東西色々
感想・ブクマ・ポイント・いいね有難う御座います。
暇つぶしに見てってくれたら幸いです。
渡航の多い蓬莱から日本への船団に限らないが日本の海上輸送は基本的に規模が大きい。これは幕府統括の下で幕府や国司が護衛船団を出し、幕府や国司及び商人が商船を同道させる物だからである。ただ今回の船団は幕府の下命により編成された特急の大規模移送船団だった。
運ぶのは先ず人、次に種子、更に蒸気牽引機である。そんな船に揺られて蓬莱に降り立った男が語る。
「蝦夷じゃ噴火が起きて陸奥が凶作。西国じゃあ牛疫が起きたかと思えば日照って旱魃の後の豪雨だ。そっからそこらじゅうで長雨、大雨、洪水、旱魃、霜、虫害。日本は何処も酷いもんだぜ。
鉄を集めるのに赤嶺に送る予定だったのが俺達の段になって行き先が蓬莱になったのよ。何でもイスパニアとポルトガルが分裂した所為で南方航路が危なくなりやっがたってな。だから吉備様が鉄が作れねぇなら最悪に備えて田畑を広げるべきだって蓬莱にな」
役人は何度も似た様な話を聞いたが愚痴でも言わねばやってられないだろうと慮りながら手続きを終えて。
「大変だったな。何処に行くんだい?」
「谷川国さ。これでも幕府代官でね。とは言っても折衝役だが」
「あらら、そりゃあ。上手くやってくれよ。イスパニアは怖ぇからな」
蓬莱西岸部は着実に発展していた。北奥は寒さ、赤嶺は水と言う問題がある。後者に関しては溜池や 大壁堤を建築しているが元より水も気温も適正な蓬莱は日本人がメチャクチャ増えていた。
先ず食糧的な話をすれば特に蓬莱東岸の谷川国とか顕著で凄い。棚田と長方形の水田が頭おかしいレベルで広がって食料自給率は驚異の350%だ。蒸気牽引機や牛の数が最早バカ。
次に文化的な話。無問題などと言う事はあり得ないが、日本人と蓬莱人がゆっくりと同化していた。この辺りの蓬莱人にはココペリと言う精霊信仰があるが日本人も個々縁様として同祖神的なノリで拝んでる。割と八百万の神って発想と近しい所があったのだ。
そんな訳で蟠りも比較的に薄く最近は特に農耕をしていた蓬莱人は稲作を始めたし、そうで無い蓬莱人も蚊帳付きの宿場や日本風建物に住まい服装など日本と凡そ同じ。
蓬莱の一番大きな問題はイスパニアとの関係だった。巷とまでは行かないが立場がそこそこある者の間でエウロペ見聞録と言う本が出回ったのである。早い話が三十年戦争中の西洋を見て回った日本人の記録。
端的な言い方をすればヨーロッパマジ怖ぇってなったのだ。
特に神聖ローマ帝国の状況を見て『村落百姓供、死せば幸甚の至、乱暴狼藉乱取り有れば幸いに候。雑兵絞首の上、木に吊る由、枝垂柳か干物の如く下り候。惨憺無情にして甚だ恐ろしき哉』と書いてたりした。雑に言えば百姓なんて死んだら幸いだし傭兵とか枝垂柳か干物みてぇに吊るされててメッチャ怖ぇって書いてあった。
そら鉄砲とか布とか買ってくれる御得意様だからアレだけどソレはソレ。マクデブルク程じゃ無いけどマジかよってなってた。
また。
「ああ。アステカみたいにはならないようにしないとな。商売の継続はする。不戦は守る。両方やらなくっちゃあならないってのが国境の辛い所だな」
一方でイスパニア側。
「また増えたの……ぉ?」
第七代エスカローナ公爵にしてヌエバ・エスパーニャ副王ディエゴ・ロペス・パチェコ・エスカローナは頭を抱えていた。
主に海賊の増加と日本の増強ぶりの所為だ。海賊は対応出来るが日本の増強っぷりはマジでドン引きしてた。ただでさえ酷い織物産業が潰されそうなのもキツい。
「冗談じゃあない……。もうハバ・カルフォルニアはハポンの地となった。インディアンの襲来こそ無くなったがフィリピンの話だと連中は死地に突っ込んでくる気狂いだぞ!! トルデシリャスの約の事など言ったところで受け入れられる訳もない。サラゴサの事などを知られたら……。
と言うか!! あんな山まみれの土地にまで進出するとはどれだけの国力を持っているのだ……!!」
もう日本人と蓬莱人の街と化してる火山や山の多いハバ・カルフォルニア半島の北にある豊漁国長津郡は大規模な交易港と軍港と国内港が並んでいた。
「何よりナガツにまた帆船が増えただと? 浜に上がる前提のセキならばまだしもミクニやハポン・ガレオとか!! せめて、せめて戦力を知らねば!!」
完全に日本領と隣接するシナロア州知事のルイス・セティン・デ・カニャスはイエスズ会修道士の派遣を以て様子見を進言してきた。だが、日本は密入国にキレてキリスト教徒はともかく宣教師に関しては絶許一歩手前くらいに拒否する立場だ。
まぁこれは良い。だがポルトガルが独立戦争をイスパニアにブチかまし、選りに選って従兄弟のブラガンサ公、即ち親族がポルトガル王として即位しちゃったのだ。当然「テメェ敵だな?」ってなる。
その後も副王はフアン・デ・パラフォクス・イ・メンドーサに変われどウィリアム・ランポートとかの色々があってなぁなぁに。
イスパニアと日本はお互いに「ちょっと怖ぇなぁ」って思いながら様々な理由で交流を続ける事になる。
織田家の大阪幕府に於いては外交的な在り方として第一を日本国天皇とし第二に日本国大君と言う形である。外交的な実務は大君即ち将軍が行うが儀礼的には朝廷が出張る感じ。
今回は朝廷が出張るくらいにエゲつねぇ程に重要な使者が来た。
先ずティドレ国のサフディン王の使者がスッゲェ雑に要約すると「イスパニアは信じられねぇしネーデルランドこえーし他は何奴も此奴も改宗強要してきてウゼーからいっそ日本の傘下にしてくんね?」と言ってきたのである。
またその話を聞いたティドレ国のライバルポジにあるテルナテ国のハムザ王からも「ティドレに日本の武力が流れ込んだら俺等死ぬ!! そんだったらウチも傘下に入れてくれ!!」という使者が来たのだ。
そこに明がヤベー感じしてたのと朝鮮と明の沿岸部シバき回した日本の勢力圏内となっていた上、欧州コワァってなってた琉球国尚豊王も「じゃあウチも序でに」っていう感じで使者が来ちゃった。
ゴチャゴチャあったが外交権は日本持ちで政治体系はそのまま。ティドレ国とテルテナ国は日本の仲介で領土の確定の上で和解。三国の王は幕府宿老として遇された。
各国に派遣していた戦力を増強の上で食料などの世話は駐留先の負担。それぞれの国は王子を日本に数年住まわせるサムシングな感じのノリ。日本の民と認めるに際し主上の臨席が成されたのだ。
で。イスパニアは僅かに、ポルトガル、ネーデルランドは確り不満を覚える。
唯一の勝ち馬に乗ったのはイングランドだった。アンボイナ事件以降は東南アジアに於いては日本船団に便乗した交易しかしていないので寧ろ日本が強力になった方が有り難いのだ。故にイングランドが日本に好意的姿勢を示しており抜け駆けさせない為に他の国も強くは出れない。
結果として後腐れなく手を出せる関係のポルトガルとネーデルランドが東南アジアの権益を競ってバチバチにやり合うことになった。
で。
日本が関わりを持ったマラッカ周辺の国の一つであるアチェ王国はポルトガルと連携していた。だが軍事に優れ精強を誇ったアチェ王国のイスカンダル・ムダ王の死によって事態が動く。後継のイスカンダル・サニ王が何かしようとしても以前の戦いで水軍が壊滅しており何も出来ない状況。
それらを好機と見た隣国ジョホール王国アヴドゥル・ジャリル・シャー3世はオランダ東インド会社と協力してポルトガルの拠点ムラカのア・ファモサ要塞に攻め込んだ。ネーデルランド・ポルトガル戦争の一つとも言えるこの包囲戦でマラッカからポルトガルが追い出された戦いである。
尚、正味どうしようもなかったイスカンダル・サニ王はこの戦いの結果のせいか地元貴族に毒殺されてしまった。
ネーデルランド東インド会社総督アントニオ・ヴァン・ディーメン。彼に呼ばれた男がバタヴィアの商館を歩く。
それは熱病等で4、5回指揮官の代わったマラッカ包囲戦で最終的に総指揮を取ったヨハネス・ラモティウス。
総督の政務室へ面会の為に入室した。
「ヨハネス君。よく来てくれた。今日は君に如何しても聞きたい事があってね」
入室すれば壁に貼り付けた東インドの地図を見上げるアントニオ・ヴァン・ディーメンが朗々と声で出迎えた。ただし振り返る事も無く話しながら地図の隅々を凝視しながら。
「まぁ取り敢えず座ってくれたまえ。ヤーパン船団から買った物だがワインもある。故郷の物には及ばないだろうがね」
「いやぁ、酒が飲めりゃあ、そいつぁ有難い事で」
侍従がヨハネス・ラモティウスの前にワインを置きサッサと退室する。偉い人間と二人きりと言う居心地の悪さに鼻を鳴らし、杯を使わずに瓶をとってそのまま呷った。一口で喉の渇きが癒えて口が潤い一息。
「それで? いったい総督様が俺の様な者に何の御用で」
「ああ。単刀直入に聞くがね。ヤーパンに勝てるかい?」
「無理ですね。戦力が違いまさァ。船速も兵力も火力も違ぇ。
特に酷いのは大砲だ。砲撃戦なんざ敵の面を拝む距離でやるもんですが連中ときたら丘で戦うみてぇに1メェウの距離からブッ放し始める。
しかもソレを当てる事さえあるんだ。コッチの大砲じゃあ出来ねぇ所業でさ」
「……ドイムではなくかね?」
「アンタも知ってんでしょうよ。前任者のブラウエル総督様が何度か海賊を送ったって聞きますぜ。物は無くても話は知ってるはずだ」
「ああ。碌な情報も得られなかったがね。特に酷い報告は笑い話だ。
航行不能になっていた船を襲ったら砲撃を受け、仕方なく移乗戦闘を仕掛けた結果、巨人に全員が抱き殺された、だよ。新式の銃も含めて全てを奪われたという。倭寇なんて雇うものじゃ無いね。
確りした報告でも君の話を補強する物ばかりなのさ」
「んじゃあ、何で勝てるか何て聞いたんで?」
「ヤーパンの更に東。イスパニアの報告にある金銀諸島の話は聞いたことがあるだろう? それが有れば……と、おもってね」
「まぁ言いてぇ事は分かりまさぁ。イングランドもイスパニアもポルトガルも敵と変わりゃあしません。金は幾らあって足りねぇってなぁ俺でも分かる。
だが東南アジアの船乗りってなぁヤーパンの連中に助けられた奴等が多い。最近じゃあ東インドでもそうでさぁ。とんでもねぇ嵐で遭難して海を漂ってた所を連中の船団に拾われてハンゴーから温ったけぇ飯を貰った奴は数知れねぇ。海の上で連中、わざわざ火を炊くんですぜ?
軍船も商船もテメェの船の船長よりもヤーパンの人間の言う事を聞きまさぁ」
アントニオ・ヴァン・ディーメンは優れた官僚として見込まれた事が東インド会社総督となる道への第一歩だった。
そんな彼でも金銀諸島と言う虚実定かでは無い伝聞を大真面目に取り組み、国家とオランダ東インド会社の為にこそ手に入れるべき物だと考えている。
この考え方は当たり前でまぁ大体がコロンブスの責任だ。だって相応に考えた上とは言えども凡そ妄想と言っていい思い付きと、伝聞を元に国家政策として莫大な資金を用いて船団を出したのである。その結果として新大陸を手に入れた事実があれば当然だった。
だが現場を知る人間としては妄想に付き合って悪感情のない相手と敵対するのは御免被る。しかし国家の状況がアントニオ・ヴァン・ディーメンの歩みを止めさせない。
「ヤーパンは東に進んで在るのは主にモクプニ・オ・ハワイなる諸島や新大陸。セキレイ大陸や関門諸島があるばかりだと言う。だが私なら金銀諸島などがあったとしてもそれを馬鹿正直に言いはしない。
それにアレほどの鉄を生み出す財力には説明が付かない。何よりヤーパンは私達が東へ行く事を認めていないじゃあないか」
*絶対イスパニアとネーデルランドが戦争おっ始めて激化すると思っている為の拒否。
アントニオ・ヴァン・ディーメンは漸く地図から視線を外し、三枚の航路図を机の上に置く。
「これはフランス君に描いてもらった三つの航路図だ。希望の航路としたい物だがヤーパンに良い顔はされないだろう」
「押し通る気ですかい?」
「……マティス君やマールテン君のタルタリアの海岸探索は失敗だったからね。エゾから先はヤーパンの土地となっていただけだった」
「ああ、あの碌でもねぇ飯を出した探索ですかい。90人の内50人しか残らなかった粗末な航海でしたね。まぁ何にせよお勧めはしやせんぜ」
探索は実行されフランス・フィッシャーとアベル・ヤン・ソーンが探索を開始。紋人からルトウィタと呼ばれ西の海岸の光景から百鯨浜島へ上陸することになる。更に探索を続けて金銀諸島は見つけられなかったが彼等は妙な物を見る事になった。
帆の無い船である。
尚、航海が辛過ぎて幻覚を見たのだと本人たちでさえ思っていた。




