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第三十七話 三年の成果

三年の歳月が流れた。


十八歳となったカイゼルは、少年の面影を残しながらも、立派な青年へと成長していた。


身長はグラムに迫るほど伸び、鍛え抜かれた身体には無駄な肉が一切ない。


黒髪は少し長くなり、鋭い眼差しには以前のような幼さは残っていなかった。


それでも。


口を開けば相変わらずだった。


「師匠、今日は休みにしません?」


「却下だ。」


「まだ理由も言ってません。」


「聞くまでもない。」


「理不尽だ……。」


ルセリは少し離れた場所で木剣を振りながら笑う。


「毎日同じこと言ってるわね。」


「諦めが悪いだけだ。」


グラムは鼻を鳴らした。


「そのくらいでちょうどいい。」



合同訓練が始まって三年。


闘気と魔力。


本来なら決して交わらない二つの力を、カイゼルは少しずつ制御できるようになっていた。


最初に完成したのは風。


今では五つの基本属性すべてで魔剣技を扱える。


訓練場の中央。


エルネストが木札を五枚並べた。


「見せてください。」


「はい。」


カイゼルは静かに剣を抜く。


まずは風。


「魔剣技――断空閃。」


剣が振り抜かれる。


ヒュン――


三日月状の風の斬撃が空を裂いた。


目にも止まらぬ速度で飛翔し、五十メートル先の木札を真っ二つに切り裂く。


切断面は驚くほど滑らかだった。


「断空閃。」


エルネストが静かに説明する。


「闘気を纏わせた風の刃を飛ばす、遠距離型魔剣技。」


「速度、射程、消費魔力の均衡が最も優れています。」


「現在の君の基本となる技ですね。」


グラムも頷く。


「迷ったらそれを振れ。」


「一番信用できる。」


カイゼルも笑った。


「俺も一番好きです。」



続いて火。


剣へ赤い魔力が集まる。


「魔剣技――紅蓮斬。」


剣が振り抜かれる。


轟ッ!!


燃え盛る炎の斬撃が一直線に飛翔する。


木札へ命中した瞬間。


爆炎が弾けた。


熱風が訓練場を吹き抜ける。


木札は跡形もなく燃え尽きていた。


「紅蓮斬。」


エルネストが頷く。


「炎を極限まで圧縮し、闘気で安定させた一撃です。」


「命中後は斬撃だけでなく爆炎による追撃も発生します。」


「五属性の中では最高火力。」


「ですが。」


老人は苦笑する。


「魔力消費も最高です。」


「考えて使いなさい。」


「はい。」



次は水。


いや。


氷だった。


剣身が白く染まる。


空気が一気に冷え込む。


「魔剣技――氷月。」


一閃。


淡い蒼色の三日月が静かに飛ぶ。


音はほとんどない。


次の瞬間。


木札は真っ二つになり、そのまま凍り付いた。


切断面から霜が広がっていく。


「斬るだけではありません。」


エルネストが静かに言う。


「命中した対象を瞬時に凍結させます。」


「大型の敵や動きの速い相手への拘束にも有効です。」


ルセリは初めて見た時を思い出し、小さく肩をすくめた。


「……性格悪い技よね。」


「便利だろ?」


「便利だけど。」


「やっぱり性格悪い。」



四つ目。


土。


カイゼルは剣を地面へ突き立てる。


「魔剣技――鋼牙。」


ゴゴゴゴゴ……


大地が震えた。


直後。


敵が立っているはずの場所一帯から、無数の鋼鉄の棘が一斉に突き上がる。


一本ではない。


十本でもない。


数え切れないほどの鋼の牙が大地を食い破る。


まるで巨大な鉄の森だった。


「土属性を応用した魔剣技です。」


エルネストが棘を見上げる。


「大地へ魔力と闘気を流し込み、地中の鉄鉱石や金属成分を鋼へ変換しています。」


「攻撃だけではありません。」


「防壁。」


「足止め。」


「敵集団の分断。」


「応用範囲は極めて広い。」


グラムが笑う。


「戦争向きだ。」


カイゼルは少し複雑そうな顔をした。



最後。


雷。


剣へ青白い雷光が走る。


バチッ。


空気が震えた。


「魔剣技――瞬雷剣。」


ドンッ!!


姿が消えた。


いや。


速すぎて見えなかった。


次の瞬間。


カイゼルは三十メートル先に立っていた。


その間に並んでいた木札は。


全てが斜めに切り裂かれていた。


一拍遅れて。


バチバチバチッ!!


雷鳴が響く。


「瞬雷剣。」


エルネストが静かに息を吐く。


「雷属性によって身体能力を瞬間的に極限まで高める高速魔剣技。」


「速度だけなら五属性中最速。」


「ですが。」


老人は真顔になる。


「身体への負担も最大です。」


「連発は厳禁。」


「はい。」


カイゼルも素直に頷いた。


実際、使うたびに脚へ鈍い痛みが残る。


まだ完成した技ではなかった。



五本の木札。


全てが破壊された。


訓練場は静まり返る。


エルネストはゆっくりと眼鏡を外した。


「五属性全ての魔剣技。」


「恐らく世界でも君だけでしょう。」


カイゼルは少し照れくさそうに笑う。


「ありがとうございます。」


だが。


グラムだけは腕を組んだままだった。


「まだだ。」


カイゼルが首を傾げる。


「え?」


「完成じゃねぇ。」


「全部覚えましたよ?」


「基礎をな。」


カイゼルは目を丸くする。


「……基礎?」


エルネストも静かに頷いた。


「単属性は、あくまで入口です。」


「本当の魔剣技は、その先にあります。」


「二つの属性。」


「それを同時に扱えるようになった時。」


「初めて魔剣技は完成すると私は考えています。」


カイゼルはしばらく黙っていた。


やがて。


ゆっくり笑う。


「……面白くなってきた。」


グラムも笑う。


「その顔だ。」


「その面倒くせぇ顔になると思った。」


ルセリは呆れたようにため息をつく。


「また寝る時間なくなるわね。」


夕暮れの訓練場。


五つの魔剣技は完成した。


だが。


それは終着点ではない。


まだ始まりに過ぎなかった。


世界初の複合魔剣技。


その扉は、静かに開こうとしていた。

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