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第十二話 闘争心

「もう一回だ」


グラムが言った。


カイゼルは木剣を構える。


両腕が重い。


呼吸も荒い。


汗が目に入る。


足も震えていた。


だが構える。


「来い」


木剣が振られる。


受ける。


吹き飛ぶ。


転がる。


立ち上がる。


また構える。


「もう一回だ」


受ける。


吹き飛ぶ。


転がる。


立ち上がる。


「もう一回」


受ける。


吹き飛ぶ。


転がる。


立ち上がる。


何度目か分からない。


途中から数えるのをやめた。


痛い。


疲れた。


腹も減った。


帰りたい。


だが。


少しだけ楽しかった。


夕日が沈み始めていた。


訓練場には二人しかいない。


他の訓練生はとっくに帰っていた。


辺境軍の兵士たちも訓練を終えている。


残っているのは。


グラムとカイゼルだけだった。


「坊主」


グラムがため息をつく。


「今日は終わりだ」


「まだ動けます」


「動けてない」


「動いています」


「フラフラだ」


「立っています」


グラムは頭を抱えた。


この子供は本当に面倒だった。


才能はある。


間違いない。


剣筋は綺麗だ。


理解も早い。


教えたことはすぐ覚える。


だが。


飛び抜けているわけではない。


天才ではない。


もっと才能のある子供は何人も見てきた。


もっと強い子供もいた。


もっと速い子供もいた。


それでも。


なぜか目を離せない。


理由は簡単だった。


諦めない。


本当に。


全く。


諦めない。


普通の子供なら。


十回負ければ嫌になる。


二十回負ければ泣く。


三十回負ければ帰る。


四十回負ければ親に訴える。


カイゼルは違った。


五十回負けても聞いてくる。


「なぜですか?」


「何がだ」


「なぜ師範の方が速いのですか」


「強いからだ」


「どうすれば速くなれますか」


「鍛えろ」


「どう鍛えるのですか」


「闘気だ」


その瞬間だった。


カイゼルの目が輝いた。


グラムは思わず顔をしかめる。


嫌な予感しかしない。


その顔を何度も見てきた。


面白そうな玩具を見つけた時の顔だ。


「教えてください」


「教えている」


「もっとです」


「まだ早い」


「なぜですか」


「身体ができていない」


「では作ります」


即答だった。


グラムは思わず笑った。


昔からそうだ。


この子供は。


出来ないと言われると。


余計にやりたがる。


無理だと言われると。


やる方法を探し始める。


才能だけなら上はいる。


だが。


こういう人間は少ない。


本当に少ない。


「坊主」


「何でしょう」


「闘気は魔法とは違う」


「はい」


「才能より積み重ねだ」


「はい」


「毎日だ」


「はい」


「何年も続く」


「はい」


「地獄だぞ」


カイゼルは少し考えた。


そして笑った。


「面白そうですね」


グラムも笑った。


久しぶりだった。


訓練を楽しみにする子供を見るのは。


「いいだろう」


グラムは立ち上がった。


「明日から始める」


「よろしくお願いします」


「後悔するなよ」


「師範こそ」


「何だ」


「途中で逃げないでください」


一瞬。


訓練場が静まり返った。


そして。


グラムは大声で笑った。


十歳の子供に。


根性比べを挑まれたのは初めてだった。


その日。


東方辺境軍最強の男は理解した。


この少年は天才ではない。


だが。


面倒なことになる。


間違いなく。


将来、


とんでもなく面倒なことになる。


そんな確信だけはあった。


その頃のカイゼルはまだ知らない。


闘気とは。


ただ身体を強化する力ではない。


己を磨き続けた者だけが辿り着く道であることを。


そして。


その道を誰よりも楽しみながら歩く自分自身を。


まだ。


知らなかった。

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