第十二話
(エピローグ)
しずとゆきからの手紙を庭に埋め、前を向くと誓った俺達だったが、やっぱりしずとゆきを失った俺と真助のダメージはかなり大きく、あれから一年が経過し、翌年のおゆき祭りを迎えていた。
そんな未だに前を向けていない俺達のことを想い、両親は行きたくないと嫌がる俺と真助を無理矢理車に乗せておゆき祭りに連れていった。
「もう、頼むよ、ここには来たくなかったのに」
「そうだよ、母さん、父さん。俺達、関之尾の滝にはもう来たくないんだ」
「何でよ、毎年、あんなに楽しみにしてたでしょ。一体どうしたのよ」
「とにかくもうここには来たくないんだよ」
「大丈夫よ、ほら、始まるわよ、朱盃流し。絶対に見たら二人も癒されるわよ」
俺と真助は連れてこられたので仕方なくその光景を眺めていた。今年も五人の腰元風に扮した五人の女性が朱盃を流している。いつもの光景だ。が、俺と真助はそこでとんでもないものを発見して、思わず叫んだ。
「ゆきーーー」
「しずーーー」
俺達の叫び声が滝の水の音と木々の合間を抜ける風の音の中に響き渡った。その声に五人の腰元風の女性も俺と真助の方に顔を向けた。
「ちょっと、真助、経幸、おゆき祭りの一番大切な時間なのよ。そんな大声出したら、せっかくの雰囲気が台無しでしょ」
俺と真助はそんな母の言葉も全く聞こえてなかった。
「ゆきーー」
「しずーーー」
そう言って俺達が何回も叫ぶので、俺達は両親に滝の入口まで連れ出された。
「コラ、真助、経幸、一体どうしたんだよ。おゆき祭りはアイドルのライブじゃないんだぞ」
「ゴメン、親父、お袋、いいよ、2人で帰ってくれ」
「ゴメンね、父さん、母さん、朱盃流しの最中に。先に帰ってくれていいよ。ありがとう、父さんと母さんのおかげで元気が出たよ。な、真助」
「ああ、この通り」
そう言って真助は両腕に力瘤をを作った。
「そ、そうなんだ。良かった」
「大声出したことは謝るよ。雰囲気を台無しにして、それに一番祭のいいところでこんな状態にしてしまって申し訳ない。でも親父とお袋のおかげで本当に元気でたよ。ありがとう。俺達もう少しここにいて、後でタクシーで帰るから」
「そう、良かった。ねえ、あなた。久し振りにこんなに生気のみなぎった二人の顔見たね」
「本当だな。じゃあ、もう大丈夫だな」
「ああ、ありがとう」
そして俺達は両親と別れた後、朱盃流しの女性の控室の近くにいた。
「なあ、経幸、あれは間違いなくしずとゆき?だったよな」
「ああ、間違いない。どこからどう見てもしずとゆきだった」
そして控室からしず?とゆき?が出てくると俺達は完全に自分を見失い、暴走してしまった。
俺はゆき?に、真助はしず?に肩を掴みながら話しかけた。
「ゆき、生きてたんだな。良かったー、今、どこにいるんだ。何でうちに戻ってこないんだ」
「しず、良かった、無事だったんだな。どうして帰ってこないんだよ、ええ、どうして、俺達のところに」
ゆき?としず?は俺達の行為に恐れ、悲鳴を上げた。
「きゃあー、な、何するんですか。離して下さい」
「いやあー、痛い、やめて、助けてー、誰かー」
俺達は周辺にいた男性に取り押さえられた。
「離してくれ。なあ、ゆき、ゆきなんだろ。俺のこと忘れてしまったのか?は、離せ、離してくれよ。ゆき、待ってくれ、なあ、ゆきーーー」
「おい、何するんだよ、しず、おい、戻ってきてくれよ。頼む、俺のこと思い出してくれよ。離してくれよ、しずがどこかに行ってしまうだろ。離せよ」
あまりの暴れっぷりに俺と真助は警察署に連行された。そして俺達はこってり一時間、刑事さんに絞られた。更に身元保証人として迎えに来た両親にも絞られた。
「もう、元気になったと思ってホッとしてたのに。いきなり、暴れて、女性に手を出してお巡りさんにお世話になるなんて。このバカ息子。元気になるのはいいけど、やめてよね」
「そうだぞ、いくら、2人とも彼女いない暦が長いからって、突然、女性に襲いかかるなんて。それもおゆき祭りで朱盃を流してた女性だって言うじゃないか」
「だって、あの二人は間違いなく神話の美女、しずとゆきなんだ。俺達の彼女なんだ」
「そうだ、真助の言う通り、俺達の愛するゆきとしずなんだ」
「はあ、栞、俺達のおゆき祭り愛が強すぎたのかな?真助と経幸の妄想がヤバいな。やっぱり、おしずさんとおゆきさんの許嫁の名前なんて付けない方が良かったのかな。そんな訳ないのに、あの中の二人がおしずさんとおゆきさんに見えちゃったのかな。ほら、2人とも、帰るぞ。お前たち、やはりちょっと疲れてるんだよ。ゆっくり風呂でも浸かって、休め」
そして俺達は帰ってから、少し冷静に考えて早速、話し合った。
「なあ、経幸」
「さっきは俺達、あまりにびっくりして暴走しちゃったけどさ、よく考えたらさ、あれは本物のしずとゆきじゃないよな。だって、本当のしずとゆきなら、俺達のこと、忘れる訳ないよ」
「ああ、確かにな。でもさ、いくら何でも似すぎてなかったか?あの二人さ」
「じゃあ、まさか!あの二人が生まれ変わりかな?」
「バカ、真助、よく考えろよ。そんなのある訳ないだろ。だってその可能性を摘み取ったのは俺達なんだぞ。もうそれはないだろ」
「そ、そうか。俺のせいだもんな」
「バカ、お前だけじゃないだろ。俺もお前と同じだろ」
「じゃあ、尚更、俺、あの娘のこと諦めきれないよ。だってあんなにしずにそっくりなんだぜ。俺、たとえあの娘がしずの生まれ変わりじゃなくても、ダメだ。もう忘れられないよ」
「ああ、確かにな。俺もゆきがいなくなってから、あの手紙を読んでゆきのためにも前向きにならなきゃとは思って生活してきたけど、やっぱり、ゆきのことが忘れられなくて、最近もうずっと一人でもいいかなって思い始めてたけど、今日、あの娘を見つけた時、俺も、完全に心奪われちゃったもんな。外見だけでこんなこと言うのも失礼かもしれないけど、あんなにゆきにそっくりだもんな。性格だって絶対に素敵な娘に決まってる」
「じゃあ、決まりだな、経幸」
「ああ、真助、お前の言いたいことは分かったよ。絶対に探そう。あの娘たちを」
そして俺達は仕事が休みの日にお互い手分けして、とにかく情報を集めた。おゆき祭りのあの腰元風の五人に選ばれた娘なので、何かしら地元の新聞や情報誌などに可能性を探した。そしてそれは的中した。
名前と住んでる場所は分かった。ゆきにそっくりな女性は、滝真波という女性だった。二十三歳、なんと俺達と同じ都城市在住だった。しず似の女性は尾関一実という女性だった。二十三歳、これもミラクルだと思ったが、何と滝真波と幼馴染の親友同士だったのだ。
「そうか、さすが経幸だな。目の付け所が凄いな」
「凄くねーよ。だって都城市を代表するイベントのヒロインを務めてた二人だぞ。地元の情報誌とかを調べたらこれくらいは分かるだろ」
「いや、それがすげーよ。俺は思い付かないもん」
「お前が無知なだけだよ」
「くそ!今回のことは何も反論できねー。感謝しかないからな。で、この後はどうするんだよ、経幸」
そう、問題はここからだったのだ。名前、年齢、都城市在住というところまでは分かったけど、最近はプライバシーの問題はとにかくハードルが高い。それにあのおゆき祭りの警察沙汰になった一件もあるので、とてもじゃないが、主催者側に問い合わせたところで結果は目に見えてる。
「そうなんだよ、真助の言う通り。この後が問題なんだよ。ここからが俺もな、どうしたらいいか、んーーー、分からん」
「な、何だよそれ、この後のプランは無なのかよ」
「わりい、これ以上は俺も手詰まり。無策なんだ」
そんな定番のパーソナル情報は自分たちの頭にインプットしたが、それ以外は進展できず、数日を過ごしたある日、俺は休みの土曜日に両親を連れて真助が働くキッチンガーデン夢見が丘に来ていた。
「父さん、母さん、久し振りだね。ここに来るのは。一年振りか?」
「え、一年前に来たっけ?」
「うわあ、ひでーな。来ただろ。俺とそれからゆ・・・いや、三人で来ただろ」
そして俺達は真助の働く深山霧島キッチンに入った。
俺は厨房を覗き込んで真助に声を掛けた。
「真助、頑張ってるか。父さんと母さんを連れて食べに来てやったぞ」
「おお、一年振りか。ありがとう経幸、ああ、あと、ここにしずとゆきの・・・」
と話しかけてる時に、真助はあの時のしず似の尾関一実とゆき似の滝真波の姿を視界に捉えた。
「お、おい、経幸、あそこ、あそこの席、見ろよ。見つけた。ついに見つけた」
「どこ?何を見つけたんだよ」
「尾関一実さんと滝真波さんだよ。全く、こんなところでまさかな」
「ほ、本当か?ええ!本当だ」
「おい、経幸、まずはこの前のおゆき祭りの件を謝罪に行くぞ。これを逃したら今度いつ会えるか分からん」
「そうだな」
「料理長、すいません、俺、今から休憩入らせて下さい。お願いします」
そう言って真助はエプロンを取り、俺と一緒に尾関一実と滝真波が食事をしているテーブルに向かった。
「あの、お食事中に申し訳ありません。突然ですがこの前はおゆき祭りの日に申し訳ありませんでした」
こう言って頭を下げた俺達の顔を見て尾関一実と滝真波はその時の恐怖が蘇り、隣にいた男性の陰に隠れた。
「嫌だ、何で、こんなところで。パパ、怖いよ」
「私も、嫌だ、パパ、この人達」
「な、何だ、どうしたんだ、真波」
「そうだぞ、何だ?一実」
「この人たちだよ。あのおゆき祭りの日に私たちを待ち伏せしてて、私たちに襲いかかってきた人。この二人」
一実がそう言うと隣にいたどうやら父親と理解した男性は、俺達を見る目が今にも人を殺しそうな目つきに変わった。
「な、何だと、こいつらか。一実と真波ちゃんをあの楽しく終わるはずだったおゆき祭りの日を恐怖のトラウマに変えた奴らは」
俺達はその一実と真波の父親に胸倉を掴まれ締め上げられた。そして俺達は父親に一発殴られた。その後、倒れ込んだ俺達はその場に土下座した。
「す、すいませんでした。何も返す言葉はありません。何もかも俺達兄弟が悪いんです。大切なお嬢さんたちに怖い思いをさせてしまい、本当に心から反省しています。尾関一実さん、本当に申し訳ありませんでした」
「私もこの通り、申し訳ありませんでした。滝真波さん、これで許してもらえるなんて思っていませんが、とにかく今はこうすることしかできません。お父様お母様のお気持ちが晴れないのでしたら、俺達をいくらでも気が済むまで殴って頂いて結構です。俺達はそれくらいのことをお嬢様たちにしてしまったのですから。でも、すいません、これだけは分かって下さい。ただ俺達は、俺は真波さん、あなたを」
「俺は一実さん、あなたを一目見て惚れてしまったんです」
「そうなんです。俺は真波さんを一目見て惚れました。多分、神話の美女、おしずさんとおゆきさんはこんな美しい人だったんだろうなと思ったら、あの時はお二人の名前を知らなかったので、つい、神話の美女の名前を叫んでしまいました」
「ふん、都合のいい理由をつけて。そんなことで騙されると思ってるのか?どうせ、お前たちは私たちの大切な娘に悪さをしようとしただけだろ」
「やだ、パパ、何で、何でこの人達、私と一実の名前知ってるの?」
「すいません。どうしてもおゆき祭りのことも謝りたかったですし、それに俺と兄も真波さんと一実さんがどうしても忘れられなくて、名前と年齢、何市に住んでるのかまでは調べさせてもらったんです」
「やだ、パパ、この人たちストーカーだよ」
「いや、一実さん、そんな。お二人を俺達が怖がらせてしまったのは事実ですが、俺達、お二人に危害を加えるつもりは微塵もありません。俺はただ一実さんに惚れてしまっただけで」
「俺だって真波さんに惚れてしまっただけで。だから、お願いします。こんな状態で言うことじゃないかもしれませんが、お父様、お母様、真波さんとお付き合いさせてもらえませんか?まずは友達からでもいいんです」
「バカ、経幸、お前、時と場所を考えろよ。でもこれを逃したらチャンスないかもな。じゃあ俺も。お願いします。俺もお父様、お母様、単なる友達からでもいいです。一実さんとの出会いをこんな形で終わらせたくありません。俺も一実さんとお付き合いさせてもらえませんか?」
俺と真助はそう言って再び土下座した。そして一旦、顔を上げた時に俺は不測の光景が目に飛び込んできた。俺は無意識のうちに体が動き真波の座っている席の背後に立った。
「おい、貴様、真波の背後に立って何を」
そうすると俺の背後から悲鳴と謝罪の声が聞こえた。
「きゃあー」
「うわあ、す、すいません。どうしよう、背伸びしたら座っててバランスを崩しちゃった。ああ、どうしよう、大丈夫ですか?」
俺の右腕には激痛が走っていた。そう、今、謝っていた男性がフォークを手に持ったまま背伸びをしてバランスを崩して後ろに倒れそうになったのだ。そのフォークが俺の右腕上腕部に刺さったのだ。あのまま、何もしなかったら真波に危害が及ぶと分かったので、俺の体は勝手に動いていたのだ。
「真波さん、怪我はないよね」
「な、何?何が起こったの?」
「すいません、早く、救急車呼ばないと」
そう言って、俺にフォークを刺してしまった男性はスマホで救急車を呼んだ。
俺は痛みで真波の席の後ろで蹲った。その状況を目撃した真波も悲鳴を上げた。
「いやあー」
「経幸、大丈夫か?」
「ああ、真助、大丈夫だ、これくらい。そんなことより、ホッとしたよ。あのまま俺が気付かなかったら真波さんが大怪我してたからな」
真波は俺の傍に来て声をかけてくれた。
「ごめんなさい。私のせいでこんなことに」
「何を言ってるんですか。真波さんが謝ることでは。真波さんはただ座ってただけじゃないですか」
「でも私を守るために」
「ええ、まあ。真波さんのご両親に謝罪してて頭を上げたら、真波さんの背後にね、そうしたら勝手に体が動いてて」
そして救急車が来て俺は搬送された。真波は俺を心配して救急車に同乗してくれた。
「本当に大丈夫ですか?」
「ええ、心配ないですよ、これくらい。でも本当におゆき祭りの時は、申し訳ありませんでした。真波さんの顔を見たらどうしても自分が抑えられなくて」
俺は治療を受け横になっている状態で頭を下げた。
「もういいです、そんなこと。もう・・・あ、そう言えば、まだ、あなたのお名前お聞きしてませんでしたね」
「ああ、失礼しました。僕は重留経幸と言います。僕の両親がおゆき祭りが大好きだから、名前、真波さんも分かりますよね。神話に出てくる許嫁の名前を付けられちゃって。さっき俺と一緒にいたのが僕の兄貴、双子なんですけどね。その兄は真助です」
「そうなんですか?私も両親も、それから一実の家族も同じです。おゆき祭り、関之尾の滝が大好きなんです」
「本当にそんな大好きな祭り当日をあんな形で終わらせてしまって本当にすいません」
「だからもういいですよ。経幸さんのお気持ちは伝わりました。それに今日は私のこと守ってくれたから」
「良かった、やっと誤解が解けた。真助も一実さんの誤解、解けるといいな」
「大丈夫です。一実がまだ誤解してたら私が言ってあげます。真助さんが素敵な人だってこと」
「ええ!真波さん、それは無理でしょ。だってまだあいつのことは真波さん、全く分からないでしょ?」
「分かりますよ。だって経幸さんがこんな素敵な方なんですから。双子のお兄様なんでしょ」
「やっぱり思ってた通りの女性だ、真波さんは」
「え?何が、私のことどんな風に思われてたんですか?」
「真波さんのビジュアルと一緒で心も絶対に美しい方だと思ってましたから。イメージしてたとおりの外見も中身も素敵な女性だと分かりました」
「ヤダ、そんな風に言われると何か恥ずかしい」
「真波さん、とても可愛いです。やっぱりあなたは僕にとっておゆきさんだ」
「それはあなたが経幸さんだからですか?もしかしてそれは、私にさりげなく告白していらっしゃるんですか?」
「すいません、分かりにくかったですよね。家族にもよく言われるんです。話の内容が回りくどいとか、意図の伝わらない話し方だとか」
「フフフ、納得です」
「ちょ、ちょっと、そこで納得しちゃいます?参ったな、真波さんにそう思われると何か僕、凹むな」
「経幸さんて、楽しくて素敵な方ですね」
搬送される救急車の中で俺は真波と急速に心の距離を縮めた。
こんな予期せぬハプニングをキッカケにして俺と真助は真波と一実に猛アタックし、俺は真波と、真助は一実と付き合うようになり、お互い、一実と真波の母親にはすぐに受け入れてもらえたが、父親には俺達のことを中々受け入れてもらえず、自宅の敷居は跨がせてもらえず、デートはいつも外か、俺達の家だった。
ある日、俺と真助は久し振りに同じ日に休暇を取っていた。この日は久し振りにダブルデートの予定を入れていたのだ。それは十二月十一日、そう、俺達がゆきとしずに告白した日であり、ゆきの誕生日と決めた日だった。さらに驚くことにこの日は、何と!真波の誕生日だということだったのだ。その関連で一実の誕生日も聞くと、俺達がしずをお祝いした六月二十四日と、とんでもないミラクルが重なったのだ。俺と真助はそれだけでもう、一実と真波がしずとゆきの生まれ変わりだと思いこむようになっていた。そんな真波の誕生日、俺達はまた愛宕山に来て夜景を見ていた。
「うわあ、素敵ね、愛宕山の夜景って。こんなに綺麗だったんだね。ネットで調べて凄く素敵な夜景だってことは聞いてたんだけど、本物を自分の目で見ると、こんなに凄いんだね」
「本当に、真波の言う通り。私も真波も愛宕山にこんな時間に来たの初めてだから」
「そうだよね、私たち、パパが本当に厳しいから、経幸さんと真助さんがお付き合いする初めての男性だもんね」
「そ、そうなんだ。でも分かる気がするよ。一実さんのお父様も真波さんのお父様も本当に二人を凄く大切にしてることが分かるもんな。今日も迎えに行ったとき、2人を送り出すの渋々だったもんな。何とかお母様が口添えしてくれて出てきたんだもんな」
「ごめんなさいね、真助さん、もうお付き合いするようになって五か月くらい経つのに、未だに凄く気を遣わせちゃってるね」
「そう、経幸さんも」
「そんなことはいいんだよ。俺達は一実さんと真波さんとお付き合いできてる、もう、それだけで今が最高に幸せだから」
「でもさ経幸、もうそろそろさ、俺達、2人と付き合うようになって五か月だからさ、もう少し距離を縮めてもいいんじゃないかな?」
「と言うと?」
「お互いの呼び方だよ。だって未だにお互い、さん付けだからさ。そんな呼び方だから一実さんにも自分自身を大切にされてるって気もする反面、何か未だに付き合い始めから距離が縮まってないような気もしてさ。俺、やっぱり、大好きな女性には呼び捨てされたいんだよな。経幸もそうだろ?」
「いや、俺はどちらでもいいよ。俺は真波さんに任せるよ。だってそれは強要することじゃないと思うから。俺は真波さんの気持ちを尊重したい」
「うわあ、経幸、今ここでお前お得意の優等生振るのかよ」
「何だよ、俺は別にそんなこと。ただ俺は真波さんを大切にしたいだけで。何だよ、俺にまでお前の意見を押し付けるのかよ」
「何だよ!別に押し付けてなんかないだろ」
そんな俺達が少し呼び方のことで一悶着ありそうな雰囲気になっていると、真波がそれを払拭してくれた。
「ねえ、見て、あれ、UFOじゃない?ねえ、そうでしょ、経幸」
「バカだな、よく見て、真波さん。光がピカピカしてるでしょ。飛行機だよ、ってえ!今、真波さん、俺のこと経幸って?」
俺はそう言って少し笑顔になり、その表情を真助は見逃さなかった。
「ほーら見ろ経幸。お前、今、真波さんに呼び捨てにされて嬉しそうな顔になったじゃねーか。俺は見逃さなかったからな」
「じゃあ、私も、そんなに真助さんが望むなら思い切って。これからも宜しく御願いします、真助」
「ああ、こちらこそ、一実さん」
「もう!こっちが思い切って呼んだのに。そうじゃないでしょ。一実って呼んでよね」
「そうか、ゴメン、一実」
「そう」
「じゃあ、今度は経幸、あなたも。ほら、私のこと、呼んでみて」
「いや、俺はさっき言ったとおり、今までどおりの呼び方で・・・」
「もう、お前は本当にムッツリだな。素直になれよ」
「ほら、経幸」
「分かったよ。真波、誕生日おめでとう。来年のこの日も、君の隣でこの言葉を言いたいな」
「うわあ、出たよ。全く、気障なひと言付け加えやがって。俺だってな、来年は必ず一実の誕生日は俺が盛大に祝ってやるんだからな。経幸、お前も手伝えよ」
「何だよ、俺がって言ってる割には、弟の俺に手伝わせるのかよ」
そんな俺と真助のやり取りに真波と一実は最高の笑顔で答えてくれた。それはまるで一年前のゆきとしずと錯覚しそうだった。
「フフフ、経幸と真助って凄い面白い。まるで兄弟漫才見てるみたい」
そう言うと真波と一実は再び二人で夜景を見下ろして、まるで姉妹みたいに仲良く話していた。
「なあ、経幸、あの二人、本当にしずとゆきみたいだな。本当の姉妹みたいだ」
「本当だな、2人の誕生日、俺達が決めたしずとゆきの誕生日と同じだし。それに思わないか?外見はもう完璧に二人ともしずとゆきに生き写しだけど、最近さ、出会った時からさ、仕草や言動一つ一つがもっとしずとゆきに似てきてるように思うんだよな」
「確かにな、真助の言う通り、俺もそう思ってた」
そう言って俺達が二人の背中を見つめてると、真波と一実は突然振り向いた。
「ねえ、経幸」
「ねえ、真助」
「な、何?」
「今、2人でじっと私たちのこと見つめてたでしょ。私たちの背中を見つめて、何を二人で話してたのよ」
「え、あ、いや、それは、何か真波と一実って姉妹みたいだなって。仲がいいなって、なあ、真助」
「そうそう」
俺と真助は真波と一実と付き合うようになって初めて迎えるおゆき祭りの前日、やっと二人の父親にも娘の彼氏と本当に認めてもらえて、初めて自宅にも入れてもらえて、そして真波と一実の部屋にも初めて入れてもらえた。
「何か緊張するな、真波(一実)の部屋に入るの。どんな部屋か楽しみだな」
「ヤダ、あんまり入る前に期待を膨らませちゃ」
俺達は真波(一実)の部屋に入った。俺達はもっと女の子女の子してる可愛らしい部屋を想像していたが、2人とも、本当にシンプルな飾り気のない落ち着いたテイストの部屋だった。
「へえ、もっと真波(一実)らしい可愛い部屋を想像してたけど、何か男の部屋みたいだね」
「ゴメンね、経幸(真助)、減滅した?あまりに寂しい部屋だから。でも私、あまりいろんなものでごちゃごちゃしてる部屋だと落ちつかないから」
「いや、俺も何かホッとしたよ。あんまり期待してた通りの可愛い部屋だと俺も余計緊張して落ち着かないと思うから。凄くこの部屋落ち着くよ」
そして俺は真波(一実)のベットに並んで座った。
「ねえ、経幸(真助)、明日、いよいよおゆき祭りだね」
「そうだね、真波(一実)と出会ってから一年が経つんだね」
「でも不思議。経幸(真助)とあんな出会い方だったのに。まさかそんな経幸(真助)とこんな風に今、こうして私の部屋で・・・」
「そうだね」
そう言いながら俺は真波(一実)の肩を抱きながら、何となく真波(一実)の机の上を見ていた。その時、俺はあるものに目が釘づけになった。そして俺は机に駆け寄りそのあるものを両手で包み込んだ。俺の目からは自分でもどうしようもないほどの涙が溢れた。
「ま、真波(一実)!こ、これは」
「あ、それ、それがどうしたの?それは去年のおゆき祭りの前日に、無事に朱盃流しの大役が務まるように関之尾の滝に手を合わせに二人で言ったときに拾ったのよ。拾ったものだから捨てようと思って家に持って帰ってきたんだけど、何か中身を見たら捨てられなくて。ね、素敵でしょ」
俺はそれを握りしめて、そして真波(一実)を抱きしめた。
「ど、どうしたのよ経幸(真助)。ねえ、何で泣いてるの?」
俺はその真波(一実)の質問に答えられなかった。泣き過ぎて言葉が発せられなかった。ただただ真波(一実)を抱いて頷くしかなかった。
「だから、どうしたのよ。ねえってば」
そう俺は真波(一実)の机の上で見つけたのだ。あの時、ゆき(しず)が入っていた瓶に入ったあの手作りのブレスレットを。俺は真波(一実)を抱きしめて心の中で叫んでいた。
「ゆき(しず)、ありがとう。君に逢えて良かった」
そしてそう心の中で叫んだ後、俺には確かに聞こえたような気がした。ゆき(しず)の声が。
「経幸(真助)、ありがとう。あなたに逢えて良かった」
(了)
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