俺はてっきり、」


(空想のキャラと思っていた)


 出かけた言葉を飲み込んだ。

 美しい幽霊が

 目の前に存在している。

 妖怪だって居るにちがいないのだ。

 でも、こういう話はマユとしたくない。

 マユが生身の人で無い、とか

 時々山神様が降りてきている感じ、とか

 意識したくないから。


「カオルがね、あっちの事件、殺害動機が分かったと、言ってたよ」

 話題を変えた。


「まあ。そうなの。で?」

 マユの白い頬が淡い光を放つ。

 瞳は、好奇心で煌めいている。


「あ、ゴメン。殺害動機は聞いてないんだ。『長井は酒屋に入って来た白豹女を、見てなかったんやな』って。それだけ。意味不明だろ」

 

 がっかりさせたと思ったら

 マユは満面の笑み

「やっぱりね」

 と。

「え? マユには分かったの?」


「ええ。長井が『子殺し』と分かればね。繋がるのよ。……発端は、電話よ」

「電話?」

「そう。酒屋でカオルさんが、セイと電話で話しているのをね、側で聞いたのだと思うわ」

「えーと、何話したっけ……」

 真っ黒な猪、吉野、

 <喰刀庵>で、<片足のない男の子>を見たと、話した。

 若い猟師が抱いていた。

 兄弟らしいが似ていない。

 5才くらいで色白で真っ赤な頬。

 真っ黒な髪と瞳の可愛い子で、

 右足の、膝から下が欠けていた


 大きな話し声は、長井に聞こえたのか。

 

 もしや聞こえてきた会話の

 <片足の無い男の子>に

 引っかかったのか?


 片足を骨折させ

 リュックに氷を積めて

 川に落として殺したはずが、

 遺体は未だ見つからないのだ。


 よもや

 生きてはいまいと思いながらも

 遺体を見るまで100パーセント確信できない。

 だから、

 吉野にいるという<片足の無い男の子>が

 殺したはずの子である可能性は、ゼロでは無いのだ。


「ねえ、喰刀庵を携帯電話で検索すると思わない?」


 (ひとりで御馳走食べてきたん?)

 そんな風なコトを薫は言っていた。

 料理屋とは分かった筈だ。

 広い吉野の、どこにあるのか。

 直ぐにでも確認したいのではないか。


「長井は焦って検索していたから、被害者が入ってきたのに気付かなかったのか」

 長井は妻に知らせに、慌ててトイレに行った。


「でね、ドア越しに一気に喋ったの。中に居るのは、奥さんと娘だと思い込んでるから」

 妻子は(トイレの奥のドアから)外に出ていた可能性がある。

 たとえば車に物を取りに行ったとか。


「それ、ヤバイ展開だな……物騒な話、聞いちゃったんだ」

 

 タクトは、まさか生きてないよな。

 そんなはずないやんな。

 ヨシノや言うてた。

 料亭で見たんやて。

 片足の無い子がおったんやて

 俺が潰した足、もし生きてたら切断してる。

 そう思わんか?

 仰向けで沈んで流されていったんや。

 死んでる筈や、なあ。

 

「誰かと間違えて、分けの分からないコト言ってる……、その程度に受け止めていたら良かったのにね」

「俺だったら、ゲームがドラマの話か、妄想かと聞き流すかな。まさかリアルな人殺しの話だと思わないよ」

「『遺体発見現場巡り』の人でしょ。殺人事件を臭わせるフレーズが耳に飛び込んで来た。刑事並みに、反応しちゃうでしょ」

 タクト、ヨシノと検索すれば

 <長井タクト君行方不明>の記事が出てくる。

 ……読んでしまう。

 

 さっさとトイレから出て、

 その後でいいのに

 記事を読んでしまった。


 やがて長井は自分の間違いに気付く。

(外から娘の声が聞こえたのかも知れない)

 一瞬にして青ざめる。


 自分は、誰にどこまで喋ってしまったか。


「犯人は中に居る人物の、僅かな気配でも探ろうとした……被害者の方は殺気を感じ、出るに出れなくなったの」

「マズイ展開だな。出てこなかったら、話は聞いたと、知らせてるようなもんだ」


「切羽詰まった被害者は、現在の状況をSNSで発信しようと思いついたのじゃないかしら」

「そんなメッセージは出てないよ」

「操作を始めた気配をね、察知されたのだと思う」

 指先が動けば腕も肩も動く。

 僅かな衣擦れの音。

 緊張と興奮で変わる呼吸音。


「携帯取り上げなきゃヤバイ、って焦ったのか」

 息づかい、気配から女だと見当は付く。

 長井はドアに体当たりして突入。

 女が手にしていた携帯電話を奪う。

 女はヒイヒイ言っている。

 叫ぼうとしているのに……パニックで息が吸えないのだ。

 大きな声は出ない。

 怪物を見るような怯えた目が、

 長井の凶暴性を煽ったのかもしれない。

 気付けば帽子を掴み取り、

 歪んで開いている女の口に、突っ込んでいた。

 

「続きは俺にも分かるよ。携帯電話は『遺体発見現場巡り』のメッセージ入力画面だったんだ」

 長井は被害者が『生首現場』に向かっていると知った。

 近場であった生首事件を検索。

 最初に出てくる動物霊園の橋が『生首現場』と思い込んだ。


「遺体はトイレ奥から車へ運び、長井の妻が被害者の白豹ジャケットを着て、酒店を出た……カオルの推理どおりだろうな」


「カオルさんは正しかったの。わからなかったのは殺害動機だけ。やっと全ての謎が解けそうね」

 マユは嬉しそうだ。

 しかし聖は少々凹んでいる。


(違ってて欲しかったけど、やっぱりアレ、やったな)

 謎だった薫の言葉に、

 いまは同調しているのだ。





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