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剥製屋事件簿<山わらわ>  作者: 仙堂ルリコ


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12/13

殺害動機

「鬼の所業じゃないですか」

「そうや。鬼や。……モモタロウも鬼やと言うた。あの男な、河原でウロウロしとってん。モモタロウが最初に見つけてな、『オニがおる』と。大きな声で言うたんや」

 矢馬は愉快そうに回想。


「情けない鬼やったで。モモタロウ見て、悲鳴上げよった。甲高い声でな」

 長井は死んでいるはずのタクトを見た。

 あまりのショックで

 完全に気が触れたのか?


「それから、長井はどうしたんですか?」

「腰抜かしてな。犬に吠えられて、泣きながら土手を這って逃げて行った」


「土手を……農道に車を停めてたんですかね」

「そうや。農道から車がえらいスピードで滑り降りてきた」


「あの……オフロードの車じゃ無いですよね?」

「そうやし、チェーンも巻いてなかったで」

「スノータイヤだとしても……無茶ですよね。雪が積もった河原に降りちゃうなんて」


「モモタロウをひき殺そうとしたんや。ワシらは逃げかえった。それだけや。あとのコトはしらんで」  

 矢馬達は大型のパジェロで楽々と雪の山道を帰って行ったのだ。

 

 河原に残った長井はどうしただろう?


 携帯電話は繋がりにくい。

 車は絶対農道に上がれない。


 一番近い民家は喰刀庵と矢馬のログハウス。

 どちらも徒歩だと3時間以上。

 

 長井は雪路を歩いて行く気力も

 目的地も、無くしたのだろう。


「あの男が焼け死んだからな、遅かれ早かれ警察が来ると思ってた。……困ったもんやと。正直に全て話したところで、信じてくれんやろと」

「……まあ、そうでしょうね」

「剥製屋の兄ちゃんから、うまいコト言うてくれへんか? モモタロウが泣かんでええように、考えたって。ワシは刑務所に入るコトになってもええねん。あ、しやけど、あの男はホンマに殺してないで。自分で火、付けよったんやで」

 矢馬は 

 長井殺しを疑われる立場だと、理解しているのだ。

 

「分かってます。自分は『人殺し』は見れば分かりますから」

 聖は口を滑らせてしまった。

「貴方は人殺しでは無い。レオ君も、勿論人殺では無い。断言できます」


「……レオは人殺では無い」

 矢馬は復唱する。

 ……聖を見つめながら。  


「昨日一緒に来た刑事に話します。アイツは大丈夫です。きっと、何とか出来ますよ。今後の事は直接矢馬さんに伝えて貰います。携帯電話の番号を教えて貰えますか?」

 聖は腰を上げた。

 聞いた話を忘れぬうちに、薫に電話しようと。

 矢馬は(分厚い和紙の)名刺を呉れた。


「あの、レオ君と話さなくていいですか?」

 別れ際に聞いた。


「ああ、ええよ。ワシが話しとく。兄ちゃんが、レオは人殺しや無いと、きっぱり言うたと、伝えとく。ソレ聞いたら安心するやろ。霊感剥製士はホンマモンやと分かるからな」

「?」

「兄ちゃんに全て任せといたら、悪いようにはせえへんと、納得するやろ」

「……はい」

(レオは人殺しでは無い)

 言い切った自分を信頼してくれたと、分かった。 


 矢馬は、孫が誰も殺してないと、知っている。

 おそらく

 レオが犯してもいない傷害致死の罪を背負った事情も、

 聞いているに違いない。

 


 ログハウスから少々離れた場所で車を停め薫に電話した。

「終わったんやな」

 報告を待ち構えていたようだ。


 聖は矢馬が語ったままを伝えた。


 薫は驚かなかった。

 聞き返すこともなく、時折メモを取りながら聞いていた。


「黒い瓜坊は、ややこしいから省いた方がええな。ほんで『知り合いの獣医』は『通りすがりの医師らしき観光客』に置き換えるで。『死体が生き返った』は仮死状態に、しとこうか」

 添削作業かのようにサクサクと事務的。

 怪奇現象を<わかりやすい事実>に再構築しているのだ。


「吉野の猟師が川で仮死状態の長井タクトを発見。負傷の状態、医師らしき男の見立てから両親に殺害を試みられたと判断し、保護した。その後献身的に看護。長井が焼死したと知り通報に至った。こんでスッキリするやんか」


「ホントだ。メッチャすっきりした話になった。……あとは、矢馬さんと直接、打ち合わせて」

「了解。セイ、おおきに(ありがとう)。こんで(これで)長井の妻は、タクト殺人未遂の参考人や。拘束できる。あっちの事件も、解決やな」

 あっちの事件とは

 <遺体発見現場巡り>の女が、殺された事件だ。


 薫は長井夫婦の関与を確信していた。

 しかし長井は焼死。

 証拠となる<靴>も<車>も焼滅。

 妻は被害者との接触を全否定した。

 偽証であっても嘘を暴く材料は無かった。

 

 妻を尋問できれば、

 観念して、あっちの事件も自白すると?

 証拠が無い状況は変わってないのに?


「謎やった『殺害動機』が出現したからな」

 長井はなぜ、行きずりの女を殺したのか。

 理由が現れ出たと薫は言う。

 

 一体どんな理由なのか?


「もしやアレかと、閃いてはいたんや……違ってて欲しかったけど、やっぱりアレ、やったな」

「アレって?」


「長井は酒屋に入って来た白豹女を……、見てたかったんやな。トイレにおるの、知らんかったんや」

 意味不明。


「何はともあれ、モモタロウは俺が守る。あんなちっこいのに殺人未遂の被害者や。しかも被疑者は親。レアなケースやからな。今後の保護も本人のメンタル重視の慎重な対応になる。現在が好環境であるなら、無理に引き離したりせえへん」

 早急に矢馬と話す必要があると、

 電話を切った。


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