第35話 誰だよその男…
如月学園 昼休み。
購買前にて、兄・城ヶ崎春は、焼きそばパンを片手に歩いていた。
「お、今日はまだ残ってるな。珍しくラッキー……」
その時だった。
視界の端、校舎裏の植え込みの前で、見慣れた銀髪の少女が立っている。
妹・結衣。そして――
隣に、知らない男子生徒。
しかも結衣が、満面の笑みで話している。
「えっ……誰だ、あの男……?」
春の足が止まった。
・至近距離で話してる
・笑い合ってる
・なんか、空気が甘い……ような気がする
「ま、まさか……妹に……彼氏……!?」
春の手から焼きそばパンが落ちた。
◆
午後の授業中。
ノートに走らせたはずのペンは、いつの間にか文字ではない謎の線を描いていた。
(落ち着け俺。まだ確定じゃない。仲のいい後輩かもしれない。いや、でもさっきの距離感は明らかに……)
「……城ヶ崎」
「……はいっ!」
「いま黒板の図、どこを説明してるか言ってみろ」
「え、ええと……兄が妹の隣で泣いてるとこ?」
「アホか立 立ってろ!」
クラス爆笑。
春、顔面蒼白。
◆
放課後。
いつもなら結衣が校門まで出迎えに来るはずだが、今日は姿がない。
「本当に……付き合ってるのか……?」
春の頭の中では、“妹と謎の男の妄想イチャイチャ劇場”が無限再生中。
――体育祭でお揃いのリストバンド
――図書室で手が触れてドキッ♡
――夏祭りで浴衣姿で「今日だけは先輩じゃなくて、名前で呼んでください……」
「やめろぉぉぉぉぉ!!妄想止まれえええ!!」
通行人がビクッとする。
春はひとり、地面に膝をついていた。
◆
その日の夜。
リビングにて。
結衣「兄さん、今日の夜ご飯、兄さんのために特製ビーフシチュー作ったんだよ~♡」
春「……あ、うん」
結衣「……?」
春「お前、さ……今日、昼間、誰と話してた?」
結衣「へ?」
春「校舎裏で。笑ってた。男と。なんか……楽しそうだった」
しん……と、空気が止まる。
結衣「もしかして――焼きもち焼いてるの?」
春「やっ、焼いてない!! ただ、ちょっと気になっただけで……!」
結衣はくすりと笑う。
「兄さん、やっぱりかわいい♡」
春「かわいいって言うな!!俺は兄だ!守る側だ!!」
結衣「うん、でも――守られるのも悪くないでしょ?」
にっこりと笑う結衣。
春の脳内、ドーンという擬音と共に恋愛脳が混乱する。
(くそっ……やっぱり気になる! 明日、絶対正体を突き止めてやる!!)
翌朝。
兄・城ヶ崎春は決意していた。
「絶対に白黒つけてやる……あの男の正体、俺が突き止める!」
そんな意気込みのもと、朝の教室で一人ノートに「結衣 男 調査」とでかでかと書き出していた。
「えっと……昨日の時間帯と、校舎裏ってことは……B棟の2年かな……」
「……兄として、妹の安全は守らなければ……!」
「いや、別に心配とかじゃなくて、純粋に……純粋に……」
クラスメイトたちのささやきが聞こえる。
「また“妹の兄”が朝から病んでるぞ……」
「今朝もノートがヤバい。“結衣 男 調査”って……」
「恋する乙女かよ」
「違う!! 兄だ!! 兄なんだ俺は!!」
◆
昼休み。
春は弁当を早食いで片づけ、校内捜索へ。
(あいつ……昨日、どこにいた……)
視線を走らせていると――いた。
中庭のベンチ。
銀髪の結衣、そして……あの男子!
(いたーーーーっ!!)
その男は、明らかに挙動不審だった。
結衣の顔をまじまじ見つめ、汗だくで、なぜかスケッチブックを取り出している。
(え、スケッチ……!? なんか描いてる……)
そして数分後。
「これ……受け取ってください……!!」
そう言って差し出されたのは――
“妹・結衣の自作抱き枕イラスト”
春(「うわあああああああ!!!!」)
男「ずっと、結衣様のファンでした!! 勝手にグッズ作ってすみません!! でも、この情熱だけは……本物です!!」
結衣「ふふ、ありがとう。でも個人利用の範囲でお願いね♡」
男「はいぃぃぃぃ!!」
春「……そっちかーーーーい!!!!」
◆
放課後。
妹と帰り道、ようやく気持ちが落ち着いた春。
「……お前、あんな奴にまで笑顔向けてんのかよ」
「うん、だってファンの人って大切でしょ?」
「兄さんがいてくれるから、ファンの人とも楽しく接する余裕ができるんだよ?」
春は言葉を失った。
「兄さんが“いちばん”だから、他の人には優しくできるの♡」
「な、なにその理屈……ずるいぞ……」
「ずるいの、好き?」
「俺の思考回路がショートするからやめろぉぉぉ!!」
◆
その夜。
春の部屋の前に、そっと紙袋が置かれていた。
中には――手作りの兄専用お守り
そして、メッセージカードにはこう書かれていた。
『兄さんは、結衣のたった一人の“本命”だよ♡』
春「……こっちが、やられてんじゃねーか……」




