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第三十六話 魔剣技

朝日が辺境の訓練場を照らしていた。


いつものように木剣を肩へ担いでやって来たカイゼルは、その光景を見て思わず立ち止まる。


訓練場の中央。


グラムが腕を組んで立っていた。


その隣には、ローブ姿のエルネスト。


二人が並ぶ姿は珍しい。


いや。


初めてだった。


「……何かあったんですか?」


カイゼルが恐る恐る聞く。


グラムは短く答えた。


「今日からだ。」


「何がです?」


エルネストが穏やかに微笑む。


「合同訓練です。」


「嫌です。」


「却下。」


「まだ理由も聞いてません。」


「却下だ。」


即答だった。


ルセリは少し離れた場所で見学している。


「かわいそう……。」


小さく呟いた。


「聞こえてるぞ。」


「ごめん。」


全然悪いと思っていない返事だった。



「まずは基本です。」


エルネストが杖を構える。


「闘気を纏ってください。」


カイゼルは深呼吸する。


身体の内側から闘気を巡らせる。


青白い闘気が身体を包む。


「その状態で火球を。」


「はい。」


右手へ魔力を集中させる。


火が灯る。


火球が完成する。


次の瞬間。


ドォン!!


爆発した。


「熱っ!」


カイゼルが後ろへ吹き飛ぶ。


髪は逆立ち、顔は真っ黒。


ルセリが吹き出した。


「一秒だったわね。」


「笑うな……。」


エルネストは平然としている。


「失敗です。」


グラムが腕を組む。


「百回やれ。」


「鬼ですか。」


「違う。」


「師匠だ。」


「なお悪い。」



それから一週間。


毎日。


朝から夕方まで。


爆発。


爆発。


また爆発。


訓練場には黒焦げの跡が増えていく。


木剣は折れ。


服は焦げ。


髪は何度も焼けた。


ルセリは呆れながら水筒を差し出す。


「よく心折れないわね。」


カイゼルは地面へ寝転んだまま空を見る。


「折れてる。」


「でも。」


「何かできそうなんだ。」


その目だけは諦めていなかった。



ある日。


グラムが木剣を拾う。


「見てろ。」


闘気が剣へ集まる。


空気が震えた。


「これが闘技だ。」


一歩踏み込む。


剣が振り抜かれる。


ズガァァン!!


数十メートル先の巨岩が真っ二つになった。


衝撃だけで土煙が舞う。


カイゼルは息を呑む。


「すげぇ……。」


続いて。


エルネストが前へ出る。


杖を静かに掲げる。


「中位魔法。」


「メガリスフォール。」


空中へ巨大な岩塊が出現する。


轟音と共に落下。


大地が揺れた。


岩は粉々に砕け散る。


「これが魔法です。」


エルネストは静かに杖を下ろした。


グラムが続ける。


「どちらも強い。」


「だが。」


「混ぜればもっと強い。」


カイゼルが頷く。


「でも誰もできない。」


「だから存在しない。」


グラムが答えた。


「少なくとも今まではな。」



その日の夕方。


一人で木剣を振り続ける。


闘気。


魔力。


何度も何度も失敗する。


「違う……。」


「魔法を剣へ纏わせるから弾かれる。」


ふと。


昔の記憶が頭をよぎる。


前世。


会社を経営していた頃。


技術者だけ集めても限界があった。


営業だけでも駄目だった。


デザイナーだけでも。


研究者だけでも。


突破できなかった壁。


けれど。


全く違う業界。


全く違う考え方。


異なる人たちを繋げた瞬間。


一気に新しい価値が生まれた。


「そうか……。」


「同じものを混ぜるんじゃない。」


「違うものだから意味があるのか。」


カイゼルはゆっくり剣を構える。


「闘気を剣へ。」


「魔力は剣じゃない。」


「風そのものへ流す。」


試してみる。


闘気を剣へ巡らせる。


同時に風魔法を発動。


だが融合させるのは剣ではない。


剣から放たれる風だった。


一振り。


ヒュン――


風が飛ぶ。


その瞬間。


十メートル先の木が、音もなく斜めに切り裂かれた。


静寂。


誰も動かない。


いつの間にか。


グラム。


エルネスト。


ルセリ。


三人とも後ろへ来ていた。


カイゼルはゆっくり木を見る。


「……飛んだ?」


グラムは答えない。


エルネストも答えない。


二人とも初めて見る現象だった。


ルセリがぽつりと呟く。


「今……剣が届いてないよね?」


エルネストが静かに頷く。


「届いていません。」


「風だけが飛びました。」


グラムが小さく笑う。


「坊主。」


「はい。」


「もう一度やれ。」


カイゼルは剣を構え直す。


今度は失敗した。


風は散る。


だが。


四人とも分かっていた。


偶然ではない。


確かに今。


世界に存在しなかった技術が生まれた。


カイゼルは剣を見つめながら笑う。


「これ。」


「魔剣技って呼びません?」


エルネストも微笑む。


「少し単純ですが……。」


「分かりやすいですね。」


グラムは鼻で笑った。


「悪くない。」


夕暮れの風が訓練場を吹き抜ける。


まだ名前のないその一撃は。


やがて世界を震わせる伝説の始まりだった。

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