たった四杯で良く来たね
ゴチャゴチャしてて面倒なんであんまし書きたく無かったんですがフランス革命の後の時代ってアレ的に絶妙に書いた方が良いかなって思ったんで書きました。
ちょっと政治的な主義主張に関して書いてますんで、そう言う面倒な話が苦手な方や、逆に主義主張がある方は後半部分に関して見ないでください。
おもんな野郎のツッコミ魂が抑えられんかったんです……。
大日本連合帝国と大英帝国は蜜月だった。欧州ではパクス・ジャポニカ、パクス・ブリタニカ。両国の即位式と戴冠式に皇族王族が行き交った上で日英同盟が結ばれパクス・デュアルム・マグヌルム・インペリア。二大帝国による平和と呼ばれた。
大日本連合帝国は宇宙関係の研究と実験を推進する一方でグレート・ブリテンは清朝とアヘンの取り扱いで揉めたのである。
対中国貿易で赤字続きだったグレート・ブリテンがインドで作った一応は医薬品を売りまくったのだ。
アヘン戦争である。
ただ日英同盟は雑に言えば「互いに攻められたら助け合おうね」的な相互安全保障の同盟だった上、医薬品であると同時に麻薬でもあるアヘンの大量輸出はグレート・ブリテンでも「ちょっと……どうなんコレ」感があった。
その為に依頼されたのは軍船の補給協力となり石炭と食料の融通に止まったのである。
まぁでも友好国として大日本連合帝国は武器弾薬に加えて、後で使えるからって兵士の保養地として琉球県と台湾道に娯楽施設をブチ建てて、友好国の兵隊さん様に医療船と飯盒船もサービス派遣。後のことになるがグレート・ブリテンは日本への礼として賠償から色を付けて代金を支払った。
またジャガイモ飢饉でグレート・ブリテンとフランスに援助をするも、諸国民の春が起きてフランスは帝政に戻る事となる。
そんな大日本連合帝国の駒知国の袋烏港と合威有軍港に黒い機帆船が四隻浮いていた。
「カ、カイコーク。カイコク、シテクダサー。コクゥショー、ォモテ、キ、マシター」
バウスプリットとマスト二本。マストの間には煙突があって船の左右には水車が付いてる黒い船。
が、デッカい戦艦大和的な船に囲まれてた。
尚、前に出てるのはデカい大和的な船三隻だが奥には戦力いっぱい並べてた。潜水艦とか空母とか子力潜水艦とか所謂イージス艦でしか無い迎撃艦、あとタンカーにミサイルをギチギチに積んだ射出艦、ドローンめっちゃ乗せた無人航空機空母、試作で作ってみた無人潜水艦。そんなノリと勢いと好奇心で建造した戦艦達が実践的訓練の機会に喜び勇んで出航して身を潜めてた。
五十線智砲二機六門を向けられながら船首で手を振ってるのはアメリカ合衆国東インド艦隊司令官マシュー・カルブレイス・ペリー大佐。今は作戦中で艦隊を率いてるので代将である。
彼は少なくとも表面上は船の上で悠然と構えて覚えたてだろう日本語で語りかけていた。
この世界線のアメリカはそこそこの石炭と多少の鉄鉱石が取れる沿岸沿いの農業海洋国家で何とか大日本連合帝国と交易をしたかったのである。
開国についてはちょうど開催されていた大日本連合帝国議会で話される事になった。木下内閣の諸閣僚と各政府の連絡役。また四大連合構成国を始め王国や公国の連絡役も集まっている。
そんな中で連合政府外務大臣の春日井絹左衛門忠行は国書を黙読した。
「グレート・ブリテンに一言入れて受け入れれば宜しいかと。信書では国境の現状追認と通商に関する事ですが特に待遇を良くしろとも書かれておりません。ルイジアナ王国は鉄鋼の輸出が出来ると喜びましょう。
ただ此方も大使を送って事実確認の上で判断すべきです。彼の国は孤立主義でしたので噂の域を出ませんが事実だとすればホデノショニ連邦は反対でしょう。同じ蓬莱人に酷い扱いをした国との取引は慎重にもなる。
ですのでアメリカに関しては国内情勢が良ければ品目等を鑑みて交易を再開すると言うのが無難でしょうな」
「ロシア帝国の方は何か言って来たかい?」
内閣総理大臣の木下藤吉郎秀盛が問う。
「クリミア、なる地で戦争が起きたそうで。少し長引かせてくれれば望外の事だと。衛星で確認しましたが事実の様です」
「ありゃ戦争ですか。大変な状況下なのかも知れんね。そりゃ」
「個人的にはプチャーチン殿の方が紳士的で人柄は好ましかったのですがね。グレート・ブリテンの言葉だ。配慮は必要でしょうな」
「外交となるとなぁ。まぁ双方ゆっくり待って貰えば良いだろう。アメリカを理由に二年ほどは引っ張れる」
内閣総理大臣の木下藤吉郎秀盛は笄で頭を掻いてから内務省の井伊鉄三郎直弼へ視線を向ける。
「井伊殿、諸国民の春だったか。連合各政府内の諸学者や学徒での広がりはどうかな? 語らうも学ぶも賛同するも良いがフランス革命の様になっては困る」
「全く広がっておりませんな。陶酔する者も零とは言いませんが。
先ずリベラルは災害が多く御座いますので有る程度の国家の統制は必要と理解されております。買い占めによる飢餓などが起きては問題ですから。何より諸国民の春とやらで暴動と言う印象が付いた様で。
ナショナリズムに関してはそもそもの話として万世一系の我等です。また連合帝国は文化や政治は各地の者達が差配しておりますので」
「アレは? ソーシャリズムとコミュリズムだったか」
「ソーシャリズムに関しては今更という話です。後者は少々……良く分からない事になっております」
「何があった?」
「それが、どうにもコミュリズム《共産主義》 はプー太郎や破落戸供に人気ですな。今は強引な乞食と集りを行い窃盗で捕まる程度ですが」
「法を犯す者がいるのであればいかんな。施餓鬼をせびるくらいと甘くは見れん。
と言うかプー太郎や破落戸が何故? どうやって知ると言うのだ。思想だの何だの小難しい話に最も関わらん連中だろう」
「如何も富豪などの中途半端に知恵を授けられた放蕩者や元道楽者、後は自信過剰の半端者が連中が現状の不満からコミュリズム《共産主義》 に縋っておる様で。
コミュリズム《共産主義》を標榜する。共産主義者、でしたか? は是迄全ての社会秩序の暴力的転覆に依ってのみ達せられる、と。まぁ随分な事を書いた共産党宣言なる本を和訳しておる者達が居ます。
確認してみた所、まぁ何と言いましょうか、無駄に語感を厳しくした上でらしい外来語を多用する、如何にも小難しそうな物言いの翻訳でして。感化された阿呆が強く利口になった錯覚を覚えている様です」
「扇動でしか無いな。どんなバカ者が書いたんだソレ?」
「調べております」
春日井絹左衛門忠行が資料を取り出した。随分な量である。
「流石だ。で、如何様な?」
「カール・マルクスなるプー太郎でした」
「……プー太郎」
全員「え?」って感じになった。
「一応は物書きとして働いた事もあるようですがプー太郎で差し支え無いでしょう。プロイセン王国にて弁護士の父と富豪の母の元に生まれ、通わせて貰った大学で碌に学ばず浪費の激しい酒飲みだった様です。
挙句に将来を心配した父君に国一番の大学に通わせて貰うも放埒が過ぎて借金までこさえたようで」
「……絵に描いたようなカス」
「挙句に病で父君が亡くなって未亡人になった母に哲学を学ぶ為に仕送りを要求を繰り返したそうです」
「いや本当にカス」
「母君は女手一つで七人の子供を育てなければならなかった様ですから、碌に学んでこなかったどころか借金をこさえた息子に仕送りなど出来る筈もないでしょうな。
哲学は必要な学問ではありますが金にはなりませんし」
「……詳しいな?」
「私も気になって調査を担当した者に聞いた所ずいぶんな嫌われ者な様です。人間性に関して随分な量の報告書が御座いましたが。まぁ驚く程に肯定的な話が無い」
「少ないではなく、無い? 嫌われ過ぎだろ」
その資料だろう物が外務大臣の席から総理大臣の席へ。目の前にドンと置かれた木下藤吉郎秀盛はパラパラと見て。こう、何つーかウンコ踏んだみたいな顔になる。
「うわぁ……。要諦とは言え色々ひどい。見栄っ張りで議論が出来ず。無駄に自尊心が高い印象を受ける、と。
それに近親者への迷惑のかかり方が酷い。特に姉君の被害が本当に酷だ」
「何せ元来プー太郎な上に姉君はプロイセンの政治に携わる夫を持っていますから随分と迷惑を被った様で。
その後は無頼漢の様な生活を送りながら岳父の伝、縁故で大学の教授になろうとした様ですが岳父が亡くなり、瓦版の仕事で食い繋いでいたとの事。
その仕事でプロイセンからフランスに移って書いた瓦版の内容から故国に入国を禁じられたそうです」
「……何書いたらそうなるんだ?」
「如何にも封建制の批判と労働者による決起を促した様です」
「王権転覆と騒乱扇動か……。バカ者どころでは無いぞ。プロイセンなる国が理性的過ぎたのか、マルクスなる男が取るに足らなかったのか。よく打首にならなかった物だな」
「ですね。その後はコミュリズム《共産主義》 を掲げて各地を転々とし、逮捕されたり大衆扇動と大衆誘導を行ったり。
最終的にはプロイセンから追放処分を受け一家諸共グレート・ブリテンの貧民街に落魄れたようです」
「一家って。結婚してたのか? えぇ……」
「しかも流れ先のグレート・ブリテンでも碌に働きもせず一家で両親の財産も食いつくし友人の援助で生きているとの事」
「そんな輩がいったいどんな御高説を垂れたんだ……」
全員が聞く気が失せていたが政治。春日井絹左衛門忠行もこれから語る内容に思わず呆れた表情で資料を一瞥した。その紙束の脇の本を摘んで吊り下げ。
「此方をサラっと読んだ感じですがコミュリズム《共産主義》は財産の私有を禁じ共有する事による平等と貧富の差を無くす事が目的だそうです。
そこからプー太郎が曰く所では労働者が資産家から権力や財産を奪う事を推奨している様に読めましたな。
階級闘争とか言う戦いによってこそ良き世が来るがどうのこうので、万国の労働者よ立ち上がれとか何とかかんとか」
「え? 争えと声を掛けてるのか? と言うか付いてこいではなく戦え、と?」
「まぁ、はい……コレの翻訳によると」
「いや嘘だろ?! 先ずオマエが立ち上がって働けよ?! と言うかマルクスとか言う男、話を聞くに資産家の出身じゃねーか?! ただのボンボン無職の親不孝者がどの面さげて平等だの何だのを掲げて他人に戦え等と言っとるんだ!!? 恥知らずの域を超えとるだろ!!!!!」
「未亡人になった母親に金を無心した男が財産の均等化による平等などを謳っている訳ですからね。少なくとも資産の共有など最も語るべきでは無い口でしょう。虫の良いというか厚顔無恥と言うかなんというか」
「面の皮の厚さで砲弾を防げそうだな。ただの寄生虫の自己弁護でしか無いぞ。普通の感性があれば考えもせんぞ。
見るのも聞くのも耐えん詭弁にもなっとらんだろ。家の金を食い潰した怠け者が金欲しさに平等などと言っているだけでは……?」
「全くその通りで」
「話を聞くにコミュリズム《共産主義》は何で浸透したんだ? 他の思想は未だ、まぁ固執すれば拙いが、そう言う考え方があると言うのも分からんでも無い。
だがコミュリズム《共産主義》に関しては財産の私有を禁じ共有によって平等を目指すと言う前提の御題目からして既に破綻していると言えるぞ。
フランスの革命にてノブリスオブリージュを殺し、貧者に手を差し伸べる者の首を落とした後の時代、その当時の惨状は知識程度とは言え分かる。だが物を大きく見ると言うよりも、余りにも大雑把に見過ぎている答えとしじゃ思えんな」
「分断であって平等では無いと私も思います」
「うむ。平等と言うが酷く極端な題目故に酷い極端を言えば、頑張り屋と怠け者の給料を一緒にする考えだろう。努力した者が報われる世ではなく努力する意義を奪っているとしか思えん。
その上で階級闘争などと言う獣畜生の様な代物を掲げては最後の一人になるまで殺し合いが続くだけだ。こんなモノを掲げて世を変えようとした所で世を変える側になれば次は自身が階級闘争の矛先だろう。この階級闘争などと言う論を掲げた時点で落魄れるか破滅以外の先は無かろう事は瞭然の筈。
何より広めてるのはプー太郎だぞ。人品卑しく議論というより相手を言い負かす事を至上とする。そんなみみっちく惨めな男が広げる言葉になぜ感化される? これが本気でわからん。マジわからん」
「まぁおそらく煽動家が分断を煽って労働者に立ち上がれとか言ってますので煽る事だけは上手いのでしょう。
煽られる者とて要は気に入らない相手を無条件に資産家という悪として罵声を浴びせられる憂さ晴らしに丁度良いのではないでしょうか。そういった者達は煽動している人間がどう言う輩かなど興味もないでしょうし、だからこそマルクスなるプー太郎の為人が知れ渡っていないのも大きかと」
「ああ、それはそうか。国と個人では情報量が違う。何なら私も今知った訳だし……。
そりゃプー太郎を知ってれば冗談にもならん話だ。先ず自分が先頭に立って見せろと真顔で言ってしまうだろうからな。
だいたい親族どころか友人に金を集り続けるなど此の男が言う資産家より余程タチの悪い輩だろうに」
「先ずはこのプー太郎が労働者にとやかく言って瓦版に論説を書くではなく、瓦版を走り回って配る側になり労働者として生きるべきでしょうね」
「全くそうすれば少なくとも騒乱を煽ろうとは思わんだろうに。と言うか自分がふんぞり返って労働者に立てと言う姿は虫唾が走る。策謀家気取りが本気で気に食わん!!」
仕事的に面倒が増えたのもそうだが母子家庭だった木下藤吉郎秀盛はマルクスと言う男を嫌悪し吐き捨てる様に。
「ただ成る程、碌で無しが集るのも頷ける。もし扇動を行う者が居たら此のマルクスなる男の軌跡を大々的に時勢報道で流せば鎮火するだろう。事実だけを淡々と並べるだけで良いわ。
真っ当な感性があれば冷めるだろうし冷めぬなら如何しようも無い。そう言う者として対処が出来る」
頷いていた春日井絹左衛門忠行が、しかし拙いと言わんばかりに顔を顰めた。
「……そう言えばこのマルクスという男、母方がロスチャイルド家の遠縁です。関わりはそうないと思いますが欧州に影響があるやも」
「資産家の母親が欧州一の資産家と繋がりあるのかよ?! もう何コイツ?! どの面下げて本なんて出してんの!!?
……ハァー。調べた上でだが、その部分は削れ。事実であっても余りにもロスチャイルド家が不憫だ……。こうなるとグレート・ブリテンとの相談事が増えたな」
木下藤吉郎秀盛は溜息一つ。
「まぁ主義主張を語るは大いに結構だが騒乱や動乱を煽る事を前提とする様な危険な考えは市井の為にならん。先導された末期も分からぬ者は兎も角も扇動する者には相応の対処が必要だな」
日本はこうしてフランス革命の後の思想的な騒乱とは無縁となった。共産主義とかプー太郎の碌でなし連中の名刺扱いである。
なんか資本主義どうこう言われても、それ経世済民の経世止まりだねで終わり閉廷。
と言うか織田幕府の頃より朱子学、儒学、国学、蘭学、朱子学、経世済民、石門心学とか色々あったしそう言うモンが有る以上の興味は基本的に持たれなかったので有る。
因みに日本で最も学ばれてる思想的な学問は黒鬼学だ。黒鬼学は内藤長忠の言動、作品、記録、万象学などなど遺した物全てを研究し学問とした物。ぶっちゃけ漫画読んでるだけじゃねーかとか、普通の学術と何がちゃうねんとか、長忠数奇だろとか言われてる代物。
基本的に友情を尊び努力を以てして勝利を目指す事を根幹に置き、研究を重ねて技術伸ばして助け合え的な思想。
たぶん内藤長忠もワロテまうしか無い。
そうして諸国民の春を大変そうだなぁって見ながら過ごし、クリミア戦争で人道支援として医療船を派遣して、フローレス・ナイチンゲールに医薬品とか届けてから、各国兵士の治療にあたったり何だりかんだり。
大日本連合帝国は少なくとも戦争や騒乱とは無縁だった。




