第41話 兄、妹プロデュースのファッションショーに強制出演
朝の教室。
ガララッとドアを開けて入ってきた城ヶ崎春は、昨日よりも明らかに表情が暗い。
「……あのさ、俺……今日は絶対に帰りたい。無事に、平穏に……」
「無理だよ」
隣の席の男子が即答した。
「なぜだ!?」
「お前の妹が、今朝の校内放送でこう言ってた。“今日は兄さんがモデルデビューします♡ 乞うご期待!”」
「俺の知らないところで勝手に芸能界入りすなァァァァ!!」
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事の発端は一週間前にさかのぼる。
教室で、結衣がニコニコしながらこう言ったのだ。
「ねえ兄さん、学園交流イベントって知ってる?」
「え? 他校との文化交流とかやるやつだろ? 俺は出ないけど」
「兄さん、出るよ?」
「なんで!? 話聞いてた!?」
「だって、春さんにこそ“文化”があるんだもん♡」
「その文化、たぶん絶滅危惧種のほうだぞ!!」
結衣は、学園イベントを全面的にスポンサーとして“買収”。その代わりとして自らが目玉企画を用意した。
それが――
《兄さんファッションショー☆~愛と偏愛と全力妄想でお届けします~》
だった。
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イベント当日。
巨大な体育館が「兄さん一色」に染まっていた。
「なんだこの装飾……!? 兄の顔モチーフのバルーン!? Tシャツ!? ペンライト!? 完全にライブ会場じゃねぇか!!」
観客席には、妹ファンクラブの女子生徒がペンライトを振っている。中には「兄神推し」と書かれた法被を着ている者も。
「おかしい……妹の狂気、学園に伝染してる……!」
舞台裏では、プロのスタイリストらしき人物が春の髪型をセットしていた。
「お兄様の髪質、神ですね……セットしてるだけで人生が浄化される……」
「誰だよお前!? なんでプロが来てんの!? 誰が呼んだの!?」
「もちろん、結衣様です」
「やめろォォォォ!!妹の人脈が業界すら超えてるゥ!!」
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一方、別の控え室では――。
「ふふ、私が“春様”の衣装を担当するなんて、責任重大ですね♡」
と、やる気満々の凛。
その隣で腕を組んでいたのは梓。
「……くだらない。なぜ私が、あの騒動に巻き込まれねばならないのかしら」
「“春様の麗しき瞬間”を見逃すなんて、人生の半分損してますよ」
「うるさい黙れ、変態メイド」
「ありがとうございます。お褒めの言葉として受け取ります♡」
梓はため息をつきつつ、衣装のリストを見て渋々言った。
「……で? なぜ私の役が“ツンデレ姫騎士”衣装なのか説明してくれる?」
「春様とツーショットで映えるからです」
「撃つぞ」
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そして――ファッションショー開幕。
MC(生徒会広報)が叫ぶ。
「お待たせしましたァァ! 栄光のランウェイ第一走者、我らが兄神!!」
照明が落ち、音楽が流れる。
スポットライトの先には――
ピンクのふわふわしたフリルシャツに、王子っぽいケープを羽織った城ヶ崎春。
「なんだこの衣装ッ!! どこで使うんだこんなの!!」
歓声が上がる。
「兄さんーー!!」
「キャーー!目が合わせてくれた!!」
「今年の兄、最高に仕上がってる!!」
春は自分の精神が崩壊していく音を聞いた気がした。
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その後もファッションショーは続く。
・“読書中の兄さん”ルック(眼鏡+シャツ+部屋着風)
・“戦場を駆ける兄さん”(迷彩+包帯+なぜか大剣)
・“ウェディング兄さん”(白タキシード+バラ)
「……なんでウェディング衣装着せられてんの俺!? 誰と結婚するの!? って結衣がタキシード姿で横にいるゥゥ!?」
結衣「兄さんと、永遠の兄妹契約♡」
春「すでに家族なんだがァァァァァァ!!!」
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イベント終了後、ステージ裏。
春はぐったりしていた。
「……俺の、尊厳……。どこ行ったんだろうな……」
そこに現れる結衣、凛、梓。
結衣「兄さん、最高だった♡ 衣装、あとで洗って額に入れて飾っておくね!」
凛「春様の優美なる立ち姿……10年は夢に出てきます……♡」
梓「……何も言わない。何も考えない。私は全てを忘れる」
春「誰か、まともな人間はいないのかこの世界……!!?」
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こうして、如月学園史に残る“兄ファッションショー”は幕を閉じた。
が、結衣の“兄活プロジェクト”はまだまだ続くのであった――。




