第三十六話 魔剣技
朝日が辺境の訓練場を照らしていた。
いつものように木剣を肩へ担いでやって来たカイゼルは、その光景を見て思わず立ち止まる。
訓練場の中央。
グラムが腕を組んで立っていた。
その隣には、ローブ姿のエルネスト。
二人が並ぶ姿は珍しい。
いや。
初めてだった。
「……何かあったんですか?」
カイゼルが恐る恐る聞く。
グラムは短く答えた。
「今日からだ。」
「何がです?」
エルネストが穏やかに微笑む。
「合同訓練です。」
「嫌です。」
「却下。」
「まだ理由も聞いてません。」
「却下だ。」
即答だった。
ルセリは少し離れた場所で見学している。
「かわいそう……。」
小さく呟いた。
「聞こえてるぞ。」
「ごめん。」
全然悪いと思っていない返事だった。
◇
「まずは基本です。」
エルネストが杖を構える。
「闘気を纏ってください。」
カイゼルは深呼吸する。
身体の内側から闘気を巡らせる。
青白い闘気が身体を包む。
「その状態で火球を。」
「はい。」
右手へ魔力を集中させる。
火が灯る。
火球が完成する。
次の瞬間。
ドォン!!
爆発した。
「熱っ!」
カイゼルが後ろへ吹き飛ぶ。
髪は逆立ち、顔は真っ黒。
ルセリが吹き出した。
「一秒だったわね。」
「笑うな……。」
エルネストは平然としている。
「失敗です。」
グラムが腕を組む。
「百回やれ。」
「鬼ですか。」
「違う。」
「師匠だ。」
「なお悪い。」
◇
それから一週間。
毎日。
朝から夕方まで。
爆発。
爆発。
また爆発。
訓練場には黒焦げの跡が増えていく。
木剣は折れ。
服は焦げ。
髪は何度も焼けた。
ルセリは呆れながら水筒を差し出す。
「よく心折れないわね。」
カイゼルは地面へ寝転んだまま空を見る。
「折れてる。」
「でも。」
「何かできそうなんだ。」
その目だけは諦めていなかった。
◇
ある日。
グラムが木剣を拾う。
「見てろ。」
闘気が剣へ集まる。
空気が震えた。
「これが闘技だ。」
一歩踏み込む。
剣が振り抜かれる。
ズガァァン!!
数十メートル先の巨岩が真っ二つになった。
衝撃だけで土煙が舞う。
カイゼルは息を呑む。
「すげぇ……。」
続いて。
エルネストが前へ出る。
杖を静かに掲げる。
「中位魔法。」
「メガリスフォール。」
空中へ巨大な岩塊が出現する。
轟音と共に落下。
大地が揺れた。
岩は粉々に砕け散る。
「これが魔法です。」
エルネストは静かに杖を下ろした。
グラムが続ける。
「どちらも強い。」
「だが。」
「混ぜればもっと強い。」
カイゼルが頷く。
「でも誰もできない。」
「だから存在しない。」
グラムが答えた。
「少なくとも今まではな。」
◇
その日の夕方。
一人で木剣を振り続ける。
闘気。
魔力。
何度も何度も失敗する。
「違う……。」
「魔法を剣へ纏わせるから弾かれる。」
ふと。
昔の記憶が頭をよぎる。
前世。
会社を経営していた頃。
技術者だけ集めても限界があった。
営業だけでも駄目だった。
デザイナーだけでも。
研究者だけでも。
突破できなかった壁。
けれど。
全く違う業界。
全く違う考え方。
異なる人たちを繋げた瞬間。
一気に新しい価値が生まれた。
「そうか……。」
「同じものを混ぜるんじゃない。」
「違うものだから意味があるのか。」
カイゼルはゆっくり剣を構える。
「闘気を剣へ。」
「魔力は剣じゃない。」
「風そのものへ流す。」
試してみる。
闘気を剣へ巡らせる。
同時に風魔法を発動。
だが融合させるのは剣ではない。
剣から放たれる風だった。
一振り。
ヒュン――
風が飛ぶ。
その瞬間。
十メートル先の木が、音もなく斜めに切り裂かれた。
静寂。
誰も動かない。
いつの間にか。
グラム。
エルネスト。
ルセリ。
三人とも後ろへ来ていた。
カイゼルはゆっくり木を見る。
「……飛んだ?」
グラムは答えない。
エルネストも答えない。
二人とも初めて見る現象だった。
ルセリがぽつりと呟く。
「今……剣が届いてないよね?」
エルネストが静かに頷く。
「届いていません。」
「風だけが飛びました。」
グラムが小さく笑う。
「坊主。」
「はい。」
「もう一度やれ。」
カイゼルは剣を構え直す。
今度は失敗した。
風は散る。
だが。
四人とも分かっていた。
偶然ではない。
確かに今。
世界に存在しなかった技術が生まれた。
カイゼルは剣を見つめながら笑う。
「これ。」
「魔剣技って呼びません?」
エルネストも微笑む。
「少し単純ですが……。」
「分かりやすいですね。」
グラムは鼻で笑った。
「悪くない。」
夕暮れの風が訓練場を吹き抜ける。
まだ名前のないその一撃は。
やがて世界を震わせる伝説の始まりだった。




