第18.5話 生徒会、敗北の記録
霧島梓は、誰よりも早くグラウンドに立っていた。
(今日は、生徒会の威信をかけた日よ……)
毎年恒例の運動会。しかし、今年は“異常”だった。
副会長に就任したばかりの橘花凛の一言から始まった。
「今年の運動会、全種目に“城ヶ崎結衣”が出場予定です」
その瞬間、会議室が凍りついた。
「全……種目……?」
「はい。しかも本人曰く『兄さんの応援に全力を注ぎたいから♡』だそうです」
会長・梓は、拳を握りしめた。
(……このままでは運動会が“妹一色”に染まる……!)
(断じて、それだけは認めない!)
梓は号令をかけた。
「作戦名《フェア・プレイ防衛線》を発動する! 目標はただひとつ――“妹の独走を止めろ!”」
───
【第1種目:徒競走】
生徒会の精鋭3名がスタンバイする。
が、合図と同時に、彼女(妹)が“残像”を残してゴールしていた。
「3.2秒て何!?」
「マジで走った!?」
「もしかして時空歪んだ?」
実況席では副会長・凛が冷静に記録を取る。
「……結衣様、また昨年より0.3秒短縮。成長が止まりません」
───
【障害物競走】
「学園最難関の数学問題」
「跳び箱5段」
「ラーメン完食チャレンジ」
三重の壁で結衣を足止めする算段だった。
……だが、彼女は跳び箱の上でラーメンをすすりながら問題を解き、無傷でフィニッシュしていた。
凛「梓様、作戦は失敗です」
梓「っ……! どこまで……どこまで化け物なのよ、あの妹……!」
───
【借り物競走】
生徒会が用意した“どんな生徒にも該当しない”特殊ワード——
《世界でいちばん尊いもの》
梓は絶対に結衣が詰まると踏んでいた。
……結果、連れてきたのは兄・春だった。
凛「作戦、敗北しました」
梓「これはもう倫理の問題よ……!」
───
【最終種目:水上騎馬戦】
梓自身が大将として立つ。
「副会長、作戦は?」
「“正面から勝てると思わず、全力で逃げながら時を稼ぐ”です」
「逃げるのが戦術って何!?」
結衣の乗る馬(全員女子)は恐るべき加速力で進撃してくる。
水柱が立ち、悲鳴が響く。誰かが叫んだ。
「来たぞォ!! 妹砲だァアアア!!」
(こ、こんなの……もはや競技じゃない……)
――そして次の瞬間、梓は宙に舞った。
結衣の突進によって、騎馬ごと水上から吹っ飛ばされたのだ。
視界が回る中、彼女は薄れゆく意識でつぶやいた。
「……学園が……妹に……飲み込まれる……ッ」
───
【閉会式後・生徒会室】
梓は椅子にもたれかかり、濡れた髪をタオルで拭いていた。
「……来年こそは、止めてみせるわ。城ヶ崎結衣……!」
その隣で、凛が無表情で言った。
「梓様、来年の準備案に“物理攻撃の耐性訓練”と、“妹対策講座(兄付き)”を追加しておきます」
「……その講座、兄は来るのかしら」
「来ません。彼も“妹の被害者”ですから」
静かに頷く二人の目には、もう来年を見据えた決意が宿っていた。
学園の秩序を守るため、生徒会の戦いは続く――




