表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/44

第二十話 クラス診断

適性診断の日は朝から騒がしかった。


東方辺境伯領だけではない。


王国中の貴族や騎士の子供たちが、十二歳になる年に受ける通過儀礼。


将来どの道へ進むのか。


どんな才能を持つのか。


それを調べるための儀式だった。


「緊張する?」


会場へ向かう途中、ルセリが聞いた。


カイゼルは肩を竦める。


「別に」


「私は少しする」


「意外だな」


「するわよ」


ルセリは小さく息を吐いた。


「だってもし騎士適性がなかったら嫌じゃない」


それは確かにそうだった。


ルセリは昔から騎士になると言っている。


辺境騎士団長である父の背中を追いかけている。


もし適性が低かったら落ち込むだろう。


「お前なら大丈夫だろ」


カイゼルが言うと、


ルセリは少しだけ嬉しそうな顔をした。


「そう思う?」


「うん」


「珍しく優しい」


「失礼だな」


「いつも失礼だから」


「それはそう」


二人は笑った。


---


会場には既に多くの人が集まっていた。


貴族。


騎士。


神官。


魔導士。


そして保護者たち。


中央には巨大な水晶が置かれている。


透き通るような青色。


人の背丈ほどもある。


「でかいな」


「触ったら怒られるわよ」


「触らない」


「本当に?」


「たぶん」


「信用できない」


---


儀式は順番に進んでいった。


一人ずつ水晶へ手を置く。


そして結果が表示される。


騎士適性。


魔導士適性。


神官適性。


指揮官適性。


その他様々な素養。


会場は一喜一憂していた。


---


やがてルセリの番になる。


彼女は少しだけ緊張した顔で前へ出た。


そして水晶へ手を置く。


淡い光が広がる。


神官が頷いた。


「騎士適性A」


ルセリの肩が僅かに緩む。


「剣士適性A」


さらに光る。


「魔導士適性D」


ルセリが顔をしかめた。


会場から小さな笑い声が漏れる。


神官は続けた。


「指揮官適性B」


「総合評価A」


十分優秀だった。


むしろかなり優秀な部類だ。


ルセリは戻ってくるなり言った。


「魔法がDだった」


「知ってた」


「私も知ってた」


---


そして。


カイゼルの名前が呼ばれる。


会場の空気が少し変わる。


東方辺境伯家嫡男。


グラムの弟子。


エルネストの弟子。


期待するなという方が無理だった。


カイゼルは前へ出る。


特に緊張はしていない。


水晶へ手を置く。


淡い光が広がる。


神官が結果を読み上げる。


「騎士適性A」


会場が頷く。


順当だった。


「剣士適性A」


これも予想通り。


「魔導士適性B」


ざわつきはしない。


優秀ではある。


だが突出ではない。


「指揮官適性A」


辺境伯家嫡男としては妥当だった。


「神官適性C」


会場から少しだけ笑い声が漏れる。


カイゼルも納得だった。


絶対向いていない。


「総合評価A」


優秀。


間違いなく優秀。


だが。


歴史に名を残す天才というほどではない。


誰もがそう思った。


その時だった。


診断術式が突然揺らいだ。


神官が眉をひそめる。


水晶の内部で光が乱れる。


文字列が崩れる。


再構成される。


崩れる。


再構成される。


「ん?」


カイゼルが首を傾げる。


神官たちが慌て始める。


そんな現象は見たことがなかった。


そして。


ほんの一瞬だけ。


エルネストだけが見た。


水晶内部へ浮かんだ古代文字を。


---


未定義


---


老人の表情が固まる。


そんな結果は存在しない。


少なくとも。


彼が知る限りでは。


---


次の瞬間。


文字は消えた。


術式は正常へ戻る。


神官たちは首を傾げる。


「軽微な術式異常です」


そう結論付けた。


会場も納得した。


だが。


エルネストだけは納得していなかった。


---


そして。


最後に一人の少年が呼ばれる。


「レオンハルト・フォン・ヴァイス」


会場の空気は特に変わらない。


騎士爵家。


決して低くはない。


だが辺境伯家ほどではない。


多くの貴族にとっては。


ただの騎士の息子だった。


だが。


一部の騎士たちは知っていた。


天才だと。


---


少年が前へ出る。


金髪。


蒼眼。


真っ直ぐな姿勢。


年齢の割に完成されていた。


カイゼルとは正反対だった。


---


レオンハルトが水晶へ手を置く。


---


眩い光が広がる。


---


神官が固まる。


---


「騎士適性S」


---


会場がざわつく。


---


「剣士適性S」


---


ざわめきが大きくなる。


---


「魔導士適性S」


---


誰かが立ち上がった。


---


「指揮官適性S」


---


神官の声が震える。


---


「神官適性S」


---


沈黙。


---


「総合評価S」


---


会場が爆発した。


歓声。


驚愕。


拍手。


誰もが理解できた。


誰もが納得できた。


天才だった。


疑いようもなく。


---


レオンハルト本人は冷静だった。


当然のように水晶から手を離す。


だが。


その視線だけは。


会場の端を向いていた。


---


カイゼル。


---


未定義。


---


自分以外で唯一理解できなかった存在。


---


そして。


本当に最後の名前が呼ばれた。


---


「フィア」


---


神官が一瞬言葉を止める。


書類を確認する。


---


「フィア・ノルン」


---


会場の反応は薄かった。


聞いたことのない家名。


いや。


家名ですらない。


平民だった。


---


小柄な少女が前へ出る。


銀色に近い白髪。


そして。


左右で色の違う瞳。


右は蒼。


左は紫。


オッドアイだった。


質素な服。


小さな体。


周囲の貴族たちとは明らかに違う。


---


「平民か」


---


誰かが呟く。


---


少女は少し肩を縮めた。


慣れているのだろう。


こういう視線に。


---


水晶へ手を置く。


---


次の瞬間。


---


会場が白く染まった。


---


眩い光。


---


神官が目を見開く。


---


「魔導士適性……S」


---


ざわめき。


---


「光属性適性……S」


---


さらにざわめく。


---


「闇属性適性……S」


---


エルネストが立ち上がった。


---


会場が静まり返る。


---


「先生?」


---


カイゼルが驚く。


---


エルネストが席を立つことなど滅多にない。


---


老人は少女を見つめていた。


---


信じられないものを見るように。


---


「まさか……」


---


そして。


---


「二重極性」


---


誰にも分からない言葉だった。


---


ただ一人。


少女本人だけが困っていた。


---


「えっと……私、何かしましたか?」


---


小さな声だった。


---


カイゼルは思わず笑った。


---


レオンハルトは完璧だった。


自分は未定義だった。


そして。


あの少女は。


どう見ても普通ではなかった。


---


どうやら。


今年の入学生は。


少しばかり面白いらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ