蓬莱(ホウライ)アメリカの事。蓬莱人、羽人(ハネト)、先住民の呼称
蓬莱朝馴国岩上村郡。ここは朝馴国は蓬莱人アコマ族に先導される形で日本人が進出し、主に陸上交易を行なっている土地だった。赤い卓の様な岩の上に藁などを用いた蓬莱人の村が立つ土地である。
この地の蓬莱人は複数部族で共同体を形成しており彼等の先祖とされる部族名を聞いて以来はアナサジ衆と日本側は呼んでいた。
日本は彼等アサナジ衆に鉄器や布を渡す見返りにトウモロコシやカボチャの取引、額の大きな物ではトルコ石や銀の細工は非常に珍重されている。また特にアコマ族は一帯で交易をしていた部族で、言語に達者な為に各地の探索の先導、加えて開発の労働力として雇う関係を築く関係だ。
日本側の広げた取引市を見下ろす台地に建てられた日本人の住むアドベ建築の城は市見城と言う。その麓では朝馴国守政所屋敷が建っていて、城の主人である国守の内藤鉄三郎忠広が居住していた。
赤褐色の大地の遠く遠くから狼煙が上がりその屋敷から声が轟く。
「またアパッチ衆か!! 出会え出会え!!」
チート転生者の父の血を継いで2目取りと大柄であり、織田家の美貌を持った母の血を継いで整った顔。羽人にしても剛力無双のチートパワー持ち強強スタイルでモテモテの男が馬に跨り出ていく。手には父から贈られた希少品の後装式銃を持ち甲冑を纏って大太刀を背負う。
アパッチ族といえば馬を操るザ・先住民族な感じの人々だが、状況と時代的に未だ馬を持っていない。その為に小規模な略奪行為であれば問題なく撃退できた。今回もアパッチ族は日本の持ち込んだ馬を狙っていたので誘引にかかったフリをして馬牧場に伏せさせていた鉄砲持ちで倒す。
だが余りの襲撃の多さにアナサジ衆との相談をする事になった。彼等の各族長が呼ばれ普通に日本語が使われる形でだ。族長達と円座を作った内藤忠広は各族長達の前に火縄銃を置く。
「朝馴衆に鉄砲を売ろうかと思っています。ただ何度も言っている様にコレは危険な代物だ」
内藤鉄三郎忠広が言えば族長達は驚いた顔をした。鉄砲は危ないし高額な為に猛獣が出た時用に各部族長に数挺が貸し出されて居るだけだったのだ。あと普通に持ってくるのも手入れすんのも弾薬の準備保存も面倒い。
「一先ずは各部族から戦士を軍役衆として集め騎馬鉄砲を教えようと思っています。アサナジ側から人を出して貰い我らが鍛えると言う形ですね」
「良いのですか?」
並いる族長の中からアコマ族の代表者である女性が問うた。鉄砲は運搬だけでもバカほど金かかるの為に何とか西から運んだ分を日本人と指揮下に入った蓬莱人で折半したのだ。だからこそ蓬莱人の彼等とても貴重品である事は承知の上なのである。
「同時に鉄道の延伸を急げないか父上に相談してみようと思う。何せアパッチ衆、コマンチ衆は俺たちでも手こずる程に勇猛だ。そんな連中に交易を邪魔されちゃかなわん。
何とか路を守らねぇといけねぇ。それには人と物が必要だ。貴方方の助けがいるんだ」
彼の父であるチート転生者の考えと行動によって人口増加を続ける織田幕府二本は極めて領地拡大に積極的だ。しかし現状で此処は蓬莱東端の最果てと言うべき地なのである。数の前には出来ることは少ないのだ。
また未知の物に対する興味と研究を行う事を至上命題としており在地民の知識は何よりも重要とされている。取り分け友好的な関わりを持った相手の存在は武士として守って当然の相手であった。
襲撃してくる部族に対しても強さを尊重するところは武家として親近感を覚えたが、しかし商売相手を攫われたり強奪されたりしては堪らない。
「もっと兵を集めた方が良いかも知れねぇな……。それにアパッチ衆の連中で此方に着く連中も居るはずだ。他に手はないか?
爺様が言っていた。戦は始まる前に終わらせる物だって」
これが日本人と蓬莱人の初めての大規模な戦いである緑台渓谷の戦い。別名を蓬莱嫁取り合戦と呼ばれる戦いの始まりであった。
何故そんな別名がついたかと言えば、アパッチ族に内藤忠広があり得ないくらい気に入られたからである。和平の約定の一つとして嫁取りをさせられ何か敵味方から凄い数の側室を娶る事になった。
蓬莱内藤家麾下に阿八衆が加わる事となる始まるの話だ。
蓬莱永浜国舟着浜郡。此処は蓬莱最大の港だった。水面の下の船底が突き出した水割り衝角 のついた転羽式蒸気船蓬莱丸を父とする船が並んでいる。
彼等は水割り衝角と転羽式と言う特徴の他に溶接ではなくリベットという特徴であるが、水上の見える絵面としては所々が木製の非常に小さなリバティ船の様な形状をしていた。
港にバカみたいに並ぶ鉄橋滑車台から続々と荷下ろしが進む。彼等が運び出す物で特に大物と言えるのは長躯式蒸気機関車や作られたばかりの蒸気掘削機だ。織田幕府吉備水軍船団が運んで来たのは蓬莱山麓鉄道を延伸する物資人員だった。
「で? 実際の所は……」
「金ですな」
内藤波進斎長忠は天正大船出でこの蓬莱に移り住んだ甲斐の金山衆出身の男に答えに頭を抱えた。
「うぅん……素直に喜べない」
今の蓬莱は大規模な開墾が進められているが未だ東進と基盤作りの最中だ。また赤嶺も北奥も前者は鉄を、後者は木材を集めるために鉄道と港を整備しなければいけない。
その最中に金の発見を大々的に知らせては人手が金採掘に流れてしまう。特に今回は鉄道を敷いた上で発見した小さな鉄鉱山と既存の鉄工所を繋げる予定だったのである。
もっと鉄ねぇかなってそこら辺を探ったら金が出ちった感じだ。ただ普通に良質な金山を発見して放置は出来ない。
「あー、兎も角だ。これは直ぐに上奏して幕府直轄にしなきゃ拙いぞ。この事は内密に頼む。
……他国に知られると大きな、そして長期の争いが起こる。黙ってれば褒美を出すが」
内藤波進斎長忠は好みでは無いが相手の為にもしなければならない所業。それへの忌避感に思わず溜息を漏らしてから。
「誰かに話せば……」
内藤波進斎長忠は片手で岩を持ち上げ握りつぶして粉々にした。
「こうしなきゃいけない」
男は首が取れそうな程に頷いた。此処までの脅しをしたのには理由がある。
案の定と言うか後の探索で蓬莱の地は金銀銅など貴金属が大量に掘れることが発覚。イスパニアがどう動くか、またヨーロッパに伝わればどうなるか。存在チートの内藤波進斎長忠は前世の記憶から幕府直轄として内密かつ抑制的な採掘を実施するべきだと考えるに至ったのだ。
その前段階として内藤波進斎長忠は蓬莱羽人と交渉をすべきだと考えた。元来この一帯は長忠が探索した地で知り合いは多い。
「クミアイの部族長殿はいらっしゃいますか」
内藤波進斎長忠は懐かしの集落の筈である一つに訪れていた。なんかもう普通に日本家屋みてーのが建ってるし、皆んな和服着てっけど場所は間違ってない筈だ。ただ活気の割に妙に人が少ないのは気になった。
「久しぶりや!!」
遠くから関西ではでは無く甲州に近い言葉。褐色に肌に着物を纏い、アガベのベルトに日本刀と鉞を吊るし、鳥の羽飾りの冠を被ったクミアイ族の羽人。大きくなって顔立ちが変わったが覚えている。
「アケウリ殿。お久しぶりです」
「ナイト殿!! 懐かしい!! 今回はどうしたのだ?」
人懐っこい顔で聞いてくる若人。内藤波進斎長忠は状況と懸念を伝え羽人司でも話す事にはなるが状況を説明した。先住民の所管を聞いておきたかったのだ。
「土地は大事だ。部族の物。売り買いは出来なかった」
その言葉に内藤波進斎長忠はギョッとした。この部族を始め大多数の部族で土地の管理は部族で行う物で、土地を借りる形で拠点を作り探索を行って空き地に移民を入れる形で広がったのだ。貸す事はしても売る事はなかったのである。
「だが数年前に疫病が広がり皆が死んでいってしまった。我等を助けてくれたナイト殿の同郷の者もそうだろう」
「ええ」
これは内藤長忠にとって口惜しい思いを抱く出来事だった。広範囲に疫病が広がり最初期の移民者や先住民の羽人が大量に死んでしまったのだ。当初は何か突っ掛かりを覚えたが一先ず長忠が自ら指揮を取り、日本での震災の経験を生かして被害を収める努力をした。疱瘡や風邪の薬を送り移住者も先住者も問わずに布や薬を配らせた上で清潔にさせたのだ。検疫という言葉を思い起こしてからは気が狂うかと思った。
それこそ織田信秀が死んでしまった時よりも酷い有様だったのだろうと今でも思う。なぜ思い出せなかったのか今でも悔恨は消えずにいる。
出来る対処こそできる限りはした。だが医療知識は無く技術的にも政治的にも如何しようもなかった。せめて上陸を待つ事を思い出せればと強く思う。
「それ以来だ。我等、羽人はナイト殿の同胞から学ぶべきだと思っている。その為になら其方の考え方で土地を譲るのも仕方ないと思っているんだ。
住むべき同胞も居ない。既に病により話す相手が居なくなった言葉もある。神話もだ」
「……それは」
「だが自然は大事だ。それだけは忘れないでほしい。シンラバンショーだ」
「……また空の話を聞かせて貰っても?」
「勿論だ。その前にお願いがある。羽人司と話をさせて欲しい。名前もナイト殿の様に名乗ろうかと思う。星杯アケウリだ」
これ以来、内藤波進斎長忠は尚一層の事、先住文化の保護に注力した。長忠の出資と運営によって距離の問題で遅くなる事はあったが医療に於いては本国と同等の処置が取られる様になる。船舶検疫が広がるのも長忠の提言と創作や漫画が大きかった。




