第三十九話 王都からの使者
秋が終わりを迎えようとしていた。
辺境はいつもの静けさを取り戻していた。
魔物討伐以来、大きな異変は起きていない。
騎士団は巡回を続け。
領民は畑を耕し。
市場には笑い声が戻っていた。
そんなある日だった。
城門の鐘が鳴る。
カラン――
カラン――
「伝令!」
「王都より伝令です!」
一頭の軍馬が砂煙を巻き上げながら城内へ飛び込んできた。
騎士は全身を土埃で汚している。
馬も限界だった。
門番が慌てて道を開ける。
「辺境伯様へ!」
「王都より緊急親書!」
◇
執務室。
アルトゥスは封蝋を割る。
部屋にはグラム。
エルネスト。
騎士団長ガレス。
主要な幹部たちが揃っていた。
親書へ目を通したアルトゥスの表情が変わる。
「……王都が。」
静かに呟く。
「救援を求めている。」
部屋がざわつく。
王都が。
辺境へ。
救援を。
そんなことは極めて珍しかった。
「何があったのですか。」
エルネストが尋ねる。
アルトゥスは親書を机へ置く。
「王都近郊で魔物の異常発生。」
「被害が急速に拡大。」
「討伐隊では抑え切れなくなっている。」
さらに。
一枚の報告書を取り出した。
「そして。」
「王立魔導院からも。」
「調査協力の要請が来ている。」
エルネストの眉が動く。
「魔導院が?」
「珍しいですね。」
「理由は書かれていない。」
「だが。」
アルトゥスは全員を見回した。
「王都は何かを掴んだのだろう。」
静寂が落ちる。
グラムが腕を組んだまま言う。
「行くぞ。」
短い一言だった。
「辺境騎士団より精鋭二十名。」
「俺も出る。」
ガレスも頷く。
「私も同行します。」
アルトゥスは少し考えたあと、静かに口を開いた。
「カイゼルも連れて行け。」
部屋の空気が止まる。
若い騎士が思わず声を上げた。
「ですが!」
「まだ十八歳です!」
アルトゥスは首を横へ振る。
「十八歳だからではない。」
「十八歳でもない。」
「今のあいつだからだ。」
その言葉に。
誰も反論できなかった。
ベルゼインを退けた。
世界初の魔剣技を完成させた。
今のカイゼルは、すでに辺境騎士団でも特別な存在になりつつあった。
「ルセリも同行させます。」
ガレスが言う。
「王都の若手騎士たちにも刺激になるでしょう。」
グラムが鼻で笑う。
「刺激で済めばいいがな。」
◇
夕方。
訓練場。
「王都?」
カイゼルは首を傾げた。
「俺が?」
エルネストが頷く。
「王命です。」
「断れません。」
「えぇ……。」
ルセリが笑う。
「王都よ!」
「王都!」
「美味しいお店いっぱいあるかな!」
「お前、遊びに行くんじゃないぞ。」
「知ってる。」
「でもちょっと楽しみ。」
カイゼルも苦笑した。
実は。
少しだけ楽しみだった。
辺境しか知らない人生。
王都。
勇者。
貴族。
魔導院。
王城。
本でしか読んだことのない世界。
その時だった。
グラムが近付く。
「坊主。」
「はい。」
「勘違いするな。」
「王都は辺境より危険だ。」
「魔物じゃねぇ。」
「人間がな。」
カイゼルは少し笑った。
「師匠。」
「それ。」
「一番怖いですね。」
グラムも珍しく笑う。
「ようやく分かったか。」
その夜。
辺境には旅支度をする音が響いていた。
誰もまだ知らない。
この旅が。
カイゼルの人生を大きく変えることになるとは。
そして。
王都で待つ再会が。
世界の運命を静かに動かし始めることを。




