第34話 会長、お詫び会やりすぎ問題
如月学園 生徒会室。
朝のミーティング中、机の上には美しく束ねられた金色の封筒が置かれていた。
「……で、これは何?」
梓は眉をひそめる。凛は既に開封済みらしく、横で軽くため息をついた。
「それは、城ヶ崎結衣様からのお詫び会のご案内です」
「“お詫び会”? なにそれ新ジャンル?」
凛が無言で案内状を差し出す。そこには――
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【結衣復帰記念】
“お詫びと感謝とちょっとだけ兄補給の会” 開催のお知らせ
日時:本日放課後
会場:結衣の独断で改装した生徒会室(!)
内容:甘味・兄様・謝罪・感謝
ドレスコード:可愛いもの好きな心
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「内容がうっすら狂ってる……!」
「むしろ濃密に狂っています、会長」
◆
放課後。
生徒会室のドアを開けると、そこには――
「ようこそ、お詫び会へ♡」
主役・城ヶ崎結衣が、ドレス姿で待ち構えていた。
白いレースに銀糸の刺繍。
髪には小さな花飾り。
肌の白さがさらに際立ち、まるで本物のプリンセス。
……ただし、背景にはなぜか兄・春の等身大パネルが大量に並んでいる。
梓「この空間がすでに間違ってる!!」
凛「パネルがこちらを見つめています……」
結衣「これ、全部“春様ver.”だよ♡ セリフもカスタマイズ済み♪」
パネル『君のこと、ちゃんと見てるよ』(音声付き)
梓「誰が望んだカスタマイズよぉぉぉ!?」
◆
着席すると、目の前には立派なティーセットと――
「“結衣様の愛情で炊いた炊飯器プリン”……だと?」
器に山盛りのプリン。
一見美味しそうだが、サイズがどう考えても業務用炊飯器基準。
結衣「この中に“兄成分”がつまってるの!」
梓「何それ!?」
凛「どういったルートで抽出された成分ですか?」
結衣「昨日、春様が“プリンはカラメル多めが好き”って言ってたから、そこに注力した!」
梓「せめて具体的にしてくれ!!怖い!!」
◆
会の本題――**「お詫び」**に入る。
結衣「結衣が風邪で休んでる間、二人ともがんばってくれたって聞いて……感謝とお詫びを込めて!」
凛「恐縮です。春様からも“今日は静かだった”と伺っております」
結衣「それが一番つらかった!!!」
梓「じゃあもっと静かにしてくれない!?」
結衣「できない♡」
結衣は、テーブルの下から“本日のお詫びアイテム”を取り出した。
•梓用:超高級ペンセット(名前刻印入り)
•凛用:春様AIスケジュール連動メモ帳(常に兄の動向を表示)
梓「ありがとう。でも複雑……」
凛「ありがとうございます。春様の出席確認が3秒短縮されます」
梓「便利だけど怖いよ副会長!!」
◆
そして、会の締めに――
結衣「このあと、兄様動画鑑賞タイムだから!」
梓「締めも兄か!!」
凛「すでに10TBのデータが準備されております」
梓「データ量っっ!!」
結局、生徒会室は結衣のペースに巻き込まれ、
気づけば全員プリンを完食し、謎に満足していた。
◆
その夜、春のスマホにはこんな通知が届いた。
【結衣様AI】
『本日、無断で等身大パネルの表情を笑顔に変更しました』
『春様は、いつでも笑顔が一番♡』
春「やめろぉぉぉぉぉ!!」
翌日。
梓と凛は、昨日のお詫び会の余韻に若干の疲労感を覚えながら、生徒会室に到着した。
扉を開けると――
「おはようございますっ!」
笑顔の結衣が、白衣姿で迎え撃ってきた。
梓「いや待って! なんで医者コスプレ!?」
結衣「だって昨日、春様が“最近ちょっと疲れてるかも”って言ってたの……」
凛「まさかとは思いますが、“診察ごっこ”ですか?」
結衣「その通りっ♡ というわけで今日は――“兄様診察計画”!!」
梓「もう“お詫び会”関係なくなってるよね!?」
◆
さっそくモニターに表示される“春様・診察カルテ(仮)”。
血圧・心拍・眠気指数・癒し成分の摂取履歴――
結衣「ほらこれ見て! 春様、昨日の夜はおにぎり2個とプリンしか食べてない!」
梓「なぜそんなに正確に!? 監視してる!? してるな!?」
凛「春様のスマート冷蔵庫に結衣様が仕込んだ“栄養監視AI”のデータと一致します」
梓「何のシステム構築してんのよ!!」
◆
そして次は“兄様の笑顔強化計画”。
結衣が準備したのは――笑顔反射トレーニングマシン・YUItype-R。
結衣「春様が笑顔になるきっかけを、全パターンで再現できる装置だよ♪」
梓「マシン作るな!!」
凛「試運転時、私が真顔すぎて反応がゼロでした」
梓「そういう問題でもない!」
モニターには、
・兄の好きな紅茶を差し出す妹モード
・“おかえり”の一言だけで心を溶かす妹モード
・黙って見守る静かな妹モード(※レア)
が順に再生される。
結衣「これを再現すれば、春様の笑顔が99.8%確率で引き出せるの!」
梓「0.2%のリスクが気になるわ」
凛「なお、残りの0.2%は“兄の胃腸不調時”との相関が確認されています」
梓「医療用語レベルの分析やめてくれ!!」
◆
午後、ようやく落ち着いたと思いきや――
結衣がふいに、真剣な顔で語りだす。
「ねぇ、二人とも……本当は、昨日のこと……ちょっとだけ、寂しかったの」
梓と凛は視線を交わす。
結衣は、普段と違う静かな声で続けた。
「だって、結衣がいなくても、生徒会って……ちゃんと回ってたでしょ?」
「……うん。正直、静かで助かったわ」
「しかし同時に、“足りない”と感じたのも事実です」
「……そっか」
結衣が微笑む。
「じゃあ、これからも結衣は――うるさくて、やりすぎで、兄様バカなままで、いい?」
梓はふっと笑って、凛も小さくうなずいた。
「それが結衣でしょ」
「結衣様が結衣様であることが、生徒会の個性です」
「ありがとっ!」
◆
その日の生徒会室。
お詫び会の名残はまだ残っていたが、
結衣がいて、梓と凛がいて――
そこには、ちょっと騒がしくて、でも心地よい日常が戻っていた。
結衣「さーて! 春様に渡す“兄専用リラックス毛布”の制作会、始めよっか♡」
梓「また始まったーー!!」
凛「なお、毛布には春様の香りデータが刺繍される予定です」
梓「刺繍で再現できる香りって何!?」
――そして、今日も如月学園の生徒会は、
結衣という“常識ブレイカー”のもとで、
とても賑やかに回っていた。




