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第四十一話 宿場町ローゼン

魔物の群れを退けたその日の夕方。


一行は街道最大級の宿場町、ローゼンへ到着した。


辺境とは比べものにならないほど大きな町だった。


石畳の大通り。


三階建ての宿屋。


左右に並ぶ露店。


行き交う荷馬車。


商人。


傭兵。


冒険者。


旅人。


様々な人々が忙しなく行き交っている。


「……すご。」


カイゼルは思わず立ち止まった。


「人、多っ!」


ルセリも辺りを見回して目を輝かせる。


「これ全部宿場町?」


「そうですよ。」


エルネストが微笑む。


「王都へ向かう者も、王都から帰る者も必ずと言っていいほど立ち寄ります。」


「王国有数の交通の要所です。」


グラムは興味もなさそうに宿を指差した。


「荷物置いてこい。」



宿へ荷物を預ける。


ガレスが全員を集めた。


「二時間自由行動。」


「日没までには戻れ。」


「了解!」


ルセリが真っ先に立ち上がる。


「行こ!」


「どこへ?」


「市場!」


「休憩じゃないのか?」


「市場を見るのが休憩なの!」


意味はよく分からなかった。



二人は町を歩く。


辺境では見たこともない店ばかりだった。


教国の銀細工。


南方の香辛料。


帝国製の工具。


東方皇国の茶器。


「世界中の物が集まってるみたいだな。」


「だから宿場町は面白いのよ。」


ルセリは店先のアクセサリーへ一直線だった。


「かわいい!」


「見てこれ!」


「これも!」


「これも!」


カイゼルは横から覗き込む。


「全部同じじゃないか?」


ルセリが固まる。


ゆっくり振り向く。


「……最低。」


「え?」


「全然違うから。」


「どこが?」


「全部。」


「分からん。」


「分からなくていい。」


「なんでだよ。」


「男だから。」


「理不尽だ。」


ルセリは笑いながら店を後にした。



そのまま武器屋へ入る。


壁一面に剣が並んでいる。


カイゼルは自然と一本を手に取った。


何度か軽く振る。


店主が声を掛ける。


「兄ちゃん。」


「鍛冶師か?」


「違います。」


「剣士です。」


「そうか。」


店主は笑う。


「なら遠慮なく見てくれ。」


カイゼルはさらに数本を握る。


重心。


重さ。


刃の反り。


柄の握り。


一本一本確かめていく。


「この剣。」


「少し重心が前ですね。」


店主が頷く。


「そうだ。」


「叩き斬る用だ。」


「あと。」


カイゼルは刃を光へ向けた。


「焼き入れが左右で少し違います。」


「右側の方が硬い。」


店主の笑顔が止まった。


「……分かるのか?」


「何となく。」


「あと柄も。」


「少しだけ軸がずれてます。」


店主はしばらく黙っていた。


やがて苦笑する。


「兄ちゃん。」


「何者だ?」


カイゼルも苦笑した。


「辺境です。」


店主は豪快に笑った。


「辺境は怖ぇな!」


「そんな若造がそこまで見るとは!」


ルセリが横で笑う。


「この人、変なところだけ細かいの。」


「変って何だ。」


「褒めてる。」


「絶対違う。」



武器屋を出ると、大きな建物が目に入った。


剣と盾の看板。


中から大勢の笑い声が聞こえてくる。


「何だあれ?」


カイゼルが尋ねる。


「冒険者ギルド。」


ルセリが答えた。


「辺境にはなかったでしょ。」


「へぇ。」


興味本位で中へ入る。


酒を飲む者。


依頼を眺める者。


受付で話す者。


活気に満ちていた。


壁には依頼書がぎっしり貼られている。


魔物討伐。


護衛依頼。


薬草採取。


遺跡調査。


カイゼルは受付嬢へ聞いた。


「騎士と何が違うんですか?」


受付嬢は慣れた様子で答える。


「騎士は国を守る人。」


「冒険者は依頼を受ける人です。」


「所属も違います。」


「なるほど。」


カイゼルは感心した。


「面白そう。」


「登録する?」


ルセリが笑う。


「いや。」


「怒られる。」


「間違いなく。」


二人は顔を見合わせて笑った。



その頃。


グラムは酒場にいた。


「爺さん!」


「飲み比べしねぇか!」


大男たちが笑う。


「いいぞ。」


十分後。


全員床で眠っていた。


グラムだけが静かに酒を飲んでいる。


酒場の主人が呟く。


「……また樽一本空いた。」



一方。


エルネストは古書店を訪れていた。


静かな店内。


埃を被った古い魔導書。


一冊ずつ丁寧に目を通していく。


その時。


棚の奥。


革表紙の古い本が目に留まる。


題名は削れて読めない。


開く。


古代帝国文字。


エルネストはゆっくり読み始めた。


『魔力とは世界の理を借りる力。』


次の頁。


『闘気とは己の魂を極める力。』


さらに頁をめくる。


最後の一文だけが残されていた。


『二つの理を一つと成す者あり。』


老人の目が細くなる。


「……やはり。」


静かに本を閉じる。


何も言わず、その本を購入した。



夕方。


宿へ戻る途中。


広場では大道芸人が芸を披露していた。


火を吹き。


玉を操り。


最後は初級魔法で小さな火の鳥を作り出す。


子供たちが歓声を上げる。


「すごーい!」


ルセリも一緒になって拍手していた。


「こういうの好き。」


「平和だな。」


カイゼルが笑う。


「だから旅って好きなの。」


ルセリも笑った。



夜。


宿の食堂。


四人で夕食を囲む。


ふと。


ルセリが呟く。


「静かね。」


カイゼルも周囲を見回す。


「確かに。」


「レオンがいたら今頃うるさい。」


「絶対『俺ならもっと派手に倒せた!』とか言ってるわ。」


二人は吹き出した。


「フィアは?」


「『勇者様、少し静かにしてください』って困ってる。」


「それで結局レオンは聞かない。」


「いつもの流れね。」


少しだけ。


寂しかった。


カイゼルは窓の外を見る。


「また会えるかな。」


ルセリは迷わず頷く。


「会えるわよ。」


「だって。」


「私たち、同じ時代を生きてるんだから。」


カイゼルは静かに笑った。


「そうだな。」


宿場町の夜は賑やかだった。


旅人たちの笑い声。


酒場の音楽。


馬車の音。


そのどれもが、辺境では聞いたことのない音だった。


王都まで。


あと六日。


旅はまだ続く。

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