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タァコスッ!!

 外務大臣を長年続ける春日井絹左衛門忠行はグレート・ブリテン大使館に来ていた。


「いやぁ安政の大地震は大変でしたね」

「良くアレを大変で済ませられる……。まぁ、兎も角この内容、随分と穏当だ。連絡感謝しますよ」


 日露和親条約で 麗那(レナ)川を境とした国境の再確認、両国に領事の設置、シベリアへの日本企業の進出許可およびシベリア先住民の雇用許可。

 日米和親条約で東側蓬莱(アパラチア)山脈から新場間(アラバマ)川を国境の再確認、両国の領事の設置、アメリカ国内先住民への保証と居住地の確保を確認の後に蓬莱東岸とアメリカの港の開港。

 此の二例を友好国に対する義理と友誼として通達されたグレート・ブリテンの駐日本大使のエルギン伯ジェイムズ・ブルースが呆れ気味に言った。


「ロシアも大概だが理解出来る。アメリカはやり過ぎですな。移住させると言うのは理解出来る事だが涙の道の結果は凡そ虐殺だ」


 ホデノショニ(イコロイ)連邦と言う勢力を内包する日本連合帝国と交渉すると言うのにインディアンへの対応が余りにも杜撰過ぎると言う思いからだ。せめて政治的に歩み寄ろうとしたと言う建前くらい用意して然るべきだと言う認識だった。


 とは言え、だ。


 エルギン伯ジェイムズ・ブルースは非常に交渉し難くなった。大日本連合帝国は割と他国の事を調べてるがグレート・ブリテンに関しては余り調べていない。すごい陳腐化して言えば言えば友達の事を根掘り葉掘り調べるのは気が引けると言う理由だ。

 マジでノリがアレだが大日本連合帝国的には割と善意。外交の動きとしてはダメダメ。


 ともかくンな訳で偶にだがグレート・ブリテンとの交渉で意図せず話し難い感じにしてしまうことがあった。特にインドは日英で東西分割してる上にベンガル連合王国はマラーター同盟の侵攻以来マジ地元民も断裂してて情報が遮断されてる。何が言いたいかってグレート・ブリテンのインド勢力圏で起こった大反乱の相談がし難くなっちったって言う。


 でもこの反乱にムガル帝国が加わってるモンでベンガル連合王国が動く可能性もあったから交渉は必須って言う話。


「それで此方の要件ですが絹左衛門殿。実はインドで戦争が起きましてな」

「何と」

「断絶して久しいがベンガル連合王国はムガル帝国と関わりがあった。彼等がムガル帝国に助成しない様に説得して頂きたいのです」

「ベンガル連合王国の思惑を聞かねばなりませんので確約は難いですが承りました。一先ず直ぐに状況確認の上で関わらない様に頼んでみましょう。外交権は此方に移譲されていますので戦争と言う形にはならないと思いますので御安心を。

 それこそアメリカの様なことさえしなければですが貴国なら問題ないでしょう。最悪でも多少の物資支援程度に抑えてみます」

「即押してくださる事に感謝します。出来れば物資も止めて頂きたいが。失礼を承知でそれは難しいですか?」

「そればかりは彼等には彼等の生活がありますから難しい。マラーター同盟なら確約出来ますがムガル帝国となるとベンガル王国は断言しかねる。オリッサとビハールの東インド連邦は問題ないと思いますが」

「……やはりそうですか」

「では効果は余り無いでしょうが物資についても此方から頼み込んでおきます」

「是非。有難う御座います」


 エルギン伯ジェイムズ・ブルースはホッとして次の重要事項の交渉のために気合いを入れた。


「それに関連して以前から相談していた石油の発掘調査についての件です」

「ああ、それに関しては。内務省の者が控えてますので」


 こうして大日本連合帝国と大英帝国は適切な距離感でズブズブになっていく。


 てゆーかなった。


 インド大反乱はムガル帝国だけでなくマラーター王国も参加した為にベンガル連合王国民の関心が一気に薄れたのだ。当初こそ話くらいは聞いていたのだがマラーター王国が関わっている事が知れ渡るとンな事よりガンジス川を汚すの止めろって感じになった。

 コレは特に大日本連合帝国から言われた通りにグレート・ブリテンが一般民に対しては対応を緩和したのも大きい。


 これによりムガル帝国は滅亡しグレート・ブリテンによるインドの直接統治が始まった。


 大日本連合帝国でルイジアナ王国のルイ二世と山東大宮家の息女との婚姻が決まってキリスト教政策が緩和されたり、ISS国際宇宙ステーション的な物こと駐留衛星を更に二つ程ブチ上げる間。

 海の向こうでアロー戦争でボコられた清朝が南京条約を結び、陸の向こうでアメリア南北戦争が起きても特に大日本帝国連合には関わりのない事だった。

 強いて言えばグレート・ブリテンとフランスに色々と融通して儲かったくらいの話。


 だが遂に日本が若干警戒する事が起きた。場所は蓬莱南方。メキシコ合衆国からメキシコ帝国に変貌した国である。外務大臣の岩室長門守重則が若人二人を招き入れて問うた。


「平岡くん、渋沢くん。どうだったかね」

「グチャグチャですぜありゃあ。まぁ独立だ何だって話から騒乱が酷すぎて代表者もいねぇってんで放置してたたぁ聞きましたが。ハッキリ言やぁ頷ける有様でさぁ」


 年長の方の男、平岡円四郎方中が言った。メキシコ独立の際には交易などの交渉が来ていたのだが余りにもゴチャゴチャした状況で二年ほどでメキシコ帝国が消えた事で没交渉化していたのだ。

 アメリカ合衆国みてーになるぞってメキシコ合衆国になってからはメキシコ合衆国側が君主が居ない国である事から大日本連合帝国を刺激しない様に距離を置いていた。


 で、そのメキシコ合衆国は借りた金を返さなかった為にグレート・ブリテンとイスパニアに援助されたフランスに戦争ふっかけられてゴチャゴチャしてる。フランス第二帝政と大日本連合帝国はグレート・ブリテンの仲介で関係は保っていた。だがナポレオン3世はルイジアナ王国を内包する大日本連合帝国への交渉カードを欲していたのだ。

 なのでナポレオン3世はナショナリズムの浸透による影響力の拡大を大日本連合帝国でも狙っていたのだが、大日本連合帝国では何処もかしこも「ああハイハイ、ワロスワロス、頑張ってね(原文ママ)」みたいなリアクションしかされなかった。日本連合帝国の内に居るのが余りにもド安定すぎるし、狙いやすそうな所も独立したきゃすりゃ良いよってスタンスな為、何ちゃらイズムとか言われても特に感想が出てこないのだ。

 まぁ大日本連合帝国がフランス復古王政とブルボン家の立憲君主政が終わった途端フランスと距離を取り、グレート・ブリテンを優先してフランス帝国が焦ったと言うのもあるが日本連合帝国からすれば分断と対立煽りかよって話。


「渋沢くん。君は如何見たかな?」

「鉱山の生産量は減ったと言う話ですが資源は豊富そうです。農業も戦争が終われば如何とでもなりますし蛋白石は有名ですが他に輝水鉛鉱なども取れる。それと可能性の話ですが石油算出の可能性も有るかと」

「石油か! 輸出してくれれば良いが。いや、そもそも戦争と内乱でそれどころでは無い状況か……」


 平岡円四郎方中が否定の為に首を振った。


「フランス帝国が軍を派兵している間は状況が動く事は無ぇでしょうよ。その合間にオーストリアから来た皇帝陛下が如何動くかによるかと。グレート・ブリテンやイスパニアは引き上げましたんで」

「平岡くんの見立てではメキシコ側から此方に攻め込んで来る様子はないのだね?」

「そいつぁ間違いねぇです。こりゃ国境の壁を見て来ただけの話っちゃあそうなんですが保守派は勿論のこと自由主義派の連中も問題ねぇ。あって末端の暴走ぐらいでしょうや」

「……うーん。落ち着いて欲しいが争いも起きてない他国の内情に首を突っ込むのはなぁ」


 大日本連合帝国にはグレート・ブリテンと言う友邦があった。太平洋は自分達、大西洋はグレートブリテン、インド洋は仲良く安定させる。だからメキシコ帝国でも何でも良いが新大陸中南部も安定した国があれば良いなぁって感じだった。

 でも何処もかしこもずっと内乱か戦争かって感じで安定してるトコが無い。しかもフランス革命以降の何ちゃら主義を標榜して主導権を握ろうってノリの者に取り大日本連合帝国は何かよくわかんねー超大国だ。だから新大陸の各所は「コワ……近寄らんとこ」ってなってる。

 早い話が何方も「交渉できねぇな」って思ってる感じだった。


「ナポレオン三世の思惑とメキシコの内情が無ければマクシミリアン陛下と連携を取ることも出来たんだがなぁ。まぁ実情を教えてくれたグレート・ブリテンには感謝しかないが」

「マクシミリアン陛下は魅力に溢れた方だったんですがねぇ……。言っちまえば侵略者の操り人形って印象は拭えんでしょうよ。まぁフランス帝国がケツ持ちしてんだから酷い事にゃならんでしょうが」

「ま、それもそうだな。ともかく南方が安定してくれればそれで良いさ」


 と、思ってたがメキシコ帝国メチャクチャ帝国なった。天才達が読み誤ったのは理由がある。

 外交激ウマ内政クソ雑な天才的外交能力を持ったジジイがプロイセンに突然ポップしたからだ。

 それはもう前提条件がひっくり返るレベルの奴。こんなん当てたら予測じゃなくて予知って話。


 突然ポップした者の名をオットー・エドゥアルト・レオポルド・フォン・ビスマルク=シェーンハウゼン。


 鉄血宰相、喧嘩屋オットーである。


 喧嘩屋オットーと呼ばれた頃から些かも衰えない彼の理念を単純に言えばオーストリア帝国をハミってドイツを統一。んで隣に大国が出来ることを嫌ったフランス帝国をボッチにしようとしてる。まぁ手っ取り早く言っちゃえばフランス帝国とプロイセン王国で戦争になりそうな感じ。


 だからナポレオン3世はメキシコに構ってる場合じゃなくなった。そこまでは良いがフランス軍をメキシコから完全撤兵しちゃったのだ。


 ここまでなら大日本連合帝国は「メキシコ合衆国か。交渉マジ大変そうだなぁ」で済む話だった。


 そう済む筈だったのである。


 大日本連合帝国の外務大臣である岩室長門守重則はエゲツない形相の女性、般若もかくやってか般若も裸足で逃げ出すだろう勢いで泣きつかれていた。余りにも無感情に有りの儘をを言ってしまえば気が狂いかけてザ・西洋貴族格好の妖怪みたいになっちゃってるテンションがヤバい皇后だ。

 マクシミリアーノ1世妃カルロータ・デ・ベルヒカである。地味にブルボン家の血を継いでるので無視は出来ない。


「ほんと勘弁してください!! ほんと離して!!」


 東洋の頼れるジジイとして有名な岩室長門守重則が交渉の場で悲鳴を上げていた。しがみついていた女帝が何とか引き離されゼーハーと呼吸した外務大臣は着席する。ドイツ語でメチャクチャ捲し立ててて何言ってるか分かんないから超怖かった。


「ハァ……心臓止まるかと思った。有体に申し上げて助ける義理がございませんな。個人としては同情致しますが国家として動くならば相応の利益が必要です。

 ましてマクシミリアーノ1世陛下はナポレオン三世陛下が我等を掣肘する意図を持って帝位につけた御方だ。彼個人に対して悪感情は無く寧ろ非常に好意的な方だと考えていますが助ける義理も、助ける理由も、助ける意味もないのです。

 有体に助け無い方が我が国としては益が大きい。心苦しいがそれを覆す益が御座いますか」


 政治家なのでやって当然だが随分と嫌な役回りである。フランス帝国ナポレオン3世をだいぶ嫌いになった。もちろん岩室長門守重則の個人の感想である。

 通訳がギョッとしてドイツ語に翻訳して話し始めた。カルロータ妃は倒れそうになったが何度か側近と話し通訳が頷く。


「ナポレオン3世陛下の助言で来たのです。御協力頂けるのでは無いのですか?」


 ナポレオン3世あいつマジかって思いに任せて岩室長門守重則は鉄面皮。


「ナポレオン三世陛下が如何おっしゃられたかは存じ上げませんが助力をする理由は全く御座いません。そもそもフランス軍が撤退した時点で陛下は退位を為さらなかった事が致命的です。処刑を止めるように呼びかけた所で如何しようも御座いませんね」

「陛下が処刑されると言うのですか!!?」


 通訳が絶叫するが大日本連合帝国に変態進化しちゃった理由を思い浮かべて何を当たり前のことをと言わんばかり。


「フランスで育ったフランス人の国王陛下でさえフランス人によって処刑されました。メキシコの生まれでもない皇帝陛下がメキシコ人に殺されぬ道理が分かりませんな」


 ただ狼狽する皇妃を不憫に思い。


「協力の見返り、それは国益です。皇妃殿下にはそれが用意出来ませんか。遠縁とは言え皇妃殿下はブルボンの血を継いでおり、ルイジアナ国王陛下も然り。またもう一国ブルボンの王家がございます」

「……イスパニアに、皇妃様に何をしろと?」

「欧州の事はグレート・ブリテンの領分、口出しなど差し出がましい事は致しません」

「グレート・ブリテンの動きに依りますがイスパニアのブルボン家。万一の際にその保護と援助をお願いしたいのです。統治が安定せず随分と危ういのは大使殿から伺っています」

「その程度で宜しいのでしょうか?」

「通訳殿、流石にそれは無理だ。先ず帝位は絶対に諦めて頂くが、状況によっては欧州に帰る事も難しいでしょう。それでも上手くいくとは思えない。

 その上でベルギー王国の石炭融通や港湾の利用。それを兄君と交渉の際に融通して欲しい」


 通訳が頷いてから皇妃に伝える。


「皇妃様自身の出来る限りを成してみせると」

「此方も確約は出来かねる。それで良いでしょう。書面には残しますが」


 で。メキシコ合衆国首都メキシコシティ。此処で先住民の男がフランス大使の帰った扉を不機嫌そうに睨んでいた。荒だった心を落ち着ける為に大きな深呼吸を一つ。


「何処もかしこも干渉しようとしてくる。マクシミリアーノ陛下は嫌いでは無い。だが……強烈な意思表示をしなければならないのか」


 そう嫌そうな顔で言ったのはべニート・パブロ・フアレス・ガルシア。先住民であるが大統領に選ばれ、フランスの介入により首都メキシコシティ追われるも抵抗を続け、フランス軍の撤退を契機に反撃を開始し選挙の上で再度の大統領となった男だ。


 尚、別世界線だとアメリカ合衆国の援助とか割とあったが、此の世界線だとあんまし無かった。

 だが大っぴらでは無いがイタリアの事でバチったグレート・ブリテンや、仕事増やされて「ナポレオン三世何してくれてんねん」感が結構あった日本。このバカデカ二国が交易を続けた為に北部に潜伏している合間、武器的には微妙でも普通の物資は割と豊富だった感じである。

 武器の方はフランス介入しにキレた軍部が結構いたから飯さえ何とかなってフランス軍さえ居なくなれば何とかなった。


「ハァ……俺が言えた口じゃ無いが何故フランス軍の撤退時に退位してくださらなかった」


 ハッキリ言えば敵であった皇帝を個人的には好ましく思っている。何にせ保守派に担ぎ上げられているだけけでマクシミリアーノ1世は自由主義よりの考えを持っていて人柄も好ましい。だが他国の介入と言うのは個人的好悪を逸脱した事態である。


「大統領。他国の使者が来ましたが」

「何? またか。大抵の国は既に対応したが一体何処だね」

「……それが、大日本連合帝国です」

「何?!!!」


 壁向こうの怪物。イスパニアから独立してから今日日。ほぼ関わりの無い相手だ。

 しかし遠い昔に連れて行かれた先住民が壁の先から帰って来た事がないという事実、独立以降は国交が断絶して久しいという状況、時折見える巨大過ぎる鉄の船舶と言う脅威。

 メキシコ人の特に先住民にとって大日本連合帝国は正体不明の怪物だった。


「……無視してぇ」

「大統領、それはちょっと。気持ちは分かりますが」

「……分かってる」

「呼んできます」

「待って」

「大統領……」

「…………分かった」


 そうして和服に髷の男が入ってくる。


「初めまして大統領。日本特使の平岡円四郎方中で御座います。以後お見知り置きを」


 非常に流暢なスペイン語だった。また礼儀正しく先住の自分に対して非常に偏見の無い。フラットな印象を受ける。


「ああ、よく来てくれた。日本の、ええと」

「家名が平岡、通称が円四郎で御座います大統領」


 カマかけにも反発らしい反発がなく此の時点で大統領べニート・パブロ・フアレス・ガルシアは個人的には好感を抱いた。


「平岡特使。よく来て下さいました。貴国とは国交が断絶して久しいが之を機に手を取り合いたいものだ。さて今回は何用で来てくれたのかな?」

「日本連合帝国は双方の大使の派遣と通商の相談、および大統領の訪日の相談をしたいと思い私を派遣した次第で」

「……なるほど。随分と性急だが。友好を深められるのは嬉しい事だ」

「実直に申し上げれば密猟者の問題が御座いますので。落ち着いたのならそれら諸問題を含め遡及に不戦を結んでおくべきと考えた次第です。国と言うのは隣り合えば如何しても軋轢は生まれますから」

「大日本連合帝国から見て合衆国政府は交渉に足ると見て頂いた。そう考えても?」

「状況的に見たのであれば。まぁそう見て頂いて構いません」

「他にはどの様な見方が?」

「心情的に欧州の国、取り分けグレート・ブリテンに関してはメキシコ合衆国に取り立てて思う所は御座いません。無論それは利息が足りた訳でもアメリカと関係がある事を気にしない訳でも有りませんが」

「……であれば何を言いたいので?」

「政治的ではなく個人的な話になりますがマクシミリアーノ元陛下を如何思われますか?」


 大統領は顔を顰めた。だが確認が先である。


「……個として見れば好ましいかと」

「それです。マクシミリアーノ元陛下は優れた人柄を持っておいでだ。ここです」

「伺いましょう」

「欧州各国は君主制です。これは重ねた歴史と血縁がある」

「言いたいのは血縁ですか」

「はい。グレート・ブリテン女王陛下ととベルギー王国陛下。そして元皇妃様はベルギー王国の出でありブルボン家にございます。当然ですが元陛下はオーストリア皇帝陛下の弟君と言う立場です。またルイジアナ王家もブルボン家でありイスパニアも危ういがブルボン家です」

「如何なると?」

「これは断言する気は有りませんが助命嘆願の甚だ多いマクシミリアーノ1世陛下を刑死させてしまえば国交と言う意味でメキシコ合衆国は非常に苦難の道を辿るでしょう」

「言わんとする事は分かりますがそれで貴方大日本連合帝国という訳か。しかしフランス帝国に賠償を求める事も出来ないのでは示しが付かない。皇帝一人の為に何人のメキシコ人が死んだと?」

「申し訳無いが一万二千ほど程度しか存じ上げません。詳細は存じ上げませんが万を超える国民が死ぬと言う事は痛ましい事です。ですがその死を無駄にするのは如何な物かと無粋は承知で思いまして」

「……無駄にするだと?」


 大統領は自分でも驚く程にドスの効いた声が出たが特使は何処か飄々としていた。


「ええ、まぁ。そりゃあね。時に大統領はアメリカ合衆国以外に行かれた事は?」

「有りませんな」

「であればホデノショニ(イコロイ)連邦とルイジアナ王国を御覧になられるべきだ。確かにメキシコ合衆国は資源も多く発展の余地は御座います。しかし資源以上に問題が多いとお見受けする」

「否定はしませんが、それで? 何が言いたいのです」

「両国の訪問は合衆国の答えにはなりませんが参考程度にはなると考えます。その上で内で問題が起きる可能性が有りながら放置するのは命を賭した彼等への裏切りでしょう。貴方の戦友に友や御家族の安寧は騒乱の中で維持できますでしょうか。

 外の問題を起こさぬ努力をする事によって犠牲に報いる事が出来ると考える次第です。またルイジアナ王国はブルボン家ですので」

「…………成る程。ルイジアナ王家ですか」

「大日本連合帝国としては隣国に安定して貰った方がありがたいのです。海賊や不法入国者も増えて参りました。対応は難しく有りませんが面倒なのは事実なのです」

「……少し、考えさせて頂こう」


 こうして欧州にマクシミリアーノ1世の銃殺の報せが届いた。オーストリア皇帝は酷く嘆き悲しんだと言う。

 しかしそれは誤報であり処刑の直前に大日本連合帝国とグレート・ブリテンの説得にメキシコ合衆国が応えていたのである。主だった保守派や側近達本人は殺されたが彼等の家族やマクシミリアーノ1世は二度とメキシコの地を踏まない事を条件に国外追放とされ助かったのだ。また説得した大日本連合帝国とグレート・ブリテンはメキシコ合衆国と国交を結び使節を受け入れる事になる。

 こうしてメキシコ合衆国は元ヌエバ・エスパーニャと呼ばれる範囲で最初に安定を手に入れた国となった。


「ホデノショニ(イコロイ)連邦とルイジアナ王国を見て、そして見せて良かった。ほんと良かった」


 とは数年後のべニート・パブロ・フアレス・ガルシア元大統領の言葉である。

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