だいたい拡張の終わり
コサックのクーバット・イワノフはロシア帝国の探索者である。十年ほど前に少数の同胞が毛皮を取りに来ていた近辺。そこに黄金の国と呼ばれるニホンのサムライと言う蛮族と争うようになった。
その為に毛皮の入手が難しくなたのだ。その為レナ川の南方にあるという巨大湖を先に抑える為の探索に出たのである。そして遂に彼はバイカル湖を発見するに至った。
「彼等は何と?」
クーバット・イワノフは一先ず話が一段落したと見て問うた。
相手の通訳と話していたツングース族の王モジュルがチラリと独特の座り方をするサムライが何時でも取れる位置に置いた刀を見てから。
「争いに来たので無ければコサックとて歓迎する、と」
その発言はクーバット・イワノフに対して向けられた「分かっているよな?」と言う眼差しと共に発された。冰海は 麗那川を発見する途中で日本が見つけた良質な漁場である。そのまま冰海国として材木や資源を求めて入植を始めていた。また周辺のブリヤト衆や北方蒙古と呼ばれる現地民との友好的な交易にも利用していた。
この地の幕府戦力的は千程であるがクーバット・イワノフの戦力は二百程。また日本側は鉄砲を基本装備としており、争えば先ず間違いなく死ねる兵数差だ。それらを理解しているクーバット・イワノフは溜息を堪えて。
「俺達は毛皮が欲しい。だから此処まで来た。争う積りは無い」
ロシアと日本が関わる始点となった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◆◆◆◆◆ーーーーーーーーーー◎◎◎ーー◆◆◆◆◆ ◎◎ーーー◎◎◎◎◎◎◎◎◎ー
◆◆◆◆◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
◆◆◆◆◆◆◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ー
◆◆◆◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ーーー◎◎ーー
◆◆◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎ーーーー◎◎ーー
◆〓◆◆◆◎◎◎◉◉◉◉ーーー◎◎ーーー
〓◆◆◆◆◆◉◉◉◉◉◉ーーーーーーーー
◆◆◆◆◆◆◆◉◉◉◉◉ーーーーーーーー
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◉◉ーーーーーーーーー
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◉◉ー◯◯ーーーーーー
◆◆◆◆◆◆◆◆◉◉ーー◯◯ーーーーーー
◆◆◆◆◆◆◆◆◆ーーー◯◯ーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◆その他・〓冰海
◎八寒・◉白地・◯樺太
「……何処もかしこもだな」
現将軍の織田信敏が溜息混じりに言う。西はムガル帝国、東はフランス、南は南氷が傾奇者達の冒険の終わりを告げた。一応は北奥東部や蓬莱川の上流とかがあるが、未知へ踏み込んでこそ傾奇と言う気風。それ故に最も未踏の地である北に傾奇者が増えた結果である。
「あーあ……私も冒険、したかったなぁ」
距離的な問題で国家としては既存発見地域の安定化と増強に舵を切る時期だ。織田家の打ち立てた大阪幕府は国境を接した国が出来たが為にそう言う段階に来ていた。実際に将軍どころか幕府と言う物さえも大きく形を変えている。
基本的にガチで隠居してる語隠居、将軍を補助する大御所、全てのトップ将軍、日本を統治をしつつ経験を積む若将軍、各地太宰府を回って探題家と呼ばれるようになった織田家の分家の元で経験と見聞を積む御世嗣。
将軍家と言う役職の形態自体を変える程の範囲を織田家は懐に入れていた。
「早く隠居したい……」
当然幕府組織も大きく変わった。日本幕府は当初、台湾、赤嶺、蓬莱、北奥この四太宰府を置いていたのだ。だが今では八寒、白地、樺太にも太宰府を新設。更に日本人街の設置を認めた乃至は要請してきた国の意図や状況から、半ば太宰府に近しい組織となりつつある|回漕株仲間《フワフワ東インド会社擬》と言う物まで出来ている。
おかげさまで身分統制とかガチの大爆笑っちゃう有様だ。各府の上層部こそ武士の独壇場と言うか他身分が武家に遠慮する有様だが、その上層部の傍に居る吏僚の半分は寺子屋の設置により町人や農民が中間として働いている。中にはその中間を経て名字帯刀を許され武士となる事さえある状況。軍人も既に規模の増加に合わせて見方によっては戦国の頃よりユルユルに兵として集めてる。
政も戦も身分秩序的にそれでええんか的な感じだが何せ統治する範囲が範囲。その凡そ全てで地元言語文化の記録から始まり、意思疎通が多少なり適えば物々交換が始まって、部族と仲良くなっていけば交易所として土地を譲られ、賊であったり敵が襲って来れば有効部族と共に一戦交えたり仲裁したり。
此処まで来ると身分的なアレコレは当然あるにせよ先住民も政府に必要なのだ。権威は大事だが、それはそれとして「身分? ハハワロス。働けよ」みてぇな有様だった。と言うか権威は朝廷に任せて他は武家に限らずこんな有様。
ソレもコレも友情努力勝利なノリを参考にした漫画を広めた内藤長忠って奴が悪い。一宿一飯の恩は返すのは当たり前だし、敵が味方になる展開って最高だ。傾奇者の必読本である環一大宝伝では特にそう。
だから地元の民族に世話になったら意地でも必要だろう物を持ってくるし、世話になった民族が襲われたら襲撃者ボコボコにするし、敵でも状況に依っては足並み揃えるし、足並み揃えて一緒に戦ったらだいたい戦友。
「せんなき事か……」
織田信敏は文机の引き出しから環一大宝伝の一巻を取り出す。
今では一般化されたが当時は珍しかったと言う麦藁で編まれた編笠を被った男が三国船の上で二人の男女の前で拳を突き上げ跳ねている。
この本に憧れたのだ。書いた本人は何故か申し訳なさげで昔を懐かしむ様な顔をしていたが。ある種の日本のバイブルである。
「国持大名に我は成る、か。将軍家の身には過ぎた夢であったな」
織田信敏はそう言って自嘲する。そして執務室をコッソリ抜け出して飛行場に向かう。普通に捕まって隠居まで出禁くらった。
戦車じゃ無い方のクロムウェル。イングランド護国卿の方のオリバー・クロムウェルは軍人としてなら迷わずに優れた男と言える。ただ政治的にはチャールズ一世を処刑しちゃったりした上に、実質的に彼一代で政権が終了した所為で絶妙に評価しづらい。少なくとも戦争を終わらせる事ができる手腕に関しては優れていた。
後にイングランド共和国の実質的な独裁者としての歩みを始める彼は重商主義者だ。重商主義者とはアホみてぇな言い方をすればお金いっぱい集めるんじゃ主義だ。後は輸出はいっぱいするけど輸入はしたく無い主義だろうか。
「多い」
オリバー・クロムウェルは青筋を浮かべて言った。その冷たいを通り越した目を向ける羊皮紙に列挙されるのは王室の使った費用の特に貿易内容。税の用いられた先を記す物。
ピューリタン革命やら清教徒革命と言われる民衆に王が裁判にて首を切られると言う、イングランド史における割とマジの大事件。その引金の一つとなったチャールズ1世の戦費の為の特別税を集めるムーブの確認だ。
王が「金集めるのにしゃーねーから議会開くぞ」ってして開いた議会に「増税とかふざけんなボケ! 外交とか汚職とかマジどうなってんねんコラァ! 特にオメーの側近(バッキンガム公)なんとかせいやコラァ!!」って言われて議会を解散した理由の
追求。
最終的に強制借上げに加えて様々な税制を定め掻き集めた金。それを何に使ったかが記された書類であった。
「鉄砲も木綿も絹も買い過ぎだ。イスパニアの美術品やマントヴァ公のコレクションを買うよりは良い……。必要性は分かるが、全く」
オリバー・クロムウェルの問題としたのは日本から買いまくってる品々だ。
鉄砲はイングランドの防衛には必要だ。三十年戦争の頃から軍の装備する鉄砲の割合は止まるところを知らない。自国軍に支給するのに自国で作る分だけでは到底賄えないのだ。
また木綿や絹は日本と交易をしている国以外へ高値で売れる。とは言え量が莫大過ぎて貿易赤字が過ぎる状況。
確かにイングランドは鉄鉱石に溢れ、優れた鉄の生産技術を持つ。しかしだからこそ建材から船に燃料まで凡そ国家の万物に用いる財。国力の根幹たる材木が枯渇し始めていた。
オリバー・クロムウェルからの視点で悪い意味で絶対王政的なテンションのリチャード1世が何処まで考えていたかは知らない。だがオリバー・クロムウェル本人としては森林保護の必要性が分かるのだ。だいたい自身とて国王軍と戦う為に船舶税にブチギレていた東インド会社関係者の協力を得て鉄砲や大砲を仕入れた。
だが物には限度というものがある。
「早急に対応が必要だな」
そしてふと気付く。机の上。
「……もう一枚あったのか」
ツーと視線を流し紙を机に叩きつけて。
「いや待て、おい!! ジャパンの芸術品買いすぎだろアノヤロウ!! エイコン・バシリカなんて出して何が殉教者だファック!!」
オリバー・クロムウェルは考える。日本との関係は重要だ。少なくとも材木を入手し割高でも鉄砲を揃えるまでは。無論、敵対は避けるべきであるが。
「木材に変わる産鉄の燃料があれば……。石炭が使えればなぁ。いや、今は目の前の反議会派との戦いに集中しなければ」
イングランド共和国はドーバー海峡の先にある各戦線からの引き上げと纏めるべき地への出征を開始する。それらの為にフランスおよび日本との新大陸の領地再定義を行った。双方の勘違いから空白となっていた地の領有権を譲ったのである。
この時のオリバー・クロムウェルは新大陸のピューリタンの同胞とイングランドの為に新大陸領を交易港にする構想を立てていた。




