最悪の始まり
災害の話です。時勢的に投稿しようか迷ったんですが地味に必要そうなので載せました。申し訳ありませんが辛い人は読むのを控えてください。飛ばした場合は下書きに如何変わったかを書いておきます。
尚、読めなかった人用に書けた分が多少あるので、今日は同時刻二話更新します。ご注意ください。
蓬莱と北奥の境にある蓬莱希ヶ浜藩は内藤長忠の船団が長い航海の果てに発見した事から名付けられた。上陸して人の影が無かった為に南下したが蓬莱で日本人が最初に発見し上陸した地である。希ヶ浜城が建つのは世界線が違えばシアトルと呼ばれていた地だ。
「む」
蓬莱希ヶ浜藩藩主。久々に戌刻半頃にベットと言うべき寝具の西欧床へ入り込んだ蓬莱内藤家の内藤太郎左衛門忠高はバチリと目を見開いた。飛び起きればそこに居たのは大鬼。
全身から戦意に似た気炎を発した男。即座に走り出し電信室に入った。
希ヶ浜城下町に、大浜国に、蓬莱に、日本に警報が響く。
直後。
震。
「おのれェ……!!」
内藤太郎左衛門忠高は即座に机の下に窮屈そうに入り込んだ。家屋も、高炉も、鉄道も全てが揺れ崩れていくだろう。そう思える程に世界が物理的に震えていた。
余震があった為に備えていたが想定以上の鳴動と衝撃が襲う。世界そのものが崩れんばかり。
不幸中の幸いとも言い難いが内藤太郎左衛門忠高の即決のおかげで死人は想定以上に少なかった。だが港湾や工業設備に加え有りとあらゆる物が倒壊する事になる。
だが、問題は範囲。蓬莱だけで済まない大規模な被害が起きた。
日本は大阪城の評定。将軍の傍に内藤鉄船斎敏忠が立っていた。齢は70も半ばだ。髪は染めても居ないのに真っ黒で顔にはハリがあり隆々とした体躯。40代と言われたほうが納得出来る隠居人だ。
「早急に尾張型戦艦三隻に食料医薬品を積み込み各地へ駐屯、以て以降は通信所として用いるべきと心得ます。特に二番艦備前は蓬莱への航行に際して嵐を突破した船。どうか被災地へ行けと御下命を頂けませぬか」
将軍織田信隆が目を見開いた。尾張型戦艦は凡そ大和型戦艦と考えてもらえれば良い。もちろん細々と差異はあるが。
ともかく織田信隆は酷く言い難い事を言わざるおえない。自分以外に止められる者が居ないのは分かっていた。
「鉄船斎様。確かに戦艦であれば大波とて進めましょう。しかし此度の波は尋常ではありません。
心苦しいが木乃伊取が木乃伊になりかねぬ状況。まして電信も電話も通じないとなれば……」
「それ故に御座います。しかし、この老骨には勝松の快癒し憂いはございません。それよりも勝松の様な子を僅かとて減らさねばならぬと心得ております」
蓬莱から大規模地震の通信があった。この直後に日本の各所が対応を開始したが日本府の太平洋側の数カ所との通信が途切れたのである。最後の通信は黒い壁が迫ってくるだった。
家屋の倒壊、船舶の沈没。そう言う被害なら如何とでもなる。だが人の死は如何しようもない。
陸奥国は織田幕府の遠征の後に律令国から取って石城国、陸前国、陸中国、陸奥国の四国へと分割された。その中で陸中国からの通信は途絶したままである。
また陸中国は代官ではなく毛利家などと同じで宿老に近い扱いだった。織田幕府の配下ではあるが領地の運営に付いて織田幕府から基本的には一任されていたのだ。その為に資本の集中が難しい為に、如何しても織田幕府領程のインフラは無く、当然だが防災設備も及ばなかったのだ。
何よりタチの悪い事に季節は冬。遡及な手立てが必要だった。
「蓬莱や北奥にも救援は必要です。今使わずいつ使いましょう。この鉄船斎に御命じください」
尾張型戦艦は十二隻ある。日本に三隻、赤嶺に六隻、蓬莱に三隻だ。東南アジアと南アメリカへ備えた過剰防衛戦力。
「鉄船斎様にお任せ致します」
荒波の中から三隻の戦艦が現れ大阪城堺港曲輪に着岸する。波が激しいと物資の搬入は難しい。故に機を狙って通信機や医薬品に食料を積み込む。
だがそもそも軍艦であり運べるのは本当に最低限。今何より必要なのは頑強な船体と情報伝達能力。更に特筆して重要なのは沈まない事だった。
積めるだけ詰め込んで戦艦達が荒波を割って進み出す。
リアス式海岸。溺れ谷といえば如何言う地形かわかりやすいかもしれない。正に連なった谷が海水に溺れて出来た様な地だ。
平時は波穏やかで深さがあり、港としても漁場としても優れている。だが逆に陸路は高低差があり非常に不便な地形だ。
何より海が陸地に向かって、即ち港に向かって狭まり収束する為、津波被害が大規模化しやすい。
だから地獄だった。
家屋が薙ぎ倒されている。そこから先は何も無い。黒い黒い壁が海から迫り上がって全て尽くを攫っていってしまったから。
魚を恵み、品を運ぶ。そんな海が文字通りに何もかもを劫掠していったのだ。
予兆は無かった。地震どころか小揺るぎもせずに明朝の海は黒壁となって全てを飲み込んだ。ゴォォと言う音がして衝撃。幾度も、幾度も、迫って飲み込み引き摺り込んで、また繰り返す。最近導入された電信も飲み込まれて助けも呼べない。
絶望だけがあった。高所に逃げた生き残り達は心身が震える。寒空の下で雪の中。
海はまだ、酷く荒れている。
誰もが言い、誰もが思う。
「お終いだ……」
波は引いていた。
何も無い。
全て。
黒い海、黒い空、灰色の船。
「……船? ……アレは船か?」
見たことも無い巨大な船が現れた。鉄砲と言うより見た事はないが長大に過ぎる大筒を並べた鋼の城櫓の様な。撫で斬りされた港の残骸の沖合に船が錨を下ろす。
まだ波が高いと言うのに巨大な船から小舟が下された。そこには巨大な男が立っている船首で指示を出している様だ。ヒモの様な物を腕二つでクルクル巻いて絡まない様にか時折叩く様に海へ投げ入れて。
何の作業かは不明だが狙ったかの様に大波。
大男は消えていた。
小舟の上の人々が慌て始める。
「何てこった!! 鉄船斎様が!!」
「探しに行かねば!!」
「如何やって!!? この荒波だぞ!!」
「あ、あぁ」
「それに港を見ろ。荷下ろしは? 如何する? 我等だけでも陸に上がるべきか。それとも船で待つのか」
「鉄船斎様を残してそんな事が出来るか!!」
「だが雪の中だぞ……何人死ぬか……」
「波が治らんクソ!!」
「そも津波の離岸流などこの船さえ止まれん」
「だから危険だと申し上げたのに!!」
「音響機器が壊れたからって、あんな……」
喧々諤々と話している間に雲が晴れ海が穏やかになり出した。取り敢えず小舟を出して深度を確認して着岸させる事を決める。滑車台の故障などが確認され船員に物資を運び出させた。
船長以下は内藤鉄船斎を探すか如何かを話し合う。とは言っても彼等も荷物を下ろしを手伝いながらの事である。更に状況の通達や食事を作りつつだ。
「ん? アレなんだ?」
船員の一人が気づいた。遥か沖合から昔ながらの船が泊まれる用の浜へ向かう。巨大な魚影らしき物。
ザヴァ……と海面に何か出る。おそらくは頭だ。そのまま浜に上がっていく。まるで散歩のように港の戦艦が止まる波止場まで歩いて来て。
「鉄船斎、様?」
「うむ、泳いで参った。心配をかけたな」
「泳いで……」
「うむ、余りにも瓦礫が多いのう。この港は尾張級戦艦一隻が限度だろうな。救援の兵を送りその兵員輸送船を着岸させ治療の必要な被災民を収容くらいは出来るか。
後は関船ならば浜に挙げられるだろう。だが海底を浚う必要がある。伝達を急げ」
「水底を見て来たので?」
「いや、見てきたと言うか波に攫われて見えたからな。それとその際に瓦礫で腕を打っての。泳げそうな所を探したんじゃよ。で、荷下ろしは?」
「滑車台が壊れまして」
「なら手伝おう。子供達が震えておるわ。急がねばならん」
そう言うと内藤鉄船斎敏忠は荷上車を用いて運ぶ様な荷を担ぎ上げて運び始めた。周辺の村や港からも被災者達を集めたり集まったで三日三晩。
「被害を最小限にせねばな……」
悲しい事に被害は此処だけでは無かった。環太平洋の特に北部地域の全てに大規模な被害を齎したのだ。また内藤鉄船斎敏忠も無理が祟ってか内藤家の出身者としては若死してしまう。
だが災害は始まったばかりで非常に大規模な災害が幾度も襲う事になった。
これらの事から大災害によって織田幕府の形態諸共の大規模と言うかレベルを超えた改造が行われる事になる。
先ず被災地では大抵の独自運営をしていた家が完全に織田家の家臣化。言わば災害などの出費が嵩んだ故の破産であり織田家の直轄領への編入であった。
これは救済措置の類だったが、一定の自立性と独自裁量を持った領主が今回の事を端緒に完全な代官へと変貌していき、織田幕府の統制が非常に強まったのだ。
此の従来から繋がりの強かった領地と家の分離は、特に太平洋側で大きく進み防災設備やインフラの大規模更新の下地となった。特に顕著な物を言えば10目取の堤防設置とかから始まり、最終的には太平洋環状鉄道の敷設事業が始まる。あと鉄鋼業とかの設備もブッ壊れたから全部新しくしたった。
数十年後に慶長の頃の様な飛躍を得た事から寧ろテメェのおかげで更に反映してやったぞと|反骨心込め|中指突きつけ》て慶長大津波と呼ばれる事になる。
*普通は死にます。津波の時は海に近付かない様にしましょう。マジ死ぬから。
被災の対応の必要性から広範囲で日本織田幕府に権限と権力が集約された。




