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第四十話 冬の街道

冬の訪れは早かった。


辺境の山々は薄く雪化粧をまとい、吐く息は白い。


まだ本格的な積雪ではない。


それでも朝の冷え込みは厳しく、街道には霜が降りていた。


辺境伯城の正門。


遠征隊二十騎が静かに並ぶ。


先頭にはグラム。


エルネスト。


騎士団長ガレス。


そしてカイゼルとルセリ。


「行ってきます!」


アルトゥスは静かに頷いた。


「王都へ向かう道も王国の一部だ。」


「辺境騎士として恥じぬ働きをしてこい。」


「はい!!」


号令と共に一行は馬を進める。


冷たい冬風が頬を撫でた。



旅は順調だった。


街道には旅人が行き交い、荷馬車が列をなし、各地の商人たちが王都を目指している。


辺境では見かけない品も多い。


南方の果物。


教国のワイン。


帝国製の工具。


「面白いな。」


カイゼルは荷馬車を眺めながら呟く。


「世界って広い。」


エルネストが微笑んだ。


「まだ入口ですよ。」


「王都へ着けばもっと驚きます。」


ルセリは露店で売られている焼き菓子を見つめていた。


「寄りたい。」


「寄れ。」


「やった。」


グラムが即答すると、ルセリは一瞬固まる。


「……え?」


「一個だけだ。」


「師匠が優しい。」


「勘違いするな。」


「俺も食う。」


「ですよね。」



昼を少し過ぎた頃だった。


山間部へ入った街道。


突然。


風に悲鳴が乗った。


「助けてくれぇぇ!!」


「魔物だ!」


「護衛が押されてる!」


ガレスが手を上げる。


「停止!」


前方には大型商隊。


十台以上の荷馬車。


護衛騎士たちが必死に応戦していた。


だが。


数が違う。


森の中から次々と現れる。


ゴブリン。


コボルト。


牙狼。


さらに。


オークまで混じっていた。


ざっと百体近い。


「こんな数……!」


騎士が息を呑む。


グラムは腕を組んだ。


「坊主。」


「はい。」


「ルセリ。」


「はい。」


「全部お前らでやれ。」


二人は同時に振り返る。


「え?」


「修行だ。」


「いや多くない?」


「多いな。」


「ですよね!」


「だから修行になる。」


反論は却下だった。


グラムは笑う。


「死ぬなよ。」


「軽っ!」



ルセリが先に動いた。


「行く!」


闘気が全身を包む。


「闘技――神速。」


ドンッ!!


雪煙だけが残る。


姿が消えた。


ゴブリンの群れへ飛び込む。


キィン!


キィン!


キィィン!


銀色の閃光が縦横無尽に駆け抜ける。


一匹。


二匹。


十匹。


二十匹。


魔物たちは何が起きたかも分からないまま倒れていく。


護衛騎士が目を見開いた。


「速すぎる……!」



「こっちは任せろ!」


カイゼルも剣を抜く。


風が集まる。


「魔剣技――断空閃!」


ヒュンッ!!


三日月状の風の刃が一直線に飛ぶ。


牙狼五頭。


コボルト四体。


そのまま後方のゴブリンまでまとめて切り裂いた。


「まだまだ!」


続いてオークの群れ。


数十体が一斉に突撃してくる。


カイゼルは剣を地面へ突き立てた。


「魔剣技――鋼牙!」


ゴゴゴゴゴ!!


街道が震える。


次の瞬間。


無数の鋼鉄の棘が地面を突き破った。


ズドッ!


ズドドドドッ!!


鋼の牙が次々と突き上がる。


オークたちは避ける暇もなく串刺しになった。


護衛騎士たちから歓声が上がる。


「すげぇ!」


「地面が……!」


「鉄になった!」



しかし。


森の奥から咆哮が響く。


ドォォォン!!


巨大なオーガだった。


身長は三メートル近い。


手には大木をそのまま棍棒代わりに持っている。


「グオォォォ!!」


棍棒が振り下ろされる。


地面が砕けた。


「硬そうね。」


ルセリが着地する。


「斬れる?」


「やってみる。」


「私が隙を作る。」


「頼む。」



ルセリが消える。


「闘技――神速!」


オーガの周囲を高速で駆け回る。


右。


左。


背後。


視界が乱される。


オーガは怒り狂って棍棒を振り回す。


しかし。


当たらない。


「こっちよ!」


「遅い遅い!」


「こっち!」


完全に翻弄されていた。


「今!」


ルセリが叫ぶ。


カイゼルが踏み込む。


炎が剣を包む。


「魔剣技――紅蓮斬!!」


轟ッ!!


灼熱の斬撃が一直線に飛ぶ。


オーガの胸へ直撃。


一瞬の静寂。


次の瞬間。


ドォォォォン!!


爆炎が雪原を赤く染め上げた。


熱風が吹き荒れる。


巨大な身体がゆっくり崩れ落ちた。


沈黙。


そして。


残っていた魔物たちは一斉に森へ逃げ出した。



戦いは終わった。


商人たちはその場へ座り込み、大きく息を吐く。


年配の隊商長が震える手で頭を下げた。


「ありがとうございました……。」


「本当に助かりました。」


「王都騎士団の方々ですか?」


カイゼルは苦笑する。


「違います。」


「東方辺境伯領です。」


その言葉に商人たちは顔を見合わせる。


「辺境……。」


「辺境の若者が、これほどとは……。」


ルセリは照れくさそうに笑う。


「まだ見習いです。」


「十分化け物だよ……。」


誰かが思わず漏らした。


グラムは戦場を一瞥し、鼻を鳴らす。


「及第点だ。」


カイゼルは肩を落とす。


「百体倒して及第点ですか。」


「雑魚だからな。」


「基準おかしいですよ。」


エルネストは静かに倒れた魔物を見つめる。


「……やはり。」


「以前より明らかに数が増えています。」


ガレスも頷く。


「王都が救援を求める理由が分かってきたな。」


商隊は再び荷馬車を整え、街道を進み始める。


その列の最後尾から、小さな男の子がカイゼルたちへ向かって大きく手を振った。


「お兄ちゃん!」


「ありがとう!」


カイゼルも笑って手を振り返す。


その様子を見たルセリが肘で小突いた。


「ほら。」


「英雄っぽい。」


「やめろ。」


「照れてる。」


「照れてない。」


冬空の下。


二人の笑い声は、白い息とともに街道へ静かに溶けていった。

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