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第九話 始まりの産声

眩しい。


最初に感じたのは光だった。


次に音。


誰かが叫んでいる。


いや。


喜んでいるのか。


意識はまだ混沌としていて、言葉が分からない。


意味も分からない。


ただ騒がしい。


そして。


息苦しい。


「ぶぇっ」


変な声が出た。


その瞬間。


周囲がさらに騒がしくなった。


――


いや。


まだ村上直哉だった意識は混乱した。


何だこれ。


身体が動かない。


視界がぼやける。


力が入らない。


そのくせ妙に眠い。


嫌な予感がした。


恐る恐る自分の手を見る。


小さい。


信じられないほど小さい。


指も短い。


爪も柔らかい。


「嘘だろ」


と言いたかった。


だが。


「うぇぇぇぇん!!」


としか出なかった。


最悪だった。


女神に騙された。


そう思った。


完全に騙された。


働きたくないと言った。


楽して寝てたいとも言った。


なのに。


まさか赤ん坊からやり直しとは聞いていない。


ブラック企業でもここまで新人教育は厳しくない。


その時だった。


大きな男が現れた。


黒髪。


鋭い目。


広い肩。


鍛え上げられた身体。


四十代半ばほどだろうか。


男は直哉――いや、赤子を抱き上げた。


そして。


泣いていた。


大の男が。


声を殺しながら。


嬉しそうに。


本当に嬉しそうに。


「――――」


知らない言葉だった。


だが今度は、不思議と意味だけは分かった。


よく来てくれた。


そう言ったのだ。


男は笑っていた。


心の底から。


歓迎するように。


愛おしむように。


その顔を見た時だった。


直哉は初めて理解した。


ああ。


俺は生まれたんだ。


本当に。


もう一度。


人生を。


やり直すらしい。


赤子の視界はぼやけていた。


だが一つだけ分かることがあった。


この男は強い。


理屈ではない。


本能だった。


獣が王を見た時のような感覚。


圧倒的な存在感。


そして。


その男は再び笑った。


「――――」


また知らない言葉。


だが今度は分かった。


名前だ。


俺の名前だ。


カイゼル。


それが。


この世界で与えられた、


新しい名前だった。


抗議したかった。


もっと格好いい名前が良かった。


そう思った。


だが。


「うぇぇぇぇん!!」


としか言えなかった。


赤ん坊とは不便な生き物である。


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