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第19話 兄妹、学園祭をジャックする(気づけば)

――文化祭当日、朝。


「兄さん、今日はお祭り日和だねっ♪」


まだ登校時間でもない早朝6時半。

城ヶ崎結衣は兄・春を無理やり起こして、浴衣姿でご満悦だった。


「……なんで浴衣……しかも自前?」


「この日のために仕立てたの。兄さんにも着てほしいから、はいこれ!」


差し出されたのは、どこか高級そうな紺色のメンズ浴衣。


「いや、学園祭って普通制服じゃない? ていうか、なんで君の浴衣だけ完璧に着付けされてるの?」


「ふふ、凛にお願いして早朝からやってもらったよ。さあ、兄さんも早く着替えて!」


その後ろで、完璧超人メイド・橘花凛がすでに草履を手に待機していた。


「どちらにせよ、城ヶ崎家は準備万端ですので」


「もう何もかも始まってるんだな……」



会場は朝から大盛況だった。


ステージ発表に、模擬店に、写真映えエリアに、謎解き脱出ゲーム。結衣の手腕によって、学園祭は「来場者参加型テーマパーク」に化けていた。


「このメインステージも、ステージ衣装も、スポンサーも、みんな私が手配したの。兄さん、今日のテーマはね……“祭りという名の社会実験”!」


「危険思想が混じってるよね!?」


さらに目を引くのは、結衣による「妹と巡る謎の案内ツアー」ブース。人気すぎて予約制になっていた。


「兄さんには特別にエスコートつきで案内してあげるね! このアプリでルート選んで?」


「アプリまであるのかよ!? どこまで本気だよ!」


「えーと、まずは……“なぞの金魚すくいアトラクション”。」


案内されたブースでは、金魚の代わりにAIが泳いでおり、バーチャル空間に入って金魚を“交渉”で手に入れるという摩訶不思議なゲームだった。


「金魚が『お前は信用できない』って言ってきた……」


「人の信用を得る訓練にもなるでしょ? 初心者は“誠実ルート”で試してみて!」



一方その頃――生徒会本部。


「……また学園が、城ヶ崎結衣に乗っ取られてる……」


霧島梓、生徒会長。冷静沈着な美少女は、今日も結衣の暴走に頭を抱えていた。


「結衣様の主導ではありますが、安全対策は完璧に行っておりますので」


と、さらっと副会長になっていた橘花凛が隣で紅茶を淹れている。


「いやいやいや! 学園行事に社外スポンサー呼びすぎでしょ!? なんで校庭に企業ロゴ入りの屋台が出てるの!? あれ絶対利益出てるわよね!?」


「学園側の収益はすでに文化振興費として還元される予定です」


「おかしいでしょ! 生徒の手作り感がまったくない!」


それでも校長は「とても活気があっていいね!」とにこやか。

梓は胃痛を感じつつも、現場の秩序を守るため歩き出した。



結衣と春は、学園内に設けられた“縁日エリア”へ。


射的、たこ焼き、輪投げ、占い――すべてが本気クオリティ。


「兄さん、あっちの屋台! 私が手作りしたよ♪」


「これ……ちゃんと保健所通してるの?」


「もちろん。凛が全許可とったから大丈夫!」


(その凛って人、いったい何者……)


さらに、兄妹が訪れたのは「妹の屋台」。


「兄さん、ここで特別に“兄妹愛てんこ盛り焼きそば”作ってあげるね!」


「やめろ! 名前がキツい! 注文が恥ずかしい!」


「あ、兄さん照れてる~!はい、焼きそばにハートつけて完成♪」


「……地獄だ、これは……地獄だ……!」


周囲の生徒たちは「結衣様かわいい!」「あれが兄か……うらやましい……」とザワついていた。



午後、学園内最大イベント「盆踊りパレード」がスタート。


浴衣姿の生徒たちが一斉にグラウンドを練り歩くその中心に、結衣と春の姿が。


「兄さん、手つないで踊ろっか♪」


「なんでこの流れでペアダンスになるんだよ!」


「だって“学園の中心で兄妹愛を叫ぶ”ってコンセプトなんだもん!」


「おかしい! そのテーマおかしいから!!」


さらにトドメは、クライマックスイベント「打ち上げ花火」。


大観覧エリアでは、結衣が仕込んだ「兄妹サプライズ告白ムービー」が流れ、春の過去写真や兄妹の日常が映し出された。


「兄さん、いつもありがとう。これからも、ずっと一緒にいようねっ♪」


「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


夜空に上がる打ち上げ花火――

爆音と歓声と笑いの渦の中、春はそっと頭を抱えた。



その頃、生徒会室では。


「……もはや私の知らない学園だわ」


「でも、生徒たちは楽しそうですよ」


「そりゃそうでしょ……。なんだかんだで、あの妹……すごいんだから」


やれやれと紅茶をすする梓の頬が、ほんの少しだけ緩んだのだった。


学園祭の喧騒から一夜明けた日曜日。

快晴。蝉の声がうるさすぎて、部屋の窓を閉めたくなるほどだった。


「……結局、何だったんだあの祭り」


ソファでだらだらと寝転がっている城ヶ崎春は、半分閉じたカーテン越しに照りつける陽光を睨むようにしてつぶやいた。

結衣プロデュースによる“城ヶ崎フェスティバル2025”、略してJフェスは、彼の想像を超えて学園中を巻き込み、謎の経済効果まで生み出して終わった。


妹・結衣はというと……


「兄さーん、起きてるー? あのね、屋台の売上集計してたらちょっとバグってきたんだけど、二日で1500万超えてた☆」


「おかしいだろ! 中学生の経営じゃねえよ、それ!」


「うーん、まあ、イカ焼きとか1枚1000円で売ってたし、生徒会長のメイド喫茶がバズったのも大きかったかも?」


「梓さんは帰り道で魂抜けてたけどな!? “私の尊厳が……粉々に……”って!!」


「可愛かったよねぇ梓さん。しれっと追加料金でツンデレ台詞パック付けたの、わたしのファインプレーだと思う!」


春が抱えるクッションに顔をうずめて呻くと、そこへ新しい影が現れた。


「ただいま戻りました~、お二人とも、今日も変わらずラブラブですね?」


完璧超人お手伝い、橘花凛が買い出しから戻ってきたのだ。


「いやラブラブじゃないからな!? 妹だからな!?」


「なるほど、“妹プレイ”ですね。わかります」


「わかってないどころか誤解を生む言い方すんな!」


凛はにっこりと笑いながら、レジ袋をテーブルに並べていく。中には高級アイスクリーム、炭酸飲料、そして“生徒会長のメイド写真集(非売品)”があった。


「ちょ、なんでそれあるの!? 梓さん、嫌がってたじゃん!」


「結衣様が“ご本人には内緒で”と仰ってたので☆」


「最悪だよこの家!!」


そこへ、タイミングを見計らったようにピンポーンとチャイムが鳴る。


「……この流れで来るって、嫌な予感しかしないんだけど」


玄関を開けると、そこにはスッと背筋を伸ばした霧島梓がいた。


「城ヶ崎春。これは返しに来ただけよ」

手には、祭りの時に羽織らされた“ネコ耳フリルエプロン”が。


「マジでごめんなさい!! うちの妹とお手伝いが暴走して!」


「……まあ、思ったより評判は良かったし……その……ありがとう」


「今なんて言った!? ありがとうって言った!? 録音していい!?」


「言ってないっ!! 黙れ庶民!!」


そこへ結衣がひょこっと顔を出し、にこにこと手を振る。


「梓さん~♡ 明日からもよろしくね☆“副生徒会長・橘花凛”と連携して、学園改革進めましょう♪」


「ふざけないでよ!? どうして勝手に副会長にしてるのよ!!」


「じゃあ“影の副会長”で☆」


「もっと悪質じゃないそれ!?」


このように、祭りが終わっても――日常はにぎやかで、どこか非日常だった。


学園に残したJフェスの痕跡は、グッズ化、人気投票、ファンクラブと、派生し続けている。


だがその中心にいるのは、あくまでも――


「兄さん、そろそろ一緒にお昼寝しよっか♪」


「しない!! 頼むから普通の休日をくれ!!」


――兄をこよなく愛する、完璧すぎる妹なのだった。



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