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第三十四話 それぞれの道

祝宴から一週間。


辺境は少しずつ、いつもの日常を取り戻していた。


壊れた柵は修復され。


騎士団は再び巡回へ戻る。


市場には活気が戻り、人々の笑顔も増えていた。


そんなある日の朝。


辺境伯家へ二人の来客が訪れる。


一人は白銀の甲冑を纏った壮年の騎士。


胸には王国騎士団総本部の紋章。


もう一人は深い藍色のローブを羽織った老人。


王立魔導院の紋章が胸元で静かに輝いていた。


「王都から……?」


カイゼルが小さく呟く。


応接室ではアルトゥスとグラム、エルネストが二人を迎えていた。


やがて全員が呼ばれる。


レオンハルト。


フィア。


カイゼル。


ルセリ。


四人は並んで立った。


白銀の騎士が一歩前へ出る。


「レオンハルト・アルディス。」


「王命を伝える。」


部屋の空気が張り詰める。


「勇者適性を持つ者として、その才は王国の未来を担うに値すると認められた。」


「よって本日付けで、王立騎士学院への入学を命ずる。」


レオンハルトは一瞬だけ目を丸くした。


次の瞬間。


満面の笑みになる。


「本当ですか!」


「もちろんだ!」


白銀の騎士も思わず笑った。


「学院始まって以来、勇者適性を持つ者の入学は数十年ぶりだ。」


「教官たちも楽しみにしている。」


レオンハルトは拳を握る。


「強い人がいっぱいいるんですよね!」


「いる。」


「やった!」


その反応に部屋中が少しだけ和んだ。


続いて。


藍色のローブを纏った老人が前へ出る。


「フィア。」


「はい。」


「エルネスト殿より報告は受けております。」


老人は優しく微笑んだ。


「平民でありながら、十二歳で中位魔法を扱う才能。」


「王立魔導院でも前例がありません。」


フィアは少し俯く。


「……私で、本当に大丈夫でしょうか。」


老人はゆっくり首を横へ振った。


「違います。」


「君しかいません。」


「王立魔導院は君を特待生として迎えます。」


部屋が静まり返る。


特待生。


それは貴族ですら簡単になれるものではない。


エルネストが静かに笑う。


「私の後輩になりますね。」


フィアは少しだけ微笑んだ。


「……よろしくお願いします。」



その日の午後。


城門の前。


二台の馬車が停まっていた。


騎士団や使用人たちが見送りに集まっている。


レオンハルトは新しい剣を腰に差し、いつも通り明るく笑っていた。


「いやぁ!」


「ついに王都か!」


「楽しみだ!」


「お前、少しは寂しそうにしろ。」


カイゼルが呆れる。


「何で?」


「また会えるだろ!」


即答だった。


ルセリが吹き出す。


「そういうところよね。」


「おう!」


レオンハルトは満面の笑みを浮かべる。


「次会う時は俺の方が強くなってる!」


「だから覚悟しろ!」


カイゼルも笑った。


「その前に頭も鍛えろ。」


「何でだ!」


「そこだよ。」


ルセリが肩を震わせる。


「本当に勇者なの?」


「もちろん!」


「何がもちろんよ。」


四人で笑う。


その隣では、フィアが小さな荷物を抱えて立っていた。


少しだけ不安そうな表情。


ルセリが近付く。


「王都へ行っても、その堅い性格は変えないの?」


フィアは首を傾げる。


「変ですか?」


「変じゃないけど。」


「もっと笑ってもいいと思う。」


フィアは少し考える。


そして。


小さく笑った。


「……努力します。」


ルセリも笑う。


「その方が可愛いわ。」


フィアの頬が少し赤くなった。


「……ありがとうございます。」


カイゼルも歩み寄る。


「フィア。」


「はい。」


「王都でも無理するなよ。」


「……はい。」


「困ったら手紙を書け。」


フィアは少しだけ目を丸くした。


そして静かに頷く。


「その時は。」


「返事、くださいね。」


「もちろん。」


短い約束だった。


だが。


十分だった。



出発の時間が来る。


レオンハルトは馬車へ乗り込む前に大きく振り返った。


「カイゼル!」


「ルセリ!」


「次は王都で勝負だ!」


「今度は負けねぇからな!」


「だからまず頭を鍛えろ。」


「まだ言うか!」


皆が笑う。


フィアも馬車へ乗り込む。


窓から静かに手を振った。


「皆さん。」


「ありがとうございました。」


「また会いましょう。」


その笑顔は。


辺境へ来た頃より、少しだけ柔らかくなっていた。


馬車がゆっくりと動き出す。


砂埃を上げながら街道を進み。


やがて小さくなっていく。


カイゼルは最後まで見送っていた。


「寂しくなるな。」


ぽつりと呟く。


ルセリも隣で頷いた。


「うん。」


「でも。」


彼女は少し笑う。


「私たちも負けてられない。」


カイゼルも笑った。


「ああ。」


「王都で驚かせてやろう。」


二人は遠ざかる馬車を見つめ続けた。


それぞれの道は違う。


だが。


目指す場所は同じだった。


いつの日か。


もう一度肩を並べて戦う、その日まで。


その頃、王都へ向かう馬車の中。


レオンハルトは窓の外を見ながら笑っていた。


「早く強くなりてぇ!」


フィアはその隣で本を開き、小さく微笑む。


「……ええ。」


「私もです。」


王都と辺境。


四人はそれぞれの場所で、新たな物語を歩み始めようとしていた。

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