あまりにも最高なコンビとアン女王曰く「ウッソだろオマエ(意訳)」
馬群が疾駆していた。小男が先頭で喘鳴を漏らしながら馬を走らせる。馬が死なないギリギリを攻めた、人が馬の負担を減らす為の動きでだ。
見た目は、ハッキリ言って宜しくない。纏う軍装は戦歴を感じされる馴染んだ物だ。しかしその面と言えば見目整った父母に似ず、パッとしないどころか何処か望洋とした、いや気の抜けた様な顔をしていた。
それに加えて何というか、粗野で粗雑な印象を受ける。
だが軍才は別。戦列で華麗にして神速の男である。ブレンハイム、ラミィ、トリノの戦いにおいてルイ14世の燦然と輝く名将達を薙ぎ倒して来た片割れだ。
尚、出生はフランスであり五男坊と言う立場故に軍人として身を立てようとしたが徴用されず、出奔した際にあるフランス貴族からは「あんなの居なくなった所で……w」的な事を言われてたが、フランスの敵国オーストリアに士官しマジで故国フランスをボッコボコにしてるリアルなろう系軍人である。
彼は汗まみれになりながら自身を追い詰め苦渋の決断をさせたベリック公ジャック・フィッツ=ジャメを出し抜いた確信を得て馬の速度は落とさずに一息。
「ベリック公、スペインじゃあ散々暴れたたぁ聞いてがやりやがる!! おかげ様で唯でさえ少ねぇ兵力だってのに騎兵だけで先行しなきゃならなくなったぜクソが!!!」
そんな名将が向かう先ではもう一人の名将が石に腰掛け項垂れていた。オーストリアと同盟関係のイングランド貴族であり洒脱を絵に描いたような男だ。だが今は完全に考える人なポーズで頭を抱えている。
「ブリュッヘが取られた……!! イングランドとの連絡路が、兵站が途切れ兵が動揺している。流石に困りました」
フランス軍の名将が一人築城の天才にして攻城の天才セバスティアン・ル・プレストル・ド・ヴォーバンの要塞群。そこから出て来たルイ14世渾身のフランス軍11万と相対していたイングランドの名将が吐く稀有な弱音だった。
その11万からなるフランス軍を率いるのはヴァンドーム公ルイ・ジョセフ・ド・ブルボン。オーストリアの名将の従弟にして一進一退の攻防を繰り広げた男であり内心は警戒はしていたのである。だが連勝続きで僅かばかりの驕りがあったと自省した。イングランドの名将は駆け引きを読み間違え最も取られてはいけないウィークポイントを取られたのだ。尤も名将の失策と言うより状況とフランスの手回しの巧妙さ故だが。
「ハァ〜……」
溜息を一つ屈めていた背を伸ばす。だが気は晴れない。そこに伝令が駆け込んできた。
「失礼します!!」
「如何しました?」
「東方より馬群が!!」
「旗は?」
「その、数が非常に少ないのですが同盟軍、かと」
イングランドの名将の憂いと空の薄雲が纏めて払われた。
「……流石です」
「は? 申し訳御座いません。今何と?」
「流石と言ったのです!! さぁ迎えに行きましょうか!! 戦友を!!
ああ、そうだ。誰か!! 軽く食べられる物を!! 彼と彼の率いる兵は私達と同じくらい動きますからね!!」
「は、はは!!」
洗練された洒脱な男が駆けて行けば遠くから先遣隊程の数の騎馬。
「おーい!!」
粗野で空惚けた小男も気付いたのか手を振り返す。イングランドの名将とオーストリアの名将が再開を果たした。
「オイゲン公!! よく来てくださった。神に感謝したい程に私は嬉しい」
「そりゃご機嫌だなァマールバラ公。俺も嬉しくて堪らんぜ。だが面目ねぇが兵はこれだけだ。
ベリック公の野郎が離れねぇんで悪いが騎馬だけで来たんだ。しかも野郎、七日、いや早けりゃ五日で追いつくぞ。そっちの方は如何だい?」
「敵は11万を集めたと聞きます。であれば出て来たのは八万から九万程でしょう。ブリュッヘを取られました」
「幾ら柄が多くても拠点が落ちるにゃ早すぎるな。って事たぁ……太陽王。相変わらず抜かりのねぇ男だ。クソッタレ。
敵の総大将はルイ・ジョセフのヤツか。相当上手くやらなきゃならねぇな」
「ですが此方には貴方がいる」
「ッハ!! 言ってくれるじゃねのミスター。それで言やぁアンタも居るぜ」
「フフフ。そうですね。その通りです。貴方と私が居て敗北など有り得ません。さ、食事にしましょう。忙しくなる」、その前に
「そいつぁ有難てぇ」
イングランドの名将マールバラ公ジョン・チャーチル。オーストリアの名将オイゲン公フランツ・フォン・ザヴォイエン=カリグナンが並び立って歩き出す。
二人が合流してからの戦いは先ず西方レシーヌと言う渡河地点の取り合いとなった。此処をフランス軍に取られるとアウデナールデと言う都市が孤立する。即座にマールバラ公とオイゲン公はレシーヌに移動、更に敵後方を遮断する為にアウデナールデへと向かった。
その報告が入るや否やレシーヌに向かっていたフランス軍を率いるヴァンドーム公ルイ・ジョセフ・ド・ブルボンはアウデナールデへと目標を変える。
防衛を考えれば渡河地点を押さえた方が有利だが次善策としてアウデナールデの攻撃を選択したのだ。イングランドの帰路に立ち塞がったフランス軍が逆に帰路を塞がれるなど笑えない話だった。
距離的にもフランス軍の方がアウデナールデに近く先に渡河地点を取られた場合の最善策と言える選択を取ったのである。
「アウデナールデに敵軍だと? 流石にそれは不可能だ。有り得んだろう」
先遣隊からの偵察情報を聞いてアウデナールデへと向かうフランス軍の総大将であるヴァンドーム公は言った。
フランスらしい流麗さよりも厳しく力強い印象を受ける。ガッチリした体型に不機嫌さも相まって極めて威圧的だ。そんな彼が怒りを抑えながらとは言え否定的な言葉を吐くのだから伝令も不憫である。
しかし王の孫のお守りをやらされていては当然の事。余計な所で慎重で余計な所で大胆な王族とかクソ邪魔だった。マジ邪魔だから神輿として大人しくしててくれって感じ。
「とは言え情報は大事だ。更に偵察を厚くしてくれたまえ。期待している」
ヴァンドーム公がそう言ったのに合わせたかの様に更に使いの者がきた。
「アウデナールデにて抗戦開始!!」
ヴァンドーム公の目が見開かれた。
「悪魔が奴等を運んできたに違いない!! そんな行軍は不可能だ!!!」
思わず絶叫した。凡そ八万の軍勢を昼夜兼行させた狂気の行軍は非常識の極みだ。それをやられれば当然の反応だった。だがヴァンドーム公は名将である。一瞬で気持ちを切り替え。
「全軍!! 急ぎアウデナールデへ向かう!! ブルゴーニュ公に急ぎ要衝を押さえる様に伝えよ!!」
アウデナールデはスヘルデ川西岸に有りマールバラ公は既にスヘルデ川東岸に居た。彼は船橋を渡りながら先遣隊と敵軍を見ている。
「カドガンとゲオルク殿は良くやってくれています。それにしても敵の中にカカシがいらっしゃる様ですね。ヴァンドーム公に同情致しますよ」
その高々一瞥と言って良いソレで凡その状況を察したマールバラ公は上機嫌に言った。オイゲン公と言う盟友と共に戦う己と比べて完全な御荷物を抱えて戦うヴァンドーム公に憐憫を感じてさえいる。まぁそれ以上に「っしゃオラァぶっ殺してやんよ!!」ってなってるが故に。
「皆、急いで下さい!! カドガンの奮戦を無駄にしてはいけません!!」
「先行くぜマールバラ公!!」
「お願いしますオイゲン公!!」
マールバラ公のすぐ後ろにいたオイゲン公がもう一つの船橋を使い、騎兵の機動力を生かして抜けていく。直ぐにヴァンドーム公の軍勢の方へ突っ込んで行き騎兵で戦える地形ではない為に一当てしてから牽制を始めた。
敵も味方も続々と軍勢が集まっていき側面攻撃を狙い南西に向かって、即ち左翼方面に戦列がグングン伸びていく。
「……オイゲン公」
「如何したよマールバラ公。俺達の仲だろ」
「この右翼をお願いしたい」
ヴァンドーム公の軍勢を相手取っていた右翼は疲労が顕著となっていた。またカカシとは言え敵の碌に戦っていないブルゴーニュ公の軍勢も残っている様な死んで当然の状況だ。だがオイゲン公はケラケラ笑い嬉々とした愉快な思いを抑えられず。
「ッハ!! ッハッハッハァッ!! 全く、全く!!!
アンタって人ぁよお! ……本当に、随分と買ってくれるじゃねぇのマールバラ公。あの太陽王なんて呼ばれる野郎よりよっぽど良いぜアンタ!!
だから、そう。その期待に応えて見せるさ」
「感謝しますオイゲン公」
異国の名将二人。ただし最強。
普通は、だ。自国の将同士であっても指揮権を途中で移譲するなど無い。あるとすれば戦死した時だけだ。どころか二人は同盟国とは言え所属する国の違う将軍だ。
だが、これ以上ない正解だった。
「では、此処は任せましたオイゲン公」
「ああ。アッチは頼むぜマールバラ公」
此処からは激動だった。疲弊した軍勢を巧みに操りヴァンドーム公の軍勢をオイゲン公が押し留め、マールバラ公が続々とやってくる軍勢を適切に割り振る。戦線が崩れかける時もあったが未来を先読みした様にマールバラ公が援軍を送りオイゲン公が防ぎ切る。
そして同盟軍側。マールバラ公とオイゲン公が待ち望んだネーデルランド軍が川を渡って到着した。それを率いていたアウウェルケルク卿に下されたマールバラ公の指示は驚愕するものだった。
「この状況で側背を付けと言うのか!!」
普通の将軍であれば直ぐ様に前線へ来いとめいれいするような命令する様な場面。その状況下にあって、西方にある小高い丘陵を隠れ蓑にし合図と共にヴァンドーム公の軍勢、即ちフランスの主力へ奇襲をかけろと言う。豪胆などと言う言葉では現せられない命令だった。
「熟く傑物だな。この状況を保たせるオイゲン公も、彼に信を置き此の選択をするマールバラ公も。ああ、良いだろう」
感嘆を吐露してアウウェルケルク卿は即座に機動を開始。そしてマールバラ公の合図と共に奇襲を敢行。ヴァンドーム公は対応したがそれ以上は何も出来なかった。
カカシが最後までカカシであったとは言え時間的不利と兵数的不利と状況的不利を信頼と才能で打ち破って見せたのだ。
これは太陽王ルイ14世に和平を考えさせる端緒となりリール包囲戦を経て交渉が開始された。
「……え、ウチが仲介を?」
「ええ。ジャポンにお願いしたいと陛下は御考えです」
「頼って頂けるのは嬉しいんですが、そのぉ、ちょっと立て込んでましてぇ。……と言うのも——」
スペイン継承戦争と連動して起こったアン女王戦争と言うのがある。この戦いはルイジアナが日本の出島という形になったので南部では大した事は無い。だが北部ではバチバチにやり合ってた。
大別してフランスとイングランドの戦争である。
日本にとっての問題はホデノショニ連邦という日本では蓬莱人や天佑人と呼ばれ、欧州ではインディアンと呼ばれる新大陸先住民の連邦だ。
此処は非常にややこしい事になっていた。と言うのもイングランドとの盟約で日本領、フランスとの盟約でも日本領、だが完全に日本統治下に無い状況だったのである。
日本も災害と復興や開発があったので独自性を尊重すると言う事で、国家として認める通達だけ行い手を付けなかった。
だがアン女王戦争においてフランスとイングランドの戦いにホデノショニ連邦が協力。しかも連邦という様に複数部族が集まった物だったのでイングランドとフランスの双方に別れて戦った事から「なんか御宅から攻撃されたんですけど? どういう事?」って言われたのである。
日本側はバチクソ吃驚して両国に確認したところ「御宅の領土のインディアンだし普通に日本の義勇兵かと思った」等と言われ、マジで「え?」「え?」ってやり取りをする羽目になった。そして日本側は統治が及んでいない事とホデノショニ連邦を国家として認証している事を詫びと共に通達したのだ。これは事実であったし外交上の誠意だったが、だからこそマジのガチでやらかしとなった。
ホデノショニ連邦内でイングランド派とフランス派に別れて争い出したのである。早い話がホデノショニ連邦が紛争地帯となったのだ。
また日本は先住民を普通に国民として遇していたが未だ近隣は日本との一体化し切っておらず、ホデノショニ連邦と強い関わりがあった為に内乱の状況と連動して日本の山東府と奥東府も騒乱が起こりそうな感じになっていた。
この山東府と奥東府に加えホデノショニ連邦の収拾を付けるのに労力を割いていたのである。
「……と、言う訳でして。恥ずかしながら自国に波及させないのが精一杯な有様です。一応、停戦の呼び掛けは出来ますが」
「うむ。それは仕方ありませんな」
「御理解いただき感謝いたします」
「そうだ。で、あれば鉄砲の融通をして頂けませんか」
「え? うーん……であればルイジアナの事も有りますので働きかけてみます」
あとこんな感じで無自覚死の商人やっちゃってた。何がひどいって此の世界線だと新大陸の軍事兵器の質と量は欧州に匹敵しているのだが、新大陸の各所が猟銃として火縄銃を欲して日本という入手先があったが為に起きた悲劇である。お互いに火力が高過ぎて地獄絵図とかしたのだ。
後に俗称だがバトル・オブ・クイーン・アンズ・クリンジ。アン女王ドン引き戦争と呼ばれる事になった。




