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第十一話

 六月二十四日、この日は俺も真助も有給休暇を取っていた。

「よし、しず、ゆき、今日は車でお出かけするぞ、四人で」

「わあ、真助、経幸、どこへ連れてってくれるの?」

「どこだろうな。それに何でお出かけすると思う?」

「うーん、何でだろう?分かんないよ。何で?教えてよ、真助」

「それはな、・・・」

 俺は真助のその言葉に嫌な予感を感じた。

「おい、真助、何を言う気だよ、おい、・・・」

「大発表!今日はしずの誕生日に俺が指定しました。だからそのしずの誕生日プレゼントを買いに行くのでーす」

 嫌な予感的中。俺は真助を張り倒した。

「バカヤロー!」

「痛っ!何するんだよ、経幸」

「何するんだよ、じゃねーよ。あれほど、昨日、寝る前にサプライズだぞって言ったのに。お前、何を聞いてたんだよ」

「あれ?お前そんなこと言ったか?まあ、いいじゃないか。どうせ最後には分かることだ」

「バカ、それを言ったらサプライズなんて台無しだろ。はあ、真助、お前、どうしたんだよ。お前が一番サプライズが好きなはずだろ」

「いいだろ。だってしずもゆきもサプライズしなくても俺たちを納得させる笑顔で何でも喜んでくれるからさ」

「お前、しずとゆきに甘えるな!」

 そんな俺と真助の相変わらずのやりとりの横でしずのすすり泣きが聞こえた。

「え?おい、しず、何で、何で泣くんだよ。俺はしずを笑顔にするために発表したんだぞ」

「ゴメン、嬉しすぎてね、涙が出ちゃった。経幸、私にとってもう十分にサプライズになってるよ。だって私の誕生日を決めてくれたんだもん。こんな嬉しいサプライズないでしょ」

「ほら見ろ、経幸、サプライズになったじゃねーか」

「たまたまじゃねーかよ。行き当たりばったりで威張るんじゃねーよ」

「ありがとう、真助。もう十分だよ、これだけで。プレゼントなんていらないよ、こうして真助と過ごせるなら」

「何言ってるんだ、本番はこれからだぞ。プレゼント買って、家に戻って、お袋の料理食べて、美味しいお酒も飲んで、それから・・・」

「おい、真助、プレゼント買いに行く前から全部バラす気かよ。とにかくまずは買い物に行こうぜ」

「おお、そうだな」

「あの?真助、経幸」

「何だ、どうした?ゆき」

「私の誕生日は?」

「ああ、ゴメン、それはあの時だよ。ほら、俺たちがブレスレットを愛宕山で渡した日、十二月十一日がゆきの誕生日。そう俺たち二人で決めたんだ。俺たちが本気で二人に告白した記念すべき日だからね」

「そうか、なるほど」

 俺たちは宮崎市内にあるイオンモール宮崎に向かった。ここには映画館もあるので、テレビよりももっと大きなスクリーンで映像を見せたかったのだ。二人もこの約一年で現在の生活にもかなり馴染んで、特にテレビでドラマを見ることが大好きだった。特に二人はコテコテのラブストーリーが大好きだった。

「よし、今日ここに来た目的は二つだよ。しず、ゆき、まずは映画を観るよ。テレビよりもこーんなに大きな画面でね、ドラマを見られるんだよ。ほら、ⅮⅤⅮを借りてきて見てただろ。あれは本当は新しく作った映像はね、まず、最初はこういう大きい会場で見るんだ」

「わあ、凄いね、姉さん」

「本当だね」

「ほら、いいよ、いろんなのがあるから、この中から二人が好きなものを選んでいいよ」

「じゃあ、ゆき、せいので選ぼうよ。二人が一緒ならいいけど。あ!でも二人で違うの選んだら・・・どちらか一つにしないとダメだよね」

「いいよ、もし二人が選んだものが違ったら、それぞれ分かれて見よう。俺はしずと一緒に。経幸はゆきと一緒にね」

 そして二人は結局、それぞれ違う映画を選んだ。

「じゃあ、俺たちが見る映画の方が始まるの先だな。経幸、俺としずは見終わったらそこで待ってるからさ」

「分かった」

「よし、じゃあ、しず、映画には定番のジュースとポップコーンを買って中に入ろうか」

「ポップコーン?」

「ああ、何て説明したらいいかな?あのね、トウモロコシを膨らませたもの?かな?トウモロコシ数粒でこーんなに増えるんだよ。映画を観るときは食べたくなるんだよな」

 真助としずが映画館に入った十分後、俺とゆきも中に入った。

「おう、経幸、ゆき、こっちだ」

「ねえ、姉さん、どうだった。初めての映画の感想?」

「うん、凄く楽しかった。あんな大きな画面で凄い迫力だし、凄く素敵なお話だったわ。私、見てて中の主人公の女性の気持ちに入り込み過ぎちゃって、何かね胸の辺りがドキドキしてね、一人でどうしたらいいか分からなくて、隣の真助の腕にずっとしがみついてた」

「へえ、そうなんだ。姉さんも一緒か?私も主人公の女性になりきっちゃって、経幸の腕に摑まってばかりだった」

「おい、ゆきの場合はそれだけじゃないだろ。もう、ゆきには参ったよ。完全に主人公になりきってるもんだから、想いを寄せる男性に抱き着くところは俺も幸せだったけど、男性にツッコむところなんて、そこまで俺、相手させられてさ」

「でも良かったじゃないか、ゆきもしずも喜んでくれたってことだろ?二人の顔見れば分かるよ」

「うん、すごーく楽しかったよ」

「よし、次はしずのプレゼントだ」

「よし、俺も。今日はしずの誕生日だけど、ゆきにもな、プレゼントだ」

「ええ、私はいいよ。だって今日は姉さんの誕生日でしょ」

「いいじゃないか。俺たちが二人と出会ってもうすぐ一年だ。その記念だよ」

 そう、俺がもうすぐ一年というフレーズを出すと少ししずとゆきの顔が曇ったような気がした。俺たちはゆきとしずに好きな服を選んでもらってプレゼントした。

「ありがとう、真助」

「本当にもらっていいの?経幸」

「あ、あのな、もう買っちゃっただろ。今更、その言葉は可笑しいだろ、ゆき。そういう言葉は買う前に言うんだよ」

「そ、そうか、そうだよね。買った後だもんね、私がもらわないともっと失礼なことになっちゃうんだもんね」

「そう、そういうこと。本当にゆきはちょっと天然なんだよな」

「ああ、また経幸、私のことおバカ扱いした」

「ハハハ、ゆきも慣れてきて言葉の意味が分かってきたね」

「ああ、ということはやっぱり私のこと、そのつもりで天然って言ったのね」

 そう言って膨れたゆきがまた可愛かった。この後、しずが俺と真助にお願いをしてきた。

「あの、真助、経幸」

「何だい、しず?」

「あのね、帰る前に少しだけ、時間が欲しいんだけど。今から一時間だけ、ゆきと二人でお買い物してきていい?この前、2人の職場で働かせてもらったお給料があるし、一度、ゆきと二人だけでお買い物してみたいの。ダメ?」

「何だ、そういうことか?いいよ、行ってきなよ。俺達、ここで休憩して待ってるから。買い物終わったらここに戻ってくるんだよ。大丈夫?戻って来られるかな?」

「う、うん、多分。じゃあ行ってくるね」

 そう言ってしずとゆきは二人で買い物に行った。何を買いに行ったのかは特に聞かなかったが・・・。

 そして俺達は家に戻り、母がしずの誕生日を祝うために張り切って作った晩御飯を食べた。

「よし、じゃあ、最後の俺からのプレゼントな」

「ええ、真助、もうプレゼント貰ったよ」

「いいから、もう一つ、しずの彼氏としてのプレゼント以外に、俺は料理人だ。俺の得意分野、スイーツ作りでね。料理人として俺からのプレゼントだよ。誕生日と言ったらバースデーケーキだからね」

「うわあ、綺麗。素敵。でもこんな大きなケーキ、どこにあったの?おうちの冷蔵庫には入ってなかったよね。というか、こんな大きなケーキ入らないよね」

「ハハハ、実はね、昨日の仕事終わりにね、あなたにひとめぼれに寄ってきたんだ。昨日は眞光の店、定休日だったからさ。あいつに無理言って店の厨房貸してもらったんだ。それで眞光の店でケーキ作らせてもらって、さっきまで預かってもらってたんだよ」

「なるほど、だから昨日はあんなに帰りが遅かったのね、真助」

「ああ、しずに喜んでもらおうと思って作ってたら、何か妥協するのが許せなくて、納得いくまで作業してたらな、いつの間にか日を跨いでてね」

「もう、こんなにまでしてくれなくれも良かったのに。真助、体壊しちゃうよ。本当にありがとう」

「ああ、俺はしずに喜んでもらえたらそれでいいよ。それが最高の俺の喜びだから。それに俺はしずのためだったら体が壊れても本望だよ。もうそれくらいの覚悟はできてるよ。それくらい俺はしずのことを愛してるんだ。さあ、しず、ゆき、みんなで食べよう」

「おい、真助、待て待て。まだ、歌、歌ってないだろ」

「おう、そうか、そうだった。あぶねー。それをやる前に切り分けるところだった。おい、経幸、動画、頼むぜ」

「おう」

 そして俺達は動画を撮りながら、誕生日の歌を歌ってしずをお祝いした。



 しずの誕生日をお祝いしてから7月に入り、いよいよしずとゆきと出会った第三土曜日を明日に控えた金曜日、俺達家族は普段どおりの朝を迎えていた。俺と真助は昨日の仕事の疲れで久し振りに寝坊してしまっていた。そんな俺達を気に掛け、しずとゆきが起こしに部屋に来た。

「ねえ、経幸、起きて。お仕事遅れるよ」

「おはよう、真助。早く起きないと遅刻しちゃうよ」

「あ、うーん、おはよう、ゆき。あれ?今何時」

「ふーん、あ、しず、おはよう。起こしに来てくれたの?」

「ほら、2人とも、もう8時だよ。早く起きて準備しないと、遅れるよ」

「え?うわあ、マジか。おい、真助、早く起きて準備しないと、遅刻!ゆきとしずが作ってくれた朝ご飯も食べる時間なくなるぞ。急げ」

「やべえ、完全に目覚まし切って、二度寝してた」

「姉さん、2人とも、昨日、遅かったから疲れてたんだね」

「そうだね。真助、経幸、大丈夫だよ、朝ご飯は。時間がなさそうだから、おにぎりとダシ巻きとお漬物、タッパー?だっけ、それに詰めておいたから。職場に着いてからでも食べられるように準備しておいたよ。もちろん、お昼のお弁当も用意してあるよ」

 俺と真助はドタバタで出勤の準備をして、お弁当を二つずつ持って出かけた。

「ごめんな、ゆき。行ってきます」

「ありがとう、しず、行ってきます」

「うん、いってらっしゃい。頑張ってね」

「気を付けてね、今日も暑くなりそうだし、厨房は熱いから、しっかり水分補給忘れないでね」

 そしてこれが俺と真助がゆきとしずと交わした最後の朝の挨拶になった。

 俺達を見送った後、しずとゆきはいつもどおり母を手伝い、洗濯と掃除をしてからお昼を食べた午後から、2人は部屋に籠った。

「ねえ、ママ、この後、私たち、お部屋でお勉強してきていい?いろいろ自分たちで調べたいことがあるの」

「うん、いいよ。本当にしずちゃんとゆきちゃんは慣れてきて、最近はスマホを使って自分たちで何でも調べちゃうもんね。もう私より使いこなしてるもんね。やっぱり若さなのかな?」

「何言ってるのよ。ママだって若いでしょ。それにまだまだこんなに綺麗なんだから」

「まあ、ありがとう。しずちゃんもゆきちゃんもあまり根を詰めすぎないようにね」

 そしてしずとゆきは、この日夕方まで部屋から出てこなかった。

「ママ、お勉強終わったよ。さあ、晩御飯作るね。今日はママはゆっくりしてて。今日は私と姉さんで作るから」

「え、いいよ。私も手伝うよ」

「いいからいいから。ママは今まで私たちの先生として大変だったでしょ。たまには生徒に任せてよ、ね」

「う、うん、でも大変だなんて一度も思ったことないよ。だって二人と一緒にお料理するの、凄く楽しいんだから」

 母がそう言うと二人は少し涙目になっていた。

「ど、どうしたの?しずちゃん、ゆきちゃん。何か目が潤んでるよ」

「だって、本当にママ、優しいんだもん。大好きママ」

 二人は突然、そう言って、母に抱き着いた。

「本当にどうしたの?」

「ありがとう、ママ、いっぱい、私たちのこと愛してくれて」

「何言ってるの。母親が娘を愛するのは当たり前でしょ。さあ、やっぱり、三人で一緒に作りましょう。その方が私も楽しいから。ほら、しずちゃん、ゆきちゃん」

「グスン、うん」

「うん、分かった、ママ」

 そして母としず、ゆきは晩御飯を作り終えた。俺と真助は今日も定時には帰れず、残業していた。両親としず、ゆきは四人で晩御飯を食べ、その後、しずとゆきは俺達に残業の時のいつものラインを送ってきた。

「経幸、今日も遅いの?本当に無理はダメだよ。大事な体なんだから。今日が終われば出会ってから一年経つね。今まで本当にありがとうね。凄く幸せだったよ。大好きだよ、経幸」

「そうだよな、今日が終われば一年だな。早く帰らなきゃな。よし、あと少しだ。でも何かこの、凄く幸せだったよ、が気になるな。この過去形」

 そして俺はゆきにラインを返した。が、このラインは既読になることはなかった。

「ありがとう、ゆき。そうだね、出会ってから一年経つんだね。こんな大切な日に一緒にいられなくてゴメン。頑張って少しでも早く帰れるようにするよ。じゃあね」

 一方、真助もしずからラインが送られていた。

「真助、大丈夫?しっかりお昼食べた?しっかり水分補給してる?真助は本当に集中すると自分のこと疎かにしちゃうから心配。合間にちゃんと息抜きしないとダメだよ。それと話は変わるけど、明日になれば出会ってから一年だね。本当にこの一年、楽しかった。真助、経幸、パパ、ママと過ごせて凄く幸せだったよ。それから真助、こんな私を本気で愛してくれてありがとう。絶対に真助と過ごしたこと忘れたくないな。ゴメン、真助が勘違いしちゃう言い方しちゃったな。あのね、今までの楽しい思い出を忘れずにこれからもいっぱい楽しい思い出になるようなことを経験したいなってことだよ。あれ?何か私、経幸みたいになっちゃった?説明が分かりにくかったかな?じゃあ、真助、気を付けて帰ってきてね」

「ハハハ、しずは、ラインで経幸のことをディスりやがって。本当にしずは心配性だな。でも何かいつものラインと雰囲気が違うな。まあいいか。よし、しずにラインして、もう少し頑張ってから帰ろう」

「いつもありがとう、しず。心配ばかりかけてゴメン。でも俺は大丈夫だから。どんなに疲れててもしずの笑顔が見られたら、すぐに元気になれるから。十時には帰れるように頑張るよ。じゃあね」

 しかし、この真助がしずに送ったラインも既読になることはなかった。

 そして俺と真助は十時頃、家に着いた。

「お、おかえり、真助」

「おう、お前こそ、遅かったな」

「ああ、この前のゆきとしずのおかげで新規契約がいきなり三本も増えたからな」

 俺達は小声で玄関の扉を開けた。

「ただいま。まあ、親父とお袋は寝てるよな。あれ?でもしずとゆきも寝てるのかな?二人の部屋は電器点いてたけどな」

「そうだな。電器消し忘れて寝ちゃったのかな?俺達も最近残業ばかりで心配かけてたから。気疲れしちゃったのかもな」

「そうかもな。今日、しずが俺にくれたラインも、思い切りしずの心配性が爆発してたからな」

 俺達は静かに二人の部屋に向かった。

「しず、ゆき。寝てるのか?電器点いたままだぞ。消せよ」

「おい、ダメか。起きないのか?」

 そう言って俺は鍵がかかってると分かっていたが、ドアノブを引いてみた。ガチャ!

「おい、真助、空いてるぞ。いつも寝てるときは閉めてるはずなのに。おい、ゆき、しず、入るぞ」

 俺達はドアを開けて二人の部屋に入った。

「ゆき、しず、電器消す・・・え?おい、真助、居ないぞ。ゆきもしずも居ない」

「ええ!じゃあ、やっぱりリビングにいるのかな?おい、下に行ってみよう」

 俺達はリビングに向かった。

「おい、経幸、居ないぞ」

 俺と真助は大声で二人の名前を呼びながら家中を探し回った。

「しず、ゆき、どこだ?冗談は止めろよ。こんな時間にかくれんぼはやめようぜ」

「ゆき、しず、どこだ。なあ、どこだよ。洒落にならないサプライズはやめてくれよ」

 その声に父も母も起きてきた。

「おかえり、何よ二人ともどうしたの?そんな大声でしずちゃんとゆきちゃんを呼んで。二人ならお部屋で寝てるでしょ?」

「そうだぞ。お前らにラインしたら今日は寝るって言って二階に上がったから」

「それが、父さん、母さん、ゆきもしずも部屋にいないんだよ。だから今、家中探してるけど」

「おい、居ないぞ。親父、お袋、しずもゆきも居ないぞ」

「そんな!確かに私たちが寝室に行くのと同時にしずちゃんもゆきちゃんも二階に上がったのよ」

 俺と真助はラインを確認した。

「おい、最後に入れたライン、既読になってないよ」

「真助、俺の方もだ。ゆき、俺のライン、読んでない。部屋にスマホ見当たらなかったから、持ってるはずだ。電話してみる」

「俺も、しずにしてみる」



 その頃、しずとゆきは。

「あの、運転手さん、関之尾の滝までお願いします」

「こんな時間に?明日の方がいいですよ。明日は朱盃流しがあるから」

「ありがとうございます。でもいいんです。今日じゃないとダメなんです」

「分かりました。関之尾の滝ですね」

 しずとゆきはタクシーに乗り移動していた。暫くしてゆきとしずのスマホに着信があった。

「姉さん、経幸も真助も家に戻ったみたいだね。私たちが居ないこと、分かっちゃったみたいだね。グスン、姉さん、出ちゃだめかな?最後にもう一度だけ経幸の声聞きたいよ」

「ダメだよ、ゆき。グスン、私だって真助の声聞きたい。でもダメ。今、真助の声聞いたら私、決心が揺らいじゃう。絶対に逢いたくなっちゃう。ゆきだってそうでしょ」

「う、うん、でも・・・グスン」

「ダメ、ダメだよ」

 関之尾の滝の入口に着いたしずとゆきは。

「本当にここでいいんですか?帰りはどうするんですか?待ってましょうか?」

「大丈夫です。ありがとうございました。必要ならまた呼びますから」

 そしてしずとゆきは関之尾の滝に向かった。



「どうするんだよ。一体、何があったんだよ。何でこんな突然、しずとゆきは居なくなったんだよ。何があった?」

 俺は真助の言葉に胸騒ぎがした。俺は机の引き出しの中に隠しておいたあの決意の手紙を思い出した。ゆきとしずが部屋の掃除をしてくれた時、見られていないと思ってホッとしていたが。俺は二階に駆け上がり、もう一度その手紙をよく確認した。

「お、おい、経幸、どうしたんだよ。おい」

 俺は手紙をもう一度確認した。もう一度しっかり隅から隅まで確認すると、封をしていたシールに剥がしたと思われる跡があった。綺麗に剥がしたようだったが、少しだけシールの粘着で入れていた封筒の一部が破れていた。

「やっぱりか!お、俺のせいだ。うわああああ!」

「な、何だ、どうしたんだよ、経幸」

「俺のせいだ。ゆきとしずが居なくなったのは。ゴメン、真助、俺、俺・・・多分、ゆきとしずはこれを見て、関之尾の滝に向かったんだ」

 俺は自分のその手紙を真助に渡した。俺はあの温泉での真夜中の出来事に蓋をするため、そして自分の決意が揺らがないようにするため、その内容を手紙にしていた。そういう大切なことは胸に秘めたままにしておくより、行動を起こして自分の気持ちに踏ん切りをつけると効果があると何かの本で読んだことがあったのだ。俺はこんなことをその手紙に綴っていた。


 俺はゆきとしずを守るために、ここにあの時の出来事を封印し、そして命尽きるまで真助とともにゆきとしずのために生きることを決意します。

 あの温泉で、あの真夜中、信じられない出来事が起こった。俺と真助の枕元に、六百年前のゆきとしずの許嫁、経幸さんと真助さんが現れた。お二人はしずとゆきの死を悔やみ、自身もあの滝に身を投げたそうだ。そんなお二人が俺達の枕元に立ち語ったことだから本当のことだろう、俺達はそのお二人の生まれ変わりだそうだ。ゆきとしずが俺達を一目見て間違えたくらいだ。まあ、それは素直に受け入れていいのだろう。

 問題はこの後だ。お二人は俺達にお願いをしに現れたと言った。それはとても俺と真助がすんなり受け入れられる内容ではなかったのだ。

 お二人は、俺達の前にあのゆきとしずが入っていた瓶が流れてきたのは予期せぬ出来事だと言った。本当ならあの瓶はゆきとしずが生まれ変わるために、本来受け取るべき女性が手にするものだと言った。それを俺達が拾い、蓋を開けてしまったために、ゆきとしずはそのまま俺達の時代に蘇ってしまったのだそうだ。受け取るべき女性が蓋を開けていればそのまま生まれ変わりとして受け取った女性の人生を全うできるはずだったと言った。でも今の状態だとこの幸せな時間はすぐ終わってしまうと言った。今は瓶の効力がゆきとしずのあの若さと美しさを守っている、しかし、一年後、そう、今年の7月の第三土曜日のおゆき祭りの日、その効力がなくなり、そこから、ゆきとしずは俺達の生命力を急激に吸収しないと、その若さと美しさを保てなくなると言った。だからこのまま俺達がゆきとしずと一緒に居たら、俺達はあっという間に死を迎えることになると言った。

 だから、俺達やその家族、それからゆきとしずを含めた全体の幸せを考えると、本来、俺達の時代に存在してはいけないゆきとしずに本来の居場所に戻ってもらうことが一番いい選択肢だと言った。だからそれを俺達からゆきとしずに伝えてほしい、というお願いだったのだ。

 そう、俺達は二人に確認した。それはつまり、ゆきとしずにもう一度、あの滝に入水しろということなのかと。二人は目を潤ませながら頷いた。そして俺達にどうするかを託して消えたのだ。

 俺と真助は考えに考えた。でもずっと結論が出せないままだった。

 でも最近の真助を見ているとあいつの出した答えが分かった。あいつはもう迷っていない。あいつはゆきとしずに何も伝えずに最後までしずを愛し抜くつもりだ。あいつの言動を見ているとその覚悟が伝わった。やっぱり、あいつは凄い。自分の心の中だけでその決心を完全に固めてしまった。やっぱり尊敬に値する凄い兄貴、最強だ。

 俺はそんな兄貴を横目にずっと迷っている。俺は真助みたいにどうも自分の心の中だけでその決断を下すことができないみたいだ。本当に自分でも情けない。

 でもこれを書くことで、絶対に俺も迷いを消す。俺も真助と想いは一緒だ。

 そう、愛するゆき、しずに再びあの滝に身を投げてくれ、と、そんなことは言える訳がない。こんなに愛しているのに、ゆきに、しずにそんなこと口が裂けても言えない。

 だから、俺もここに誓う。俺も真助とともにこの命が尽きるまでゆきを愛し抜く。ゆきとしずの命を守るためだ。俺と真助の命はゆきとしずのためにある。

 すいません。真助さん、経幸さん、お二人の期待に応えられないですが、俺達の出した結論はこういうことです。

 お二人の生まれ変わりとしての人生を全うできない結論かも知れませんが、分かって下さい。


                                 重留 経幸



「ゴメン、真助。俺のせいだ。あの時、ゆきとしずが俺達の部屋を掃除してくれた時、2人はこれを見たんだ。良く見たら、封筒に少し空けた形跡があった」

 真助は横たわって泣いて謝る俺に馬乗りになり、涙を流して一発俺を殴った。

「バカ野郎、な、何でこんなもの、書いて残しておいたんだよ」

「ゴメン、ゴメン、俺、どうしても真助みたいにできなくて。どうしても自分の中だけで処理できなくて。何か踏ん切りをつける形が欲しかったんだ。そうしないとどうしても自分がどうしたらいいか固まらなくて。ゴメン」

「よし、もう、こんなことしてても意味ない。しずとゆきは関之尾の滝に向かったんだ。おい、経幸、しずとゆきを止めに向かうぞ」

 そして俺と真助は関之尾の滝に車で向かった。関之尾の滝の入口の駐車場に車を停めて、少し歩くと俺達は足元に光るものを発見した。

「おい、経幸、これは?」

「ああ、間違いない。ゆきとしずのスマホだ」

「間違いない。二人は滝だ。行くぞ」

 俺達は二人のスマホを拾い、スマホでライトを照らして滝壺に急いだ。

 滝壺に到着するとそこは月の薄明りに照らされていて、ライトで照らさなくてもぼんやりと肉眼で状況が確認できた。そしてその先には、もう腰まで水に浸かっているゆきとしずがいた。俺と真助はその二人の後ろ姿にありったけの声をぶつけた。

「しずーーー」

「ゆきーーーー」

 その呼びかけに二人は振り向いた。

「し、真助!」

「経幸!」

「な、何してるんだ。しず、早く、戻ってこい」

「ゆきもだ、何をバカなことしてるんだ。ほら、家に帰るぞ。父さんも母さんも待ってる」

 俺と真助はゆきとしずを連れ戻そうと二人に近づこうと水に足を入れた。

「ダメ、真助、来ちゃダメ」

「経幸も。近寄らないで」

「ゴメン、ゆき、しず、見ちゃったんだな、あの手紙」

「うん、だから、だから・・・」

「ば、バカだな。あんなの嘘に決まってるだろ。あんなの俺が自分で考えた、単なる妄想だ。冗談に決まってるだろ」

「嘘!経幸、嘘を言ってる。あれは本当の話でしょ。私には分かるよ。だって経幸はいつだって真剣に向き合ってくれてた。そして凄く真面目でしょ。そんな経幸が、こんな、誰も幸せにならない嘘をつく訳ない。それもわざわざ文書で残してまで。そんなことを経幸がする意味がないもん。真面目な経幸が私たちのことを必死に考えてくれて苦しんでた結果なんでしょ?こんな手紙を残してたのは」

 やはりゆきには完全に俺の気持ちを見透かされていた。出会ってから一年間、俺の近くにいてくれたからこその結果だと思った。それが嬉しい反面、今はこの拙い俺の嘘に騙されて欲しいと思った。

「ハハハ、ダメか。ゆきには嘘はつけないな。その通り、全部、あの温泉旅行の夜、俺と真助の部屋で起きた本当のことだ。だから何だ!そんな事実が分かったところで俺と真助の気持ちは変わらない。俺がゆきを本気で愛してること、真助がしずを本気で愛してること、その想いを消すことなんてできる訳ないだろ。今日まで一年間、こんなにゆきとしずが傍にいてくれて言葉にできないくらい幸せだったんだ。な、真助」

「そう、経幸の言う通り。だから、な、しず、ほら、こっちに戻ってこい。な」

「ほら、ゆきも俺達結婚してこれからももっと幸せになろう。な、ほら、早く」

 そんな俺達の言葉にゆきは気持ちが少し揺らぎ始めていた。

「姉さん、どうしたらいいの?ダメ、経幸の顔見たら、それに経幸のあんな気持ちを伝えられたら・・・グスン、ねえ、姉さん、戻りたいよ、経幸の傍に、抱きしめてほしいよ」

「グスン、私だって、真助の顔見たら、・・・でも、でもダメだよ。私たち明日になったら、真助と経幸の命を蝕む怪物になっちゃうんだよ。そんなことになったら私たちが一番辛いでしょ。私たちが自分自身を許せなくなっちゃう。だってこんなに真助のこと愛してるんだから。だからこそ、その前に、私とゆきは自分たちでこの、真助と経幸が生きてる時代から存在を消さなきゃいけないの。分かるでしょ、ゆき」

「う、うん、そうだね」

「バカ野郎、しず。そんなことは考えなくていいんだよ。俺達は決めたんだ。俺達はしずとゆきのために生きるって。ほら、経幸も手紙に書いてただろ。俺と経幸の命は二人のためにあるって。明日になったってしずとゆきは俺達の大切な、命ある限り守りたい女性なんだ。断じて怪物なんかじゃない。俺達がそんなこと思う訳ないだろ。余計なことを考えるな。頭の中を空っぽにしてこっちに戻ってこい」

「グスン、やっぱり真助らしいな。最後は難しく考えず、自分の気持ちに素直になれって言いたいんだね。私も本当の気持ちは真助、あなたの胸に今すぐ飛び込みたいよ。だって、あなたのことで頭がいっぱいで爆発しそうなくらい愛してるんだもん。でもね、でもね、足が動かないの。こころの奥で、真助の本当の幸せを考えなさいって声が聞こえるの。その声が私の気持ちを抑えるの」

「じゃあ、そんな声は無視しろ。そいつは嘘を言ってる。俺の本当の幸せを考えるなら、しず、迷うな、俺の胸に戻ってこい」

「もう、真助も止めて。そんなこと言われたら私、真助の胸に・・・、ダメ、もう帰って」

「経幸も、帰って。お願いだから。もうすぐ日が変わっちゃうでしょ。私、怪物になる前に経幸の前から消えたいの。自分で言うのも何だけど、あなたの可愛い彼女のままでいたいの」

「そんなこと考えるな。ゆきは明日からも俺の一番大切な、俺の可愛い彼女だから」

 俺は時計を確認した。もう後、十分で日が変わろうとしていた。

「ほら、もうすぐ日が変わる。そうしたら家に帰ろう。真助さんと経幸さんが言ってたことは事実かも知れない。でもそんなの気にするな。そんなの俺はもう気にしない。例え事実だとしてもそんなの俺達の命だ。俺と真助がそんな運命は変えてやる。だから、だからな、ゆき・・・」

 そのもうすぐ日が変わるという言葉を聞いて、ゆきとしずは再び俺達に背を向けた。

「ごめんね、真助。もう行かなきゃ。やっぱり私たちは六百年前の人間なの。真助の傍にいちゃいけないのよ。ありがとう、真助、私、あなたに愛されて、大切にしてもらって凄く幸せだったよ」

「経幸、私も。一年という短い時間だったけど、あなたと過ごした楽しい思い出がいっーぱいできたよ。私、この経幸と過ごした一年、絶対に忘れないよ」

 そしてゆきとしずは俺達の叫びに今度は振り返ることなく、滝の轟音と共に滝壺に消えていった。

「嫌だー、行くな、しずーーー」

「ゆきーーー、戻ってこーーい」

 俺達は入水して体が腰まで浸かっていた。そして俺達はライトを照らしながら何回も水の中を確認したが、しずとゆきの姿は完全に消えていた。俺達が項垂れて滝壺から出ると、あれだけ月明かりが綺麗だった夜空には雲が立ち込め、一年前と同じように凄い夕立が俺達を襲った。その豪雨が俺達の涙と泣き声をその雨音とともにかき消した。

 その後、俺達は失意のまま、家に戻った。俺達はびしょ濡れのまま、玄関に無言で入った。

「ええ、真助、経幸、何?ずぶ濡れじゃない?どうしたの?こんな時間までどこに行ってたのよ」

「な、何言ってるんだよ、母さん。関之尾の滝にゆきとしずを連れ戻しに行ってたんじゃないか。でもダメだったよ。俺達のせいでまた二人に六百年前と同じことをさせてしまった」

「何、2人とも泣いてるの?それにゆきさん?しずさん?って誰?六百年前?何のことを言ってるの?」

「ええ!母さん、ゆきとしずだよ。憶えてないのかよ。あんなに楽しく一年この家で暮らしたじゃないか?」

「そうだよ、お袋、ほら、こんなに楽しく過ごしただろ。写真もいっぱい・・・え!」

 真助はスマホで撮った写真を表示したが、しずとゆきといっぱい撮った幸せな写真からは全部、その二人の姿が消えていた。

「な、何、この写真は。真助も経幸も、何、この手は、誰と肩を組んでるのよ。ああ、エア彼女ね。もう、長いこと彼女ができないからって、こんな気持ち悪いことしてたの?」

「嘘だろ、どういうことだよ」

「それと、真助。気持ち悪いと言えば、あなた、あの部屋は何?あなたにあんな趣味があったなんて、母さん、悲しいわ。私は普通に女性が好きな息子として育ててきたつもりなのに。それともただ単に女装が好きなだけなの?」

 そう、しずとゆきのために準備したあの部屋も母は真助の癖として見ていたのだ。どうやら、しずとゆきが消えたことで、俺と真助の記憶以外からは完全に二人の存在が消えてしまったようなのだ。俺と真助は日が変わったこの7月の第三土曜日、毎年、必ず行っていたおゆき祭りが開催される関之尾の滝に足を運ぶことはなかった。

 その後、俺と真助は職場に行っても、眞光の店に行っても、とにかく何もかもが最初からしずとゆきが居なかった、出会う前の一年前の日常に戻っていたのだ。俺達はゆきとしずを失ってから数週間、その失望感から心も体もボロボロだった。さらにこの自分たちしかしずとゆきの記憶が残っていないという孤独感も俺と真助の苦しみに輪を掛けていた。

 そんなある日、あれから俺と真助は悲しみを押し殺しながら何とか仕事はこなしていたが、休みの日は全くどこにも出かけず、ずっと家にいた。俺と真助はその休みには必ずどちらかの部屋に二人でいて、ずっとお互いの傷を慰め合っていた。

「なあ、経幸。辛いな。あんなにしずとゆきと楽しい思い出をさ、写真や映像で残していたのに、スマホの中に何も残って無いんだ。この消えた空間に確かにしずはいたのに。あんなに可愛い笑顔を俺の隣で見せてくれてたのによ。グスン」

「本当だな。俺だって辛いよ。その写真や映像もそうだけど、俺はそれ以外にもさ、自分ではいつでも鮮明にゆきやしずの笑顔や泣き顔、怒った顔、いろんな表情を思い出せるのに、俺達以外、あの時、しずやゆきが関わった人の記憶が全く消えてること、俺はそれがもっと辛いよ。特にあんなにしずやゆきのためにしてくれた父さんと母さんの記憶からまで、2人の思い出が消えてることがさ、何か辛すぎるよ」

「ああーあ、またさ、お願いしたら、あの瓶、滝で拾えないかな?」

 そう言って、真助は俺の部屋の机にいつも置いてあったあの瓶の位置を何となく見た。今までそんなことは全く考えられなかったので気付かなかったが、そこにはあの瓶は消え、その場所には形は似ているが、あの瓶とは異なる瓶が二つ置かれていた。

「お、おい、経幸、何だあの瓶、俺達が拾ってきた瓶じゃないぞ。あれ、お前が置いたのか?」

「え?あ、何だ、いや、あんな瓶、俺置いてないぞ。何だろう?おい、何か紙が入ってるぞ」

 俺達はそれぞれ瓶を手に持ってその中に入っていた紙を出した。

「おい、こっちは真助、お前にって書いてある」

「あ、こっちはお前にだ、経幸。まさか!これって?」

「ああ、きっと、ゆきとしずからだな」

 そして俺と真助はその手紙を開いてみると、同じことが書かれていた。


 経幸(真助)、多分これを読んでるってことは、もう私たちは2人の傍にはいないね。ごめんね、経幸、あの時、2人の部屋を掃除した時に、経幸のあの覚悟の手紙を見つけて、中を呼んじゃった。ビックリした。まさか、あの温泉旅行の時に、2人の枕元に真助様と経幸様が現れたなんて。そして、私たちがこの時代に蘇ったことにこんな秘密が隠されていたなんて。だからあの時、経幸が間違えてラインした時、真助のサプライズだって言ったんだね。フフフ、2人とも中々、お芝居、上手だったよ。あの時は騙されちゃった。

 この手紙を呼んでから、よく分かった。温泉旅行から帰ってきてから少し様子が可笑しかったこと。でもその後少ししてから、真助、あなたには本当にビックリした。いつも優しかったけど、それに輪を掛けてもっと私にもゆきにも優しくしてくれたから。私たちのために生きてくれるって覚悟を決めてくれたからだったんだね。自分の死期が近づくことが分かってるのに、あんなに私たちに笑顔で接してくれた。本当は怖かったでしょ、日々が過ぎてくことが、それなのに。ありがとう真助。

 経幸も、こんな手紙を書いて覚悟を決めるなんて、やっぱり、経幸らしいなって思った。ずっとどうしたら一番いい結果になるのか、真剣に考えてくれてたんだね。やっぱり双子でも能天気な真助とは違うね。でも私たちはそんな何でも真面目に考えてくれる経幸、大好きだよ。

 多分、私たちがいなくなって、悲しんでくれてるのかな?それはそれで嬉しいけど、・・・でも、真助、経幸、いつまでも私たちのことばかり思い出して自分たちの殻に閉じこもってたらダメだよ。私たちのことはたまたま不思議な縁で付き合った女性の一人で、いい思い出として二人の心の中に残してくれたら嬉しいな。そう思って、次に進まないと。

 大丈夫だよ、真助も経幸も私たちがこんなに大好きになった男性なんだもん。超いい男だよ。すぐに私たちなんかより素敵な女性と出会えるよ。だから泣いてばかりいちゃダメだよ。前を向いてね。二人は真助様と経幸様の生まれ変わりなんでしょ。だから四人で真助と経幸が幸せになれることを祈ってる。

 本当に私たちに凄く素敵な一年を与えてくれてありがとう。一年間、愛してくれてありがとう。真助と経幸、そしてパパとママと過ごせたこと、最高に幸せだったよ。

 愛してるよ経幸(真助)

 最後に、この手紙は手元に残してたらダメだよ。こんなもの次の彼女に見つかったら喧嘩の元だからね。燃やしちゃいなさいよ。あ、でも経幸(真助)の性格だと、多分無理かな?燃やさなくても、人の目に触れないところにね。例えば庭に埋めちゃうとかね。多分、2人ならそんな風に考えたんじゃないかな。

 じゃあね。私たちみたいな素敵な女性に巡り合えるように祈ってるよ。(自分たちで素敵な女性って言っちゃった。へへへ、自意識過剰だね)

                        経幸(真助)へ、ゆき(しず)より

 俺と真助はこの手紙を読み、一階まで聞こえるくらい大声で泣いた。

「あああーーー、ゆきーーー」

「しずーーー、こんな手紙見たらもっとお前のこと忘れられないよ、ああーーー」

「おい、どうした、真助、経幸、何があった」

「大丈夫だよ、親父、お袋、気にしないでくれ。とにかく今は経幸と一緒に思い切り泣きたいんだ」

「ああーー、そうだよ、父さん、母さん。今はそっとしておいてよ。最近の元気のない俺達のこと、凄く心配してくれてるみたいだけど、そのうち、心配かけないように立ち直るからさ」

 俺と真助は扉越しに両親に泣きながら返事をした。

 そして俺達は手紙の内容とともにしずとゆきとの思い出を頭で何かもリピートしながら、もう出ないというくらいの涙を流した後、家の庭に向かった。そして俺達は両親に気づかれないように庭に穴を掘り、しずとゆきが手紙に書いていた通り、瓶に手紙を入れ、それを埋めた。

 俺と真助は瓶を埋めた後、空に向かって呟いた。

「これでいいんだよな、しず」

「ゆき、しず、言う通りに埋めたよ。俺達、前に進めるように頑張るよ。応援してくれよ」

 そう言って俺と真助は最後に手を合わせて空に祈った。

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