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第十七話 時の女神

その夜。


カイゼルは疲れていた。


午前はグラム。


午後はエルネスト。


肉体と精神の両方を削られた。


どちらか片方ならまだいい。


両方は反則だった。


「……きつい」


ベッドへ倒れ込む。


柔らかい。


最高だった。


前世では会社のソファで寝ることも多かった。


やはりベッドは偉大である。


そんなことを考えながら。


カイゼルは眠りへ落ちた。


---


気付くと。


白い空間だった。


何もない。


上も。


下も。


左右も。


果てしなく白い。


見覚えがあった。


非常に嫌な意味で。


「またか」


カイゼルはため息を吐いた。


聞き覚えのある声が返ってくる。


「またとは失礼ですね」


振り返る。


そこにいた。


白銀の髪。


透き通るような肌。


純白の衣。


相変わらず人間離れした美貌。


そして。


胡散臭い。


「女神」


「はい」


「暇なのか?」


女神が固まった。


「違います」


「じゃあ何だ」


「様子を見に来ました」


カイゼルは少し考えた。


そして頷く。


「ああ」


「何ですか?」


「惚れたか?」


アストリアが固まった。


数秒。


完全に固まった。


「違います」


「じゃあ俺のファンか?」


「違います」


「追っかけ?」


「違います」


即答だった。


カイゼルは腕を組む。


相変わらず綺麗だった。


前世で見た女優やモデルを全部並べても勝負にならない。


だが。


性格はちょっと怪しい。


「そういえば」


カイゼルが言う。


「何でしょう」


「名前聞いてなかったな」


女神が少し驚く。


確かにそうだった。


転生前はそれどころではなかった。


世界を救え。


嫌だ。


働きたくない。


そんな話ばかりしていた。


「アストリア」


女神は小さく微笑む。


「時を司る女神です」


「時の女神か」


「はい」


「へぇ」


反応が薄い。


本当に薄い。


アストリアは少し不満そうだった。


「もっと驚きませんか?」


「別に」


「なぜですか」


「前世で社長やってた時の方が変な奴たくさんいた」


アストリアは納得できなかった。


女神より変な人間とは何なのだろう。


考えたくもなかった。


しばらく沈黙が流れる。


そして。


カイゼルは思い出したように言った。


「そうだ」


「何でしょう」


「今なら付き合ってくれるか?」


アストリアの笑顔が止まった。


「何の話ですか」


「前に断られたからな」


「断るも何も誘われてません」


「ホテル行けなかったんだぞ」


「知りません」


「死ぬ五分前だった」


「それはお気の毒ですが知りません」


アストリアは額を押さえた。


なぜこの男は。


転生しても変わらないのだろう。


「女神に対してもう少し敬意を持ちなさい」


「持ってるぞ」


「全く感じません」


「綺麗だと思ってる」


「そういう意味ではありません」


カイゼルは笑った。


アストリアも呆れたようにため息を吐く。


だが。


少しだけ楽しそうでもあった。


---


やがて。


アストリアの表情が変わる。


少しだけ真面目になる。


それを見て。


カイゼルも姿勢を正した。


この女神が真面目になる時は。


大抵ろくでもない話だからだ。


「五属性」


アストリアが言った。


「どうでしたか?」


「面白いな」


「それだけですか?」


「十分だろ」


カイゼルは肩を竦める。


本当にそう思っていた。


強いとか。


弱いとか。


まだ分からない。


ただ面白かった。


それだけだった。


「珍しいのか?」


何気なく聞く。


アストリアは少し黙った。


そして。


静かに答える。


「ええ」


「とても珍しいです」


「どのくらいだ?」


アストリアは少し困った顔をした。


「私も知りません」


「は?」


「前例がありません」


カイゼルは眉をひそめた。


さすがに予想外だった。


三属性くらいならいると思っていた。


四属性もいるかもしれない。


だが。


五属性は違うらしい。


「じゃあ俺が初か」


「少なくとも私の知る限りでは」


アストリアは頷く。


白い空間が静まり返る。


カイゼルは少し考えた。


そして。


一言。


「面倒そうだな」


アストリアは思わず吹き出した。


普通なら喜ぶ。


興奮する。


選ばれた存在だと思う。


だが。


この男は違う。


最初に出てきた感想がそれだった。


「そうかもしれませんね」


アストリアは笑う。


本当に。


少しだけ楽しそうに。


そして。


遠くを見るような目をした。


「ですが」


「何だ」


「それでも」


「あなたなら大丈夫だと思いますよ」


カイゼルは首を傾げた。


意味が分からなかった。


だが。


聞こうとした瞬間。


世界が揺れる。


白い空間が崩れ始める。


夢が終わる。


「おい」


「また来ます」


アストリアは微笑んだ。


「やっぱり俺のファンじゃないか?」


「違います」


「惚れてる?」


「違います」


「じゃあ何で来るんだ」


「仕事です」


「仕事熱心だな」


「あなたにだけは言われたくありません」


最後まで否定された。


そして。


世界は光に包まれた。


---


目を開ける。


朝だった。


窓から陽射しが差し込んでいる。


夢だった。


そう思った。


だが。


枕元には見覚えのない小さな銀色の羽根が落ちていた。


「……は?」


カイゼルは羽根を摘まみ上げる。


昨夜の夢を思い出す。


そして。


一言だけ呟いた。


「やっぱりファンだろ」


誰もいない部屋で。


小さく笑った。

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