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第五話 気分上々

会社をサボったのには理由があった。


昼寝から目を覚ます。


時計を見る。


十四時二十三分。


スマートフォンを見る。


通知が一件。


美咲だった。


『今日さ、十七時くらいから早めに飲まない?』


直哉は画面を見つめた。


三秒考える。


そして決断した。


今日は終業。


経営判断である。


誰が何と言おうと。


十五時過ぎ。


直哉は会社を脱出した。


駅前の居酒屋。


赤提灯。


煤けた暖簾。


カウンター八席。


テーブル三卓。


大将一人で回している小さな店だった。


「おう」


暖簾をくぐる。


大将が顔を上げる。


そして呆れた顔をした。


「またサボりか」


「違う」


「じゃあなんだ」


「戦略的撤退」


「同じだろ」


直哉は笑いながらカウンターへ座った。


とりあえず生。


何も言わなくても出てくる。


付き合いは長い。


ビールが置かれる。


一口飲む。


うまい。


仕事中に飲む酒はなぜこんなにうまいのだろう。


「最低な顔してるぞ」


「最高の顔だろ」


「社長が平日の夕方から飲む顔じゃねぇな」


「社長だから飲むんだよ」


「意味分からん」


二人で笑う。


枝豆。


煮込み。


焼き鳥。


唐揚げ。


適当に頼む。


適当に食う。


それがいい。


しばらくして暖簾が揺れた。


美咲だった。


白いシャツにジャケット。


そして黒いパンツ。


いつも通り。


特別気合いを入れている感じもない。


だが少しだけ背の高い彼女は目立つ。


店の中の男たちが一瞬見る。


直哉も見た。


少しだけ長く。


「なに」


美咲が笑う。


「いや」


「いや?」


「来たなと思って」


「当たり前でしょ」


美咲は隣へ座る。


距離が近い。


香水の匂いがした。


たぶん高いやつ。


知らないけど。


「乾杯」


グラスが鳴る。


美咲は一口飲む。


「うま」


「だろ」


「サボり酒だから?」


「そう」


「最低」


「知ってる」


二人で笑った。


そこからは他愛もない話だった。


最近見た動画。


仕事の愚痴。


友達の話。


昔の失敗談。


話題はコロコロ変わる。


だが不思議と飽きなかった。


気付けばビールは三杯目。


ハイボールに変わる。


美咲もそれなりに飲んでいる。


頬が少し赤い。


直哉も酔っていた。


かなりいい気分だった。

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