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第二話 いつもの夜

「お疲れー」


「お疲れっすー!!!!」


グラスがぶつかる。


金曜日の夜。


駅前の居酒屋は相変わらず騒がしかった。


村上直哉は生ビールを一口飲みながら息を吐いた。


うまい。


仕事終わりの一杯は裏切らない。


向かいには大学時代からの友人たち。


会社経営者。


商社マン。


不動産屋。


職業は違うが付き合いは長い。


気を使わなくていい数少ない相手だった。


「そういや直哉」


「ん?」


「この前ニュース見たぞ」


「何の」


「ロボットのやつ」


「あー」


直哉は適当に頷いた。


少し前に受賞した技術賞の話だ。


業界紙にも載った。


取材も受けた。


だが本人はあまり興味がない。


「すげーじゃん」


「別に」


「お前そういうとこ嫌いだわ」


「だって終わった話だし」


「普通もっと自慢するだろ」


「めんどくさい」


友人たちが笑う。


直哉も笑った。


昔から変わらない。


良くも悪くも。


酒が進む。


料理が減る。


話題も変わる。


仕事。


投資。


女。


ドライブ。


また仕事。


いつもの流れだった。


気付けば時計は二十二時を回っていた。


「行くか」


誰かが言った。


「行くか」


誰かが答えた。


二軒目だった。


反対する人間はいない。


いつものことだからだ。


十分後。


直哉たちは駅裏のスナックにいた。


派手すぎず。


安すぎず。


高すぎず。


ママが優秀。


女の子も愛想が良い。


そして何より落ち着く。


長年通っている店だった。


ドアを開けた瞬間。


「あー!」


声が飛んできた。


「直哉さん!」


「久しぶりー!」


「生きてたー?」


「死んでたら来ねぇよ」


店内が笑う。


直哉も笑った。


カウンターへ座る。


隣に女の子が座る。


反対側にも座る。


さらにもう一人来る。


「モテモテじゃん」


友人がニヤニヤしている。


「俺は人気者だからな」


「言うねぇ」


「事実だろ」


女の子たちが笑った。


直哉は昔から女性に困ったことがなかった。


別に特別イケメンではない。


金をばら撒くわけでもない。


だが妙に人に好かれる。


男にも。


女にも。


本人は理由を知らない。


周囲もよく分かっていない。


ただ昔からそうだった。


「直哉さん今彼女いないの?」


若い女の子が聞く。


「居ないけど、気になる女はいる」


即答だった。


「えー!」


「マジで?」


「つまんない」


「なんだその反応」


店内が笑う。


女の子たちも笑う。


だが直哉は少しだけ嬉しかった。


以前なら曖昧に答えていた。


だが今は違う。


ちゃんと答えたい相手がいた。


その時だった。


スマートフォンが震える。


テーブルの上。


画面が光る。


直哉は何気なく視線を落とした。


そして少しだけ表情が柔らかくなる。


美咲。


ただ名前が表示されているだけ。


それだけなのに。


「おい」


友人がニヤニヤしている。


「なんだよ」


「顔」


「何が」


「分かりやすすぎる」


周囲から笑いが起こった。


直哉はスマートフォンを裏返す。


そしてグラスを持ち上げた。


「うるせぇよ」


だが否定はしなかった。


それが少しだけ、


自分でも不思議だった。

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