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フランスより飽和へ うるせぇ、クラリネットぶつけんぞ。

 南洋府は面倒な場所である。特に欧州勢力の色濃い地域は扱いに色々と難儀するのだ。南洋府ジャワ島はバンテン国やマラタム王国という南洋府加盟国があった。

 バンテン王国はネーデルランドの傀儡。ハッキリ言えば植民地である。元ネーデルランド東インド会社の本拠だったのだ。だがネーデルランドがフランスに敗れた事で何だかんだ日本南洋府に編入されてる。

 海底伝送路(ケーブル)があった事から余りの伝達速度にフランスが一切の介入が出来なかった電撃的な編入。


 そこにグレート・ブリテンの船が入り込んで来た。フリート・ウッド・ブロウトン・レイノルズ・ペリュー。血気盛んを絵に描いたような若者が乗り込んで来た。

 乗り込んで来たけど今はちょっとビクビクしてる。バンテン王国はアブル・マファキル・ムハンマド・アリウディン二世が王だ。だが王家はバンテン国民からあんまり好かれない感じだった。それはネーデルランド東インド会社の言いなりになった理由だからだ。当然だがネーデルランド東インド会社もバンテン国民は嫌いである。

 何とか穏当に統治する為に王家、会社、国民を守るという理由で割とガチで戦える軍隊と有能な政治能力を持つ指揮官を置いた。そんな能力を持つとされる人間を前にすればって言いたいけど割と別な理由である。船長フリート・ウッド・ペリューの耳にミシィって音が聞こえた。


「あ、あのぉ……。えっとぉ……ウチの海域でぇフランスと取引した船があってぇ……。そのぉ……フランス軍人が居ないか臨検させて貰いたくってぇ……」

「成る程」


 頷いたのは内藤家の分家の一つ北奥氷室内藤家の三男である氷室大鹿三郎恕高である。年齢は三十手前と割と若いが内藤家としても大柄で身長二二二線智(222㌢)にして体重百五十阡具(150㌕)の体脂肪率一割(10%)の体躯。好物の胡桃を指二本で摘んで砕きながら食べていた。

 おやつの時間に唐突に入って来た客人に手で着席を促し砕けた殻を払って手を組む。従者に紅茶を出させてから。


「それは立ち会いの元であれば構いません。グレート・ブリテンの駐在官殿も呼びますので少々お待ち頂こう。しかし此の海の定書は御存知の筈ですが何故?」

「そのー、ネーデルランド船。ポンディシェリから追ってきたのです。正直に言えば南洋に入るまでに沈めようとしたのですが熱が入る余り申し訳ありません」

「謝罪を受け取ります。ウェズリー公爵への通達とそれなりの事はして頂きますが。で、なければ南洋府が崩れかねないので。そこは御理解いただく」

「その。……いえ、はい」

「さて、困った。アルティング殿とも話さねばならないな」


 ウィレム・アルノト・アルティングは元ネーデルランド東インド会社から総督になった男である。現在はバタヴィア(ジャカルタ)のネーデルランド人居住地の行政や守備などを担っていた。本国への上納金払わんでエエやんって本国もといナポレオンの要請ガン無視してた。

 まぁメチャクチャにバンテン国との関係は激ヤバい感じだけど。だからこそ日本織田幕府とは連携を密にしていた。墓場と呼ばれる程に酷い疫病もあって気持ちは国に帰りたいが状況が状況だからそーなる。


「フランス軍人の引き渡は妥協して頂く形で今回のことは罰金で済ますという形か、罰則の上で捕虜を差し渡すと言う形か。

 日本としては前者が好ましいですが件のジャガタラ(ジャカルタ)の商人は何にせよ此の海の掟破りを為したので打首の上で晒し首という形をもって当たります。

 其方に不都合がなければ、これを以て交戦状態での港侵入、騒乱持ち込みの掟破りの決着としたい」


 インド総督ミントー男爵ギルバート・エリオット=マーレイ=キニンマウンドは頷いた。日本の晒し首はグレート・ブリテンに於ける大逆罪に相当する。グレート・ブリテンでは引き摺り回して首吊って首切って四つ裂く感じだった。

 何処も似たような事やってるポピュラーな刑罰だが日本は変容しており不衛生なので瓶詰めされてる。


「では引き渡しは不要です。文書で宜しいでしょうか」

「はい。あ、そうだ。商人の首のお持ち帰りは必要でしょうか?」

「いえ、対処はしてくださったので其方は無用です。全く最初を間違えなかった統治は羨ましい物だ。ベンガルの安定などは実直に言って羨ましい」

「お褒めに預かり光栄です総督殿」


 後に言うフェートン号事件を契機に清朝と関係の深い阮朝(ベトナム)を除いて南洋一帯(東南アジア)は完全に日本南洋府の勢力下になった。南洋は加盟条約的なスタンスが薄れて統治機構的色が強くなり連邦的な物になって行く端緒となる。

 ただ此れを契機に他国にとって真っ当な交易をしていた華僑が消えていった。元から欧州各国や日本の商売敵として相対していた上に海洋の安定化によって各国が各国の手で貿易を始めた為である。海賊はバカ増えたが出た側から吹き飛ばされる事になった。

 この華僑流出を特に促進したのは南洋府連邦所属各国への日本からの技術および情報を供与条件である。普通に防諜的な意味で仮想敵の清朝関係と関わりの深さで判断した事が大きい。結果として清朝との交易の大半をグレート・ブリテンや欧州の貿易会社が独占する事になる。




 フランスに対して五回目、ナポレオンに対しては三回目になる包囲網。第五次大仏大同盟にてオーストリア帝国は先手を打ちフランス帝国を攻撃し撃退された。このエックミュールの戦いでナポレオンとダヴーを相手に最低限の損害で済ませた男がいる。


 オーストリア帝国皇帝の弟にして軍務大臣兼帝国軍総帥カール・フォン・エスターライヒ=テシュン。


 通称カール大公である。


 エックミュールの戦いの後のラティスボンの戦いでも船橋を用いて撤退。しかし位置関係的に帝都ウィーンを明け渡す事になりナポレオンに落とされた。帝都は落ちたが両軍は互いの軍の殲滅を狙い戦いは終わらない、


「……だから私は言った。まだナポレオンには勝てないと。こうなっては軍勢を残さねばオーストリアは何をされても何も出来ない」


 カール大公は四十手前の男だが歳の割には渋味のある顔付き、それは正に厳格を絵に描いたようである。

 そんな彼にしては珍しく感情的な言葉を感情的な顔で吐露した。


「オーストリア全てを蹂躙される……!!」


 例えば文化、例えば歴史、例えば習慣、例えば信仰、例えば生活、例えば財産、例えば生命、例えば尊厳。今のオーストリア帝国は軍事力と言う札が無ければ全てをフランス帝国と言うバケモノに蹂躙される状況だった。

 何せフランス帝国の目の前にあるのは無くても良い大義名分を差し出した無力な獣で、獣が牙と爪を失い家畜となったのなら、後は美味しく食べて骨の髄までしゃぶり尽くす物である。

 無知蒙昧な民衆が国王を殺し、無恥強欲な資産家と軍事力を持った将軍が幅を利かせ、そこから生まれたナポレオンと言う皇帝を名乗る未知の怪物にオーストリアは喰われかかっていた。


「この地だ。この渡河を前提とした様な二つの村を敢えて放棄する。そうすれば敵は私達を侮っている上、常道だからこそ踏み込むだろう。これで凡将でさえ選ぶ渡河地点に敵を引き摺り込む」


 伸ばした乙の字の様に流れる広大なドナウ川は幾つもの中洲があるが、その巨大さから島とまで呼ばれる中洲があった。そのロバウ島の北部にはアスペルンとエスリンクという二つの村があり、渡河地点の防御拠点とするにうってつけの地勢だ。


「此の村二つをくれてやるのだ」


 二度言えば諸将は衝撃を覚えた。カール大公は戦闘において拠点という物を重視する。だが同時に納得もした。


「確かにそこまですれば敵は渡河しない選択を捨てるでしょうな」


 諸将の中で整然と撤退をして見せた一人で第六軍団長ヨハン・フォン・ヒラー男爵が肯定した。第一軍団長のハインリッヒ・フォン・ベルガルデ伯爵も頷く。全軍も承知の事となったのを確認してカール大公は最後に。


「それとだ。一手、まぁ当然の事をする。準備を頼む」


 こうしてオーストリア帝国軍は敵を待つ選択を取りフランス帝国ナポレオンの軍を待つ。


「油でぇ揚げた!! 玉ねぎが好きさ!! 美味いぞー玉ねぎ、揚げてるー玉ねぎ!!

 油でぇ揚げた!! 玉ねぎが好きさ!! 美味いぞー玉ねぎ、揚げてるー玉ねぎ!!

 さぁ進めよ、さ進めよ、戦友よ!!

 さぁ進めよ、さ進めよ、戦友よ!!


 油でぇ揚げた!! 玉ねぎが一つ!! 玉ねぎのぉ一つで!! 獅子にも、成れるぞ!!

 油でぇ揚げた!! 玉ねぎが一つ!! 玉ねぎのぉ一つで!! 獅子にも、成れるぞ!!

 さぁ進めよ、さ進めよ、戦友よ!!

 さぁ進めよ、さ進めよ、戦友よ!!


 オストリの奴に!! やらぬぞー玉ねぎ!!

 犬にくれてやる!! 玉ねぎ、無いのだ!!

 オストリの奴に!! やらぬぞー玉ねぎ!!

 犬にくれてやる!! 玉ねぎ、無いのだ!!

 さぁ進めよ、さ進めよ、戦友よ!!

 さぁ進めよ、さ進めよ、戦友よ!!


 油でぇ揚ーげた!! 玉ねぎを愛せ!!

 美味なる玉ねぎ!! 愛して、食べよう!!

 油でぇ揚ーげた!! 玉ねぎを愛せ!!

 美味なる玉ねぎ!! 愛して、食べよう!!

 さぁ進めよ、さ進めよ、戦友よ!!

 さぁ進めよ、さ進めよ、戦友よ!!」


 ドナウ川南岸からロバウ島へ、そしてロバウ島からドナウ川北岸へかけられた浮橋。それを迅速に渡ったフランス軍兵士の歌。それが聞こえたカール大公は納得と呆れを混ぜて少し笑っていた。


「フランス兵は随分と品の無い歌を歌う。犬とは言ってくれた物だ。だがその怒りは寧ろ助かったな」


 はっきり言って今回の悪役はオーストリア側である。宣戦布告も無しに殴りかかったのだから当然だ。まぁそれだけフランス帝国が周辺国を追い込んだとも言えるだろう。

 だが兵士や国民からしたらンなの知ったこっちゃ無い。国として殴って来たんならブッ殺すってだけだと理解出来る。

 フランス帝国軍は即座にアスペルンとエスリンクを確保して渡河地点を確保。二村を柱に兵の壁を並べて南から来る味方の渡河地点を守った。


「合図を。浮き橋を壊せ。さて、動くかな」


 カール大公の望遠鏡の先はアスペルン。フランス軍より厚みのある戦列が進む。ヒラー第六軍、ベルガルデ第一軍、ホーエンツォレルン第二軍が攻勢をかけた。

 そして望遠鏡を真逆のエスリンクへ。ローゼンベルク第四軍団が向かっている。


 攻防が始まりアスペルンを攻撃中の味方側面へフランス帝国軍騎兵が突撃する。だがオーストリア帝国軍は砲には弱いが騎兵突撃には強い。凡そ正方形の様な方円陣形を保ってフランス帝国騎馬兵の突撃を跳ね返した。


「前線に出る。ホーエンツォレルン第二軍の元へだ。攻勢に出るぞ!!」


 騎兵の手が消えた事を確認して大公自らが前に出てくる。前線は弾丸と銃弾が飛び交いフランス帝国軍もオーストリア帝国軍も次々と倒れていく。そんな中に身を晒してでも兵達を激励し肩を叩き鼓舞しながら前へ。


「進め!! 前に!!」


 そして遂にアスペルン村を奪取。


「備えろ!! 直ぐにナポレオンは奪い返しにくる!!」


 そのカール大公の言葉通り。激しい攻防が即座に展開され、ほんの僅かにだが敵の勢いが落ち、そして死屍累々の影が伸びて夜になった。


 オーストリア帝国軍とフランス帝国軍はアスペルン村にてお隣さんとして眠りに着く。だが此の闇夜の時間を用いてフランス帝国軍は出来うる限りの砲と兵を渡河させる。


「そろそろだな。もう一度だ。合図を」


 そうしてフランス帝国軍は前線から離れる際のカール大公の命令によって真夜中にもう一回橋を壊わされた。


 フランス帝国軍の工兵はキレていい。だがそれでもフランス帝国軍は明朝には戦闘を開始しカール大公は戦場を見る。


「……ダヴーと分断しても来るか。侮られた物だ。アスペルンは、落ちるか」


 カール大公は逡巡。


「中央に大砲を配置させろ。拠点が騎兵の側面を守る。胸甲騎兵が来るぞ。此方も擲弾兵の準備だ。それと合図を」


 そうしてアスペルンは落ち両拠点はフランス帝国軍の手に落ちた。それと共にフランス帝国軍の胸甲騎兵が中央突破を計る。

 壮麗な装飾、勇壮な騎兵がサーベルを掲げて突っ込んで来たのだ。そこに落ちるのは炸裂する榴弾と擲弾。

 事前に用意された大砲の猛射と擲弾兵の攻撃で防いだ。


「囲んだな」


 戦場を見てカール大公は負けは無くなった事を確信する。拠点は敵の手にあるがしかし包囲の形。更に浮き橋は数時間ぶり三度目の破壊。


 フランス帝国軍工兵はキレながら直す。


 フランス帝国軍はダヴーとの合流もそうだが弾薬が不足し始める。そして遂にアスペルンがまたオーストリア帝国の元へ戻った。そしてエックミュールも落ちる。


「……このまま押せれば理想だが」


 激戦だ。体力と物資。その双方が酷く消えていく。当然それ相応の失血を強いてはいる。だがフランス帝国軍の頑強さは異常。


 カール大公が小さくギリ……と歯を食いしばった。


 フランス帝国軍の騎兵による中央攻撃。同時に始まる撤退。ナポレオンに撤退を決意させたのだ。


 即ちナポレオンを逃した。


 だが、次善が在る。


「フランス帝国軍を出来うる限り削れ!!」


 オーストリア帝国軍の出来うる限りの猛攻撃が始まった。今回のアスペルン・エルリンクの戦い。兵数的な損害はオーストリアの方が大きかった。

 だがこの一連の戦いでフランスを撤退に追い込みフランス帝国の勇猛な騎兵指揮官ジャン=ルイ=ブリジット・エスパーニュや優れた指揮官であるサンティレール伯ルイ・ヴァンサン・ジョゼフ・ル・ブロンド。


 そして何よりも、だ。


 ジャン・ランヌ。モンテベッロ公爵、シェビエス公爵、フランス元帥、極めて勇猛で有能な将軍、皇帝ナポレオンの16年来の戦友、無二の親友。


 そうフランス帝国軍元帥を欧州で初めて討ち取り、ナポレオンの指揮するフランス帝国軍を初めて敗北させる快挙、これを常道に常道を重ねてカール大公は手にした。


 ナポレオンと言う男が皇帝となって戦い続けた凡そ5年近く。それだけの期間不敗を続けた怪物へ遂に敗北を教えたのだ。しかし、そんな勝利を得たカール大公の顔は喜び一色では無い。


「直ぐに奴等は来る。宮廷は抑えられん。仕方がない、か……」


 この後にカール大公は仇討ちと汚名をそそぐ為に襲来したフランス帝国軍と戦う。このヴァグラムの戦いで激戦の末にダヴーの猛烈な突撃を発端に敗北。スノイモの戦いでも何とか対抗したがカール太公は独断でナポレオンと講和。


 オーストリア帝国は領土割譲と莫大な賠償を払い大陸封鎖令を受け入れた。




「またヌエバ・エスパーニャで反乱?」


 凄いイヤそうな顔で吉備国司内藤忠連が言った。場所はルイジアナ王国で25歳になったルイ1世の結婚式の最中の事。出来れば祝いの席では聞きたく無かった事である。


 しかも今回の結婚は反ナポレオン的な同盟結束を理由にしてグレート・ブリテン国王のジョージ3世末女アミーリア・ソフィア・エレノア・オブ・ザ・ユナイテッド・キングダムが態々カトリックに改宗して嫁いでた。


 もう宗教的な問題とかマジで大変で皇室や将軍の姫さんをと言う話もあったし、ルイジアナ王ルイ1世も乗り気だったのだ。しかしグレート・ブリテンやルイ1世の叔父プロヴァンス伯爵の要望、またルイジアナ王国貴族の貴族院や国民の庶民院の要望、色々と重なった結果として今回の事だった。

 特に欧州各国的には意訳すると「あのグレート・ブリテンが極東の未知の国の麾下に入ったブルボン家に妃を出すとかマジか?!」的な感じで見られる事態である。


 ブルボン家と繋がる事でグレート・ブリテンがルイジアナ王位に関わる事が出来、大陸封鎖令の意趣返しとルイジアナ延いては日本に恩を売れ、急速発展するルイジアナや日本との技術交流の理由が出来るからだ。


 あとイングランド的にはもう日本を一国で相手すんの疲れた。ちょうどヤベーヤツの極みなナポレオンおるし婚姻の場で共通の敵を倒す強力な味方として日本を紹介し。日本と交渉する味方兼ねた盾に出来そうな国を集める事にしたのだ。


 要は反ナポレオンの国は大体が集められてる感じ。流石に王族は居ないが重臣が祝いの使者としてルイジアナに集まってる感じ。マジ真面目なプロイセンさえ使者がいる。


「蓬莱は警戒網を強めているよな帯刀」


 報告をした内藤家筆頭執政家である賀島家の帯刀勝長は頷く。


「勿論で御座います。海上も既に」


 ヌエバ・エスパーニャはスペインの領土であるが日本との関係が深い。あるあるであるが本国と植民地、厳密に言えば副王領、分かりやすく言えば海外領土は険悪になりやすい為にヌエバ・エスパーニャにとっては本国より何故か隣国の日本の特に蓬莱府との方が関係が良かった。これは仕込んだとか謀略じゃなく普通に交易による関係維持、また境界線を自然環境的に通り難い山や川で分断し、場所によっては大規模な長城を作って住み分けしていたおかげだ。

 更にナポレオンの兄がスペイン国王になった事でヌエバ・エスパーニャの心は本国より更に離れており独立に対する渇望があった。ヌエバ・エスパーニャ植民地政府は独立に反対だが地元民は独立に色々と希望を見出してたのである。


「蓬莱には援助がいるかもしれんな。悪意を持っていないのは嬉しいが妙な期待を持たれても困る。唯でさえ今は政治の転換で忙しい」

「……少々、性急では御座いませんか。事実ヌエバ・エスパーニャが親近感を覚えてもおかしくない」

「同感だが、しかしな。もう正直言ってメドイんだ。あと個人的に商売とか研究とか芸夢(ゲーム)したい。

 本気の本音はともかく日本という範囲が広すぎて機能不全を起こしかけてるぞ。南洋府はともかく他の府は他の府で物事を決めるべきだろう。

 どのみち他の府の権限の強化や効率化は必要だったんだ。であれば制度疲労を理由に多少の苦痛は仕方ない。そう、諦めて貰う方が互いに得だろう」

「しかながら民に政が分かりますか? と、言うより唯の人気取りになるのでは……」

「だから少しずつ、だ。民には何度か必要情報を開示した上で政策を選ばせてきた。国民が政策を選び、そして政治家を選ぶ、その素養は十二分だろう。織田幕府が機能不全を起こし崩れる前に必要な事。その一歩目だ。

 一歩目を躓かん様に政治家になるには日本人で政治学職業学校の卒業を必要とした。万一の場合は主上と大樹が動くし妙な事にはならんだろう」


 日本はフランス革命の勃発により上からゆっくりと民主化が始まった。まず初めに既存通りの評定を行い政策が対立した場合に国民に目安箱を設置して選ばせる。また同時に政治的な能力の有無を職業学校で選別し政治家の養成をしていた。


 目指す場所は万一の日本として動くべき時は天皇や将軍が出てきて一塊として動く形を残している。だが幕府太宰府を政府に変え日本全体は連合政府という形を取り、連合政府は外交と軍事と言う外政を基本的な職掌として八政府は基本的に地域にあった内政の管轄を行う形だ。んでベンガル府や南洋府およびルイジアナ王国とホデノショニ(イコロイ)連邦はどうなるか不明だが独立させた方が良くねーかなって感じ。また統治しやすい様に国を統合分離し県として政府の下に置く予定。


 一先ずは日本府で段階的に国司藩主が軍事力と領地を返上し、軍事力の維持費から解放されていた。人口増加や政治介入の必要な事柄の増大によって国司や藩主と言う範囲での行政では対応に大分無理が出てたのだ。特にバカ平和な日本府内で宿老の中で最も大きな独自裁量を持っていたが故に軍事費で苦しんでた毛利家とかの宿老家。

 まぁとは言えそう言った特例以外は大体が織田幕府代官になってるから、そのまま政治職業学校卒業者に移管する形だけど。


 ともかく幕府から政府へと言う印象づけの為に将軍は大君となる。そして文民統制の名の下に文の象徴としての天皇と武の象徴としての将軍という形を取り大政奉還。そう言う道筋を立ててゆっくり変わっていこうとしていたのである。


 言うて幕府時点で政治家は確かに武家が多かったけど既に庶民出身の者も居たし和人、紋人、羽人、橇人も差異あんま分からんくらいには結構血が混ざってたけど。

 何なら和人、紋人、羽人、橇人も武家化してバチボコ政治回してんだから政治家としても無問題だったけど。

 ともかく取り敢えず作った憲法の一文に日本に住んでて日本語喋って日本の法を守って義務を果たしてんなら和紋羽橇は万世一系の民じゃ文句あっかボケ的なこと書いた。


 一番の問題は意外と政治家に成りたがる者が少なく民衆が「選挙とかダル……幕府に頑張って貰えばよくない?」と織田幕府の統治に不満が無さすぎて投票数が芳しくない事だ。いやどっちも選びたくねぇとか、せめてマイナスが少ない方に見たいな考えじゃないだけ凄くいいけど。


 ともかく日本は天皇と大君を象徴とした立憲君主制民主主義国家とか言う代物へゆっくりと変わろうとしていた。


「ですが自分が選び挙げる事でフランス革命の様になるのかも知れないと恐る者は多いです」

「……それなぁ。フランスの混乱の二の舞にならん様に情報を開示し過ぎたか。だが、変わらぬままと言う訳にもいかんだろ」

「それは本当にそうです」

「まぁゆっくりだ。一歩ずつやっていこう。今はシャルル君……ルイ陛下を祝わう時だ」


 そうして花嫁が登場して老齢の緑内障手術とリウマチ治療を受けたさる国のメチャクチャ偉い貴人()がゲボ吐きそうなくらい泣いてるのを横目に吉備国司内藤忠連は黙った。

 こう、国際的なアレの問題で国王本人が来てると言う事がバレるのが憚られたのだ。


「それはそれとして大丈夫です? ジョージ陛下。アユァオライ、ヤァマジェスティ?」

「デューク・キビ。アイム・ソぉハピー」


 後は泣き過ぎて何言ってんのか分かんなかったが末娘の結婚式を見れたのが嬉しかったらしい。


 一方その頃。


 内藤鉄三郎忠広が当時の蓬莱系日本人と交易路の攻防となった緑台渓谷の戦い。別名を蓬莱嫁取り合戦の結果、ユト語のコマンチから来たコマンチ族もといコマンチ衆が送った側室の子が別家を起こし収めたヌエバ・エスパーニャとの境界に当たる駒知国。


 別世界だとテキサスと呼ばれただろう駒知国の国司である駒知蛇三郎忠芳はスゲェイヤそうな顔してた。


「ヌエバ・エスパーニャ側の壁向こうに流民の山か……」


 大蓬莱川(リオ・グランデ)の周辺は大規模な農園だ。広い農場の先には混凝土(コンクリート)で出来た塗積みの石垣と電探(レーダー)櫓の壁、壕が掘られまた壁がありヌエバ・エスパーニャとの国境となっている。ヌエバ・エスパーニャ的に流民が出るのも日本的に流民が来るのが困るのでお互いに協力して作った国境だった。

 ヌエバ・エスパーニャが反抗的なインディアンを用意して壕を掘らせ、日本がバカみてぇな量の金と物を用意して壁を作った。要は日本は金と物と反乱分子の処理(蓬莱人受け入れ)を担当したのである。対価として大蓬莱川(リオ・グランデ)の周囲など含めて日本優位な位置を国境とした感じ。

 そこに何かメチャクチャな数の流民が集まっていたのである。別の世界線だとリオ・グランデから別れるコンチョス川からフロリド川の川筋が国境となっていて、そのまま境川と呼ばれる川のある射丑国や深谷国からも流民が居るという連絡があった。流石に尋常ならざる状況としか言えない。


「波進殿、イスパニア側は?」


 豊漁波進家の分家で駒知波進家の波進結乃介イラタバが首を振る。


「電信も無いからのぅ……」

「取り敢えず国境封鎖だな。これじゃあ商いもできんぞ全く」

「一体何があったのでしょうなぁ。あ、騎兵ですな」

「漸くか」


 この少し後にヌエバ・エスパーニャの独立を目指した運動や革命が起きスゲェ流民が集まる事になる。密入国者は全員送り返せる程度しか居なかったがヌエバ・エスパーニャやイスパニアとの交易が下火になった。


 何処もかしこもフランス革命を契機に変化を強要されていたという事だ。

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