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第35話 誰だよその男…

如月学園 昼休み。

購買前にて、兄・城ヶ崎春は、焼きそばパンを片手に歩いていた。


「お、今日はまだ残ってるな。珍しくラッキー……」


その時だった。

視界の端、校舎裏の植え込みの前で、見慣れた銀髪の少女が立っている。


妹・結衣。そして――


隣に、知らない男子生徒。


しかも結衣が、満面の笑みで話している。


「えっ……誰だ、あの男……?」


春の足が止まった。


・至近距離で話してる

・笑い合ってる

・なんか、空気が甘い……ような気がする


「ま、まさか……妹に……彼氏……!?」


春の手から焼きそばパンが落ちた。



午後の授業中。

ノートに走らせたはずのペンは、いつの間にか文字ではない謎の線を描いていた。


(落ち着け俺。まだ確定じゃない。仲のいい後輩かもしれない。いや、でもさっきの距離感は明らかに……)


「……城ヶ崎」

「……はいっ!」

「いま黒板の図、どこを説明してるか言ってみろ」

「え、ええと……兄が妹の隣で泣いてるとこ?」

「アホか立 立ってろ!」


クラス爆笑。

春、顔面蒼白。



放課後。

いつもなら結衣が校門まで出迎えに来るはずだが、今日は姿がない。


「本当に……付き合ってるのか……?」


春の頭の中では、“妹と謎の男の妄想イチャイチャ劇場”が無限再生中。

――体育祭でお揃いのリストバンド

――図書室で手が触れてドキッ♡

――夏祭りで浴衣姿で「今日だけは先輩じゃなくて、名前で呼んでください……」


「やめろぉぉぉぉぉ!!妄想止まれえええ!!」


通行人がビクッとする。

春はひとり、地面に膝をついていた。



その日の夜。

リビングにて。


結衣「兄さん、今日の夜ご飯、兄さんのために特製ビーフシチュー作ったんだよ~♡」

春「……あ、うん」

結衣「……?」

春「お前、さ……今日、昼間、誰と話してた?」


結衣「へ?」


春「校舎裏で。笑ってた。男と。なんか……楽しそうだった」


しん……と、空気が止まる。


結衣「もしかして――焼きもち焼いてるの?」

春「やっ、焼いてない!! ただ、ちょっと気になっただけで……!」


結衣はくすりと笑う。

「兄さん、やっぱりかわいい♡」


春「かわいいって言うな!!俺は兄だ!守る側だ!!」

結衣「うん、でも――守られるのも悪くないでしょ?」


にっこりと笑う結衣。


春の脳内、ドーンという擬音と共に恋愛脳が混乱する。


(くそっ……やっぱり気になる! 明日、絶対正体を突き止めてやる!!)


翌朝。


兄・城ヶ崎春は決意していた。

「絶対に白黒つけてやる……あの男の正体、俺が突き止める!」


そんな意気込みのもと、朝の教室で一人ノートに「結衣 男 調査」とでかでかと書き出していた。


「えっと……昨日の時間帯と、校舎裏ってことは……B棟の2年かな……」

「……兄として、妹の安全は守らなければ……!」

「いや、別に心配とかじゃなくて、純粋に……純粋に……」


クラスメイトたちのささやきが聞こえる。


「また“妹の兄”が朝から病んでるぞ……」

「今朝もノートがヤバい。“結衣 男 調査”って……」

「恋する乙女かよ」


「違う!! 兄だ!! 兄なんだ俺は!!」



昼休み。

春は弁当を早食いで片づけ、校内捜索へ。


(あいつ……昨日、どこにいた……)


視線を走らせていると――いた。

中庭のベンチ。

銀髪の結衣、そして……あの男子!


(いたーーーーっ!!)


その男は、明らかに挙動不審だった。

結衣の顔をまじまじ見つめ、汗だくで、なぜかスケッチブックを取り出している。


(え、スケッチ……!? なんか描いてる……)


そして数分後。


「これ……受け取ってください……!!」

そう言って差し出されたのは――


“妹・結衣の自作抱き枕イラスト”


春(「うわあああああああ!!!!」)


男「ずっと、結衣様のファンでした!! 勝手にグッズ作ってすみません!! でも、この情熱だけは……本物です!!」

結衣「ふふ、ありがとう。でも個人利用の範囲でお願いね♡」

男「はいぃぃぃぃ!!」


 


春「……そっちかーーーーい!!!!」



放課後。

妹と帰り道、ようやく気持ちが落ち着いた春。


「……お前、あんな奴にまで笑顔向けてんのかよ」


「うん、だってファンの人って大切でしょ?」

「兄さんがいてくれるから、ファンの人とも楽しく接する余裕ができるんだよ?」


春は言葉を失った。


「兄さんが“いちばん”だから、他の人には優しくできるの♡」


「な、なにその理屈……ずるいぞ……」


「ずるいの、好き?」


「俺の思考回路がショートするからやめろぉぉぉ!!」



その夜。

春の部屋の前に、そっと紙袋が置かれていた。


中には――手作りの兄専用お守り

そして、メッセージカードにはこう書かれていた。


『兄さんは、結衣のたった一人の“本命”だよ♡』


 


春「……こっちが、やられてんじゃねーか……」

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