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飽和ァッ!!!

 ナポレオン・ボナパルトは短い和平の終了と共に英仏海峡に大軍を配置。それはイングランドへの侵攻を見せる事でニホンから供与された新型戦艦をイングランド本国に拘束する狙いだった。

 その合間にフランス海軍とイスパニア海軍をを集め各港を封鎖するイングランド海軍を確固撃滅する事が狙いだったのである。


 その意図は余りにも明白だったが最善の選択たる無視が可能かと言われればイングランドことグレート・ブリテンには不可能だった。首都ロンドンで行われた閲兵式に市民など凡そ五十万人もの見物人があり、それだけイングランド国民がフランスの本土侵攻を恐れていたのである。

 これに効果的だったのが国王とフランスに情報を与えない為に秘匿されていた日本から送られた戦艦の御披露目及びイングランドの港に停泊させる事だった。

 ただ新型戦闘艦の存在は同時にあのナポレオン・ボナパルトをして。いや、だからこそイングランドの海上優勢を撃滅するのは今しか無いと思わしめた。


 フランス地中海艦隊はジブラルタル海峡を抜けて西インド諸島(カリブ海の諸島)へと向かい戦力集中と情報欺瞞を敢行じイスパニア海軍と合流するもイスパニアのカディス港でグレート・ブリテンの艦隊に追いつかれる。


 そしてナポレオン・ボナパルトの命令により地中海に向かおうとするもトラファルガー岬の沖合でカディス港へと引き返す。


 HMS104門一等戦列艦ヴィクトリー即ち勝利と命名された旗艦に乗る白色艦隊司令ネルソン子爵ホレーショ・ネルソンは残った腕で望遠鏡を構え残った目で連合艦隊を捕らえていた。


「作戦通りだ!! さぁジョン!! 全軍に信号文を送れ!! 英国各員がその義務を尽くす事を信じる、と!!」

「提督、戦術的に意味のない事を送るので?」

「ああ勿論だともジョン。これは偉大なる祖国の命運を賭け戦いだよ。鼓舞の一つせずしてどうするんだい?」

「分かりました。では信じるの部分を期待するに変えても宜しいでしょうか」

「成る程。確かにその方が短くなる。やっておくれジョン」

「ハ!!」


 ネルソン率いるイングランド艦隊は二つの槍だ。旗艦ヴィクトリーを穂先とした一本とロイヤル・ソブリンを穂先とした一本。それが大きく弧を描いて北西カディス港へ向かう連合艦隊のド真ん中を進む敵旗艦を挟む様に。


 手入れを施したばかりのHMS100門一等戦列艦ロイヤル・ソブリン僅かに先行する。

 そして先ず初めに連合艦隊の一隻フグーがロイヤル・ソブリン目掛けて砲撃を開始。戦列艦は側面に大砲を並べた為に先頭の船が最も攻撃を食らう事になり、孤の内側に入り込む形のグレート・ブリテン艦隊は猛攻を受ける位置だ。ともあれば当然だが僅かに遅れたヴィクトリーにも敵の砲弾が降ってきた。


「ハッハッハ全く当たらない!! やはりイスパニアは良い船を作っているが兵の訓練はおざなりな様だね!! フランスなんてもっと酷い!! さぁもっともっと敵に近づいて戦えと信号文を!!」


 平然と言うがヴィクトリーやロイヤル・ソブリンは滅多撃ちに晒されている。下手な大砲も数撃ちゃ当たり遂にはヴィクトリーの舵輪に砲弾が直撃。慌てた味方がヴィクトリーを守る為に速度を上げた。


「全く気を使い過ぎだ!! 紳士諸兄に戻れと伝えろ!! 一等艦が沈むものか!!」


 とは言えヴィクトリーの通信旗さえも砲撃で吹き飛ぶ。再度盾になろうと速度を上げた二隻に戻るように伝えて歩く様な速度で凡そ三十分以上。漸くロイヤル・ソブリンが敵の中に突っ込んだ。

 敵旗艦ヴュサントールの戦隊と続く戦列の合間に入り込み砲撃を始めた。イスパニア艦サンターナのケツに砲弾を叩き込む。


「皆、御覧よ!! あのコリンウッドの素晴らしい戦いを!!」


 ネルソンは望遠鏡を覗き。


「敵旗艦を見つけたぞ!! 航路を塞ぐ!! 面舵!!」


 こうしてフランス旗艦ヴュサントールの背後にヴィクトリーが砲撃を叩き込みヴュサントールの兵の半数を戦闘継続不可能とした。


 乱戦である。


 しかし多勢に無勢だった。だがネルソンが下がらせ守った味方が続々と追いつき敵への突撃と砲撃を始める。混戦の極みという状況へ陥った。


 その最中にフランス艦ルドゥタブルへヴィクトリーは砲撃を加えルドゥタブルを崩していく。白煙と衝撃の中でフランス艦ルドゥタブルは起死回生の一手としてヴィクトリーへの移乗攻撃を狙った。だがグレート・ブリテン艦テメレーアの葡萄弾の砲撃を受け海兵が壊滅。


 グレート・ブリテンを、いや海の軍神たるネルソンを研究していた連合艦隊は移乗戦闘の訓練をしていたがグレート・ブリテンの優れた砲兵により削られていく。遂には自国の旗を下ろして降伏する船が出始めた。


 そんな最中ルドゥタブルの狙撃兵が気付く。


「あの勲章が多いの。四つも着けてやがるな。ありゃ敵んトコの偉い奴だな?」


 ネルソンの突撃癖を元に準備された数多くの狙撃兵の一人が銃口を向けた。銃口の先には数人の服装からして高級将校の集まり。

 それらを目掛けてシャルル・ヴィルマスケットのモデル1777カービン・ヴァージョンを構え。


「取り敢えず戦友の仇討ちだ!! どれでも良いから当たってくれよ」


 四六時中そこら中で硝煙が噴き出るトラファルガー沖の海の上でまた一発が放たれた。


 優美に歩いていた。甲板の上を英雄が。その隻眼は戦場を見ている。勝利を目前にしてもホレーショ・ネルソンに浮ついた空気など縋り付く事さえできない。


「このまま推移すれば。次の敵は、あの——」


 肩に衝撃を受けて崩れ落ちた。緩い液体が軍服の中、身体を伝う。下半身の感覚がない。


「司令官!!!?」


 ネルソンにとって長い付き合いの旗艦船長フラッグシップ・キャプテン。サー・トマス・マスターマン・ハーディが慌てて駆け寄りネルソンを支える。十年来の戦友の腕の中でネルソンは笑っていた。


「ああハーディ。たぶん背骨を撃たれた。下半身に力が入らない……」

「ああクソッ!! チクショウ!! 何で!! よりによって!! ああ!! 司令官を安全な所へ!! 船医は何処だ!!」


 服を脱がせれば血が溢れる傷を見た船医は力無く首を振った。そもそも背骨を撃たれては如何にもならないのは船乗りであれば誰もが知っていた。


「馬鹿野郎!! チャプレン!! アレクサンダー!! テメェらどうにかしやがれ!! 前歯へし折んぞ!!」

「ハーディ……。落ち着け。頭に血が昇ってるぞ。それより戦況は? 指揮を……」

「へ、ヘイ。指揮を取りやす。その、悪かったな二人共。動転してんだ。司令官を頼む」


 そして戦闘はグレート・ブリテンの圧勝で終わる。


「司令官、司令官! 連中の船から14、5枚は旗を下ろさせてやりましたぜ! 皆んな、皆んな良くやってくれやがってます。この戦場はアンタの勝ちだ。アンタがいたからの大勝ちだ!!」

「ああ、20枚は奪ってやれると思ったがね」

「ハハッ! アンタぁ本当に牧師のガキですかい?」

「おぉ、懐かしい。地中海でミネルヴァに乗っていた頃。君が一等海尉、私が准将だったあの時。イスパニアのサンタ・サビーナを下した時にも君が言った言葉だ」

「そりゃあ俺が捕まった時の話だ。しかも捕虜交換で帰ったってのに船が落っこちて。追われてるってのにアンタに助けられた情けない話じゃねぇですか」

「ハハ悪いなハーディ。つい、懐かしくて」

「止めてくださいや。まるで、死ぬみてぇじゃねぇですか」

「ああ、そうだハーディ」

「……っ」

「折角の勝ちだキャプテン、ハーディ。錨を下ろすのを徹底させてくれ。船底だから……たぶん、だが、確認を頼む」

「……アイアイ。かしこまりましたぜ」


 ネルソンは二、三度頷く。その目から急激に光が消えていく。


「最愛のハミルトン夫人。あの気の毒な婦人の面倒を見てくれ。ハーディ。……私を……。祝福して、くれないか……」

「えぇ、ええ勿論です司令官! 俺なんぞで良けりゃあ。アンタの為に祈りますぜ」


 誰も喋れない。牧師が祈っている。朦朧としたネルソンが。


「だ、れ……かな……」

「ハーディです司令官」

「ああ、キャプテン……ハーディ。君に、御加護が、在らんことを……」


 偉大なる提督の魂が薄れいく様に。


「神よ……感謝します。私は義務を、はたし……ました……。神、よ。祖国……よ……」


 ネルソンはこうして百年に渡るグレート・ブリテンの海上覇権を確立させる対価に死んでしまった。


 トラファルガー海戦の報告を聞いたナポレオンの居場所はすでに次の戦地だった。フランス帝国皇帝ナポレオン一世、オーストリア帝国皇帝フランツ一世とロシア皇帝アレクサンドル一世。三人の皇帝が集うアウステルリッツ三帝会戦が始まった。

 数的不利と敵の集合を忌避したナポレオンは南方に布陣した右翼を薄くし敵を誘引。理外の機動力を以て現れたフランス軍最年少元帥ルイ・ニコラ・ダヴーの増援を含めて右翼に敵を釘付けにする。また北方左翼でも大規模な騎馬戦が始まった。

 そして手薄となった敵中央の丘へ皇帝ナポレオン本人が率いる本軍が猛攻を加えオーストリアとロシアの連合軍中央を分断壊滅せしめた。


 このフランス帝国の大勝、それ故にそれ相応の対応、勢力図を接したプロイセンが敵となった。


「市街西方に野営地を作る」

「ここで休まないのですか?」

「興奮した兵に規律を守らせられるか? 此処は侵略者が横で寝ていて怒りを覚えない聖人の街かね? 兵の命は何よりも優先されると私は思うが」

「出過ぎた事を申しました」

「そうだな。ではかかれ」

「は……」


 フランス軍第三軍に制圧された夕刻のナウムブルクにボソボソ喋るハゲが居た。栄螺さんの父親の様なハゲ。波を平らにしそうな天辺ハゲである。

 しかも分厚い眼鏡の下の険しい顔は何というか陰険な波◯みたいな見た目のハゲ男。年齢に比して老け過ぎで禿げ過ぎな所も似てるハゲ。しかし栄螺パパより背丈は小さく外見を実直に言えばマジで冴えない陰険チビハゲ。服装も軍服だから見れるが臭いが酷く鼻が曲がる様なハゲ。


 ただ此の陰険老け顔汚臭チビハゲは尋常どころか既に人間では無い様な手合いだ。人によってはナポレオンより戦術的に優れた男と評価して憚らない。と言うか数少ないナポレオンが自分の背中を預け得る相手だ。


 フランス軍第三軍を率いる鉄元帥ルイ=ニコラ・ダヴーその人である。1日の休息を得た第三軍にナポレオンの伝令が迎えられた。


「我等が皇帝陛下より命が降った」


 神託を受け取ったと言わんばかりの様に周りの将官達が相変わらず若干引いてた。ナポレオンに忠誠を誓う者はフランスに幾らでもいる。だが何というか信仰に近しい物を感じさせるのはダヴーだけだった。


「プロイセン軍側背を攻撃せよとの事だ。包囲を完成させる為に明日は西方に向かって進むが強行軍になる。規律を守った上で兵を休ませろ。

 それとコレは写した上でポンデ・コルヴォの奴に持っていけ。参謀長殿の注意書きがあるからな」


 翌朝。


 非常に不機嫌そうな顔がベットから起き上がる。実際はド近眼と眠いだけのダヴーの顔。直ぐにテントから出て外を見た。


「ケーゼンは霧だな……」


 軍に関わる者であれば大抵の場合は戦場の霧は嫌いだ。自然現象という意味でも、敵の動きが見えないという意味でも。ダヴーはしかし索敵を待っていては遅くなると考え。


「セザールを此処へ」


 ダヴーが一言。従兵が出ていき師団長を一人連れてきた。ダヴー麾下の第三部隊を任されたセザール・シャルル・エチエンヌ・ギュダン・ド・ラ・サブロニエールだ。

 ギュダン師団長。ダヴーの友でありナポレオンとも知古を持つ男だった。規律正しく敬礼して鼻を抑える。


「ダヴー。せめて水を浴びろよ。流石に匂う」

「……服脱ぐの面倒なんだ。着るのも面倒くさい。知ってるだろ」

「まぁモノグサと言う気にならない程度には同感だがな。元帥がそんな事で如何する? 次の大休止の時には何とかしろ」

「分かった分かった。急かして悪いが悪いがセザール。先方を頼めるか?」

「分かった。露払いだな。いや霧払いか。任せておけ。置いていかれるなよ」

「勿論だ。陛下の命令だからな」


 ギュダンは肩をすくめてヤレヤレと露骨に戯けて見せてから直ぐに自分の部隊の元へ向かって歩き出しダヴーも直ぐに立ち上がる。


「準備を急がせろ」


 こうしてダヴー第三軍は西の都市ケーゼンへ向かって進軍を開始した。この時代の凡その軍の移動速度とは徒歩の速度とである。騎兵を先行させる事もあるが戦列歩兵が主力の時代では火力が足らない。

 そして馬にせよ人にせよ生き物。その速度は一定では無く、また歩くだけで疲労する。故に欧州至強たる大陸軍グランダルメは何処よりも歩ける軍だ。


 先行する先鋒ギュダン師団はザーレ川を渡りハッセンハウゼンにてプロイセン軍先遣隊に接敵し一線交え捕虜を得てダヴーの居る本隊へ送った。


「セザールが捕虜を送って来る訳だ」


 捕虜からの聴取を得たダヴーは誰にも聞き取れない程に小さく言った。周りの将官達へ鉄面皮の目つきの悪い瞳を向ける。


「幸い霧が濃い。敵を見つけた、と。兵にはそれだけを伝えなさい。敵本軍、倍以上の軍勢だと分かれば流石のグランダルメとて逃散する者も出るでしょう。今の怯懦と躊躇は死に直結する。

 ギュダン師団長にハッセンハウゼン村を中心に防御戦闘を指示。私達は急ぎギュダンの元へ向かう。後続のモランとフリアン両師団、ヴィアラーネ騎兵旅団を急がせろ。

 私達は凡そ二万七千、敵は六万を超える。近場にいる軍団を呼ぶしかないな。ポンデ・コルヴォ……ベルナドット元帥を呼べ。間に合うか分からんが」


 そこからは霧の中にあって騒々しく怒涛だった。フランス軍プロイセン軍の双方が戦場へに雪崩れ込む様に戦う。ダブー第三軍は常に小勢として戦う事になる。


「ヴァイアラーネ騎兵旅団です!!」

「右翼にいかせろ」

「は!」


 伝令を見もせずまるで鉄塊の様に霧の中の軍へ目を凝らすダヴーに参謀が戸惑いがちに問う。


「……敵の勢いは左翼の方が激しいですが」


 左翼を抑えるギュダンは友人では無いのかと責めるような顔。それはダヴーにとってはギュダンであれば平気だ。それで済む答えだったが参謀を見もせず。


「逆に右翼はあの通りだ。で、あれば敵は余裕のある左翼から兵を割かざるを得ない。数で押しているだけの軍から兵が割かれれば気勢は削がれる。

 敵に両翼包囲を行う動きがあれば話は別だが強行突破を図って縦深を厚くしているのであれば右翼に送るのが正解だ。

 大抵の人間は砲弾も兵士も残りの数が減れば節約したくなる物だからな」


 ダヴーが指を挿す先では圧力を受けたプロイセン軍が後退し間隙が開く。それを埋める為にギュダン師団と戦う敵の後方から兵が削られ真反対の間隙へ送られた。


「……な、何と」


 参謀が驚く一方でダヴーは戦場の機微を見逃さない様に集中していた。妙な事であるが多勢が小勢に対して積極的な側面攻撃を行わない。その理由の一つはプロイセン側がナポレオン本人と戦っていると言う誤認によるものだった。ナポレオン本人で無くともフランス軍の強力な戦力であると老将達は肌で感じていたのだ。

 その考えと兵数で勝るが兵数だけが主な強みと言う状況。平押しでのフランス軍粉砕を企図した物だった。数に頼っての総攻撃ほどに対処の難しい物は無い。


 が、質で圧倒するフランス軍と数で圧倒するプロイセン軍の攻防は一進一退。通常は数という如何しようも無い差をダヴーと言う個人の采配で埋めて同等。こんなん産まれるまで60年以上あるけどランチェスターさんも宇宙猫なるで。


「戦場が動く」


 鉄面皮、心身不動、ダヴーが言う。その望遠鏡を覗き込んだ目には敵の高級将校が崩れ落ちる光景が見えていた。


 そして、ふと。


「フリードリヒ大王の薫陶を受けきれなかった勇猛な御老人がもう一人いたか」


 二点。プロイセン軍の攻勢、いや軍そのものに亀裂が入る。


 何せ此の時撃たれたのは実質的総指揮官ヴラウンシュヴァイク公とプロイセン第三師団長シュメッタウ。戦場一つと戦線一つの指揮責任者の脱落と言う戦争における最悪の状況は指揮移譲即ち引き継ぎが機能しなかった事で最悪の更に先の開陳が確定した。

 社会人にしか伝わらんし社会人には雑な例えだが会社で言うと巨大プロジェクト中に社長(トップ)と執行役員(実働部隊)が急死して引き継ぎが出来なかった感じ。


「モラン師団到着!!」

「来たか。左翼へ送れ」


 凡そ五時間。漸くダヴー第三軍の主力が追いついた。


 此の主力約一万を率いるシャルル・アントワーヌ・ルイ・アレクシス・モランの猛攻。これが中途半端に投入された敵増援部隊を撃滅を端緒にプロイセン軍の崩壊が始まった。更にもう一師団がモランにより崩れ、プロイセン増援が来るも敗走する兵によって布陣が出来ずモラン師団は前進。

 プロイセン軍が騎兵旅団を送るも即座に方円を組ませ撃退。劣勢と疲労が重なっていた三つ目の師団を壊滅させた。


「総反攻!!! 全軍に伝えろ!!!」


 ダヴーが号令を下せば砕け散る様にプロイセン軍は決壊を始めた。

 砲兵が土産とばかりに鉛玉を吐き出せば歩兵が戦列を崩して銃剣を突き出し騎兵がサーベルを振り下ろす。プロイセン軍の背中へと砲撃と銃撃と斬撃が落ちて足を止めれば銃剣の刺突か馬蹄の粉砕されるのみだ。指揮系統の壊滅した中で果敢に殿を勤めた師団もあったが後方の町アウエルシュタットまで追撃を受ける。

 二倍以上の敵に二倍近い損害を与えてダヴーは戦史の伝説となった。


 伝説ってのも割とマジな話でナポレオンをして報告に対し「オメーんトコの元帥、物二重に見えてますやんw(意訳)」と冗談を言われるくらいヤバい事だ。

 報告がマジだって知ってあのナポレオンがガチで吃驚する様な活躍である。




 グレート・ブリテン外務大臣グレイ伯爵チャールズ・グレイが日本大使を自身の屋敷に招待していた。当然これは外交的な話の為で双方の所感を世間に隠した上で確認し合う為である。


「っあ〜〜〜こー茶うめぇぇえええ!!」


 対しの前で外務大臣グレイ伯はガブガブ紅茶を飲んでいた。当然それは紳士然とした大臣らしい飲み方だったが。こう、何つーか、好きなんすねって感じ。

 芳醇に香るのは落ち着いた柑橘類の香り。ソーサーに移して飲む。七杯飲んで日本製のティーカップとソーサーが仕事を終えた。


「さてミスター、タケダ。大陸封鎖令を御存じでしょうか」


 今の駐グレート・ブリテン大使は天正頃に浅間山の噴火で分離した武田家の一つ諏訪武田家の武田四郎信縄だった。


「フランス帝国の貿易妨害ですな」


 大陸封鎖令とはナポレオンがトラファルガー海戦でグレート・ブリテンにボコられブチギレた結果、取り敢えずプロイセンとかロシアとかオーストリアをボコってグレート・ブリテンをハミった(仲間はずれにした)感じの勅令だった。

 これでグレート・ブリテンは欧州大陸と孤立したのである。まぁ「だから何?」って感じだったけど。

 余談だが一番困ってるのはアメリカだったりする。


「その通りです。既にジャパンには食料輸出と綿輸入と言う取引を大規模に行なって頂いている。寧ろ以前より儲かっている程だ。

 そこで国王陛下は港の大規模化を推し進めると同時に、その港をジャパンに無償開放する事を考えられた。

 これは貴国の利益たり得るだろうか」

「鉄工所などは建てられたのでしたね。線路は其方の鉄を用いる形ですか?」

「それが望ましいですね」


 グレート・ブリテンは織田幕府からの技術移転を自国の人を用意出来ない上に対価を払えないという理由で現状では受けていない。その為に今の技術はパドル法という船を漕ぐ様に鉄をネルネルネルネして鉄を作ってた。どっかのチートの所為で二百年くらい早めに日本が始めた空気ブクブク混ぜ混ぜ転炉に比べると質と量で劣る。


「では出来るだけ其方で軌条を敷くという事で問い合わせてみます」

「有難うミスター・タケダ」


 こうして欧州では特に綿製品に関連した経済混乱が起こり海運業が衰微する事になる。グレート・ブリテンは普通に日本と取引してたので特に困らなかった。


 これにナポレオンめっちゃオコって感じだったが何も出来なかった。あと20億ルーブル分を払わんと話も聞いて貰えない。ナポレオン帝国は周りの国ブン殴って賠償金せしめて日本に送る自転車操業。そんな気は無かったが何かそう言う感じになってた。でなければ馬車鉄道とかの維持がヤバい状況なのだ。


 取り敢えず金払って国王処刑の票を入れた人間に対する扱いについて、またネーデルランドもといホラント王国の海外領土、此の二点の交渉こそがフランス帝国の目指すところだった。


 尚、日本的には「お蔭様で蓬莱の南にあるヌエバ・エスパーニャどエラい事なってんだけど何してくれとん?」って話である。

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