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第三十九話 王都からの使者

秋が終わりを迎えようとしていた。


辺境はいつもの静けさを取り戻していた。


魔物討伐以来、大きな異変は起きていない。


騎士団は巡回を続け。


領民は畑を耕し。


市場には笑い声が戻っていた。


そんなある日だった。


城門の鐘が鳴る。


カラン――


カラン――


「伝令!」


「王都より伝令です!」


一頭の軍馬が砂煙を巻き上げながら城内へ飛び込んできた。


騎士は全身を土埃で汚している。


馬も限界だった。


門番が慌てて道を開ける。


「辺境伯様へ!」


「王都より緊急親書!」



執務室。


アルトゥスは封蝋を割る。


部屋にはグラム。


エルネスト。


騎士団長ガレス。


主要な幹部たちが揃っていた。


親書へ目を通したアルトゥスの表情が変わる。


「……王都が。」


静かに呟く。


「救援を求めている。」


部屋がざわつく。


王都が。


辺境へ。


救援を。


そんなことは極めて珍しかった。


「何があったのですか。」


エルネストが尋ねる。


アルトゥスは親書を机へ置く。


「王都近郊で魔物の異常発生。」


「被害が急速に拡大。」


「討伐隊では抑え切れなくなっている。」


さらに。


一枚の報告書を取り出した。


「そして。」


「王立魔導院からも。」


「調査協力の要請が来ている。」


エルネストの眉が動く。


「魔導院が?」


「珍しいですね。」


「理由は書かれていない。」


「だが。」


アルトゥスは全員を見回した。


「王都は何かを掴んだのだろう。」


静寂が落ちる。


グラムが腕を組んだまま言う。


「行くぞ。」


短い一言だった。


「辺境騎士団より精鋭二十名。」


「俺も出る。」


ガレスも頷く。


「私も同行します。」


アルトゥスは少し考えたあと、静かに口を開いた。


「カイゼルも連れて行け。」


部屋の空気が止まる。


若い騎士が思わず声を上げた。


「ですが!」


「まだ十八歳です!」


アルトゥスは首を横へ振る。


「十八歳だからではない。」


「十八歳でもない。」


「今のあいつだからだ。」


その言葉に。


誰も反論できなかった。


ベルゼインを退けた。


世界初の魔剣技を完成させた。


今のカイゼルは、すでに辺境騎士団でも特別な存在になりつつあった。


「ルセリも同行させます。」


ガレスが言う。


「王都の若手騎士たちにも刺激になるでしょう。」


グラムが鼻で笑う。


「刺激で済めばいいがな。」



夕方。


訓練場。


「王都?」


カイゼルは首を傾げた。


「俺が?」


エルネストが頷く。


「王命です。」


「断れません。」


「えぇ……。」


ルセリが笑う。


「王都よ!」


「王都!」


「美味しいお店いっぱいあるかな!」


「お前、遊びに行くんじゃないぞ。」


「知ってる。」


「でもちょっと楽しみ。」


カイゼルも苦笑した。


実は。


少しだけ楽しみだった。


辺境しか知らない人生。


王都。


勇者。


貴族。


魔導院。


王城。


本でしか読んだことのない世界。


その時だった。


グラムが近付く。


「坊主。」


「はい。」


「勘違いするな。」


「王都は辺境より危険だ。」


「魔物じゃねぇ。」


「人間がな。」


カイゼルは少し笑った。


「師匠。」


「それ。」


「一番怖いですね。」


グラムも珍しく笑う。


「ようやく分かったか。」


その夜。


辺境には旅支度をする音が響いていた。


誰もまだ知らない。


この旅が。


カイゼルの人生を大きく変えることになるとは。


そして。


王都で待つ再会が。


世界の運命を静かに動かし始めることを。

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