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35.元、天使長

 遺跡の調査も終わって、樹海の奥にあった小さな村へとやってきた。広く開拓されていて、その殆どが田畑で埋め尽くされている。丸太の家がぽつぽつ並ぶ中に、2階建ての木造住宅が不躾に目立っている。四界連盟の看板があるから、きっとギルド協会。

 フェネが報告しに一人で中へ入って行きました。


「ラプちゃんにお姉さんがいたんですね」


 待ってる間、暇だから聞いてみる。


「……うん」


「まさか執政官が姉なんて驚きですの」


「因みに執政官ってそんなに凄い方なのです?」


 四界連盟だの執政官だの国議長だの肩書が多くて一々覚えられなーい。乙女の肩書なら迷わず覚えるんだけど。


「魔界ではいわゆる国を取り仕切る者がいません。その代わりに3人の執政官を配属して有事の際に動くそうです」


 さすがはモノコ。フェネに負けないくらい世事にも詳しい。


「その3人はそれぞれ『魔神』『鬼神』『死神』と呼ばれて魔界でも尊敬されているそうです」


 なんて物騒な肩書。でもそういうのちょっと憧れるかも。


「畏怖じゃなくて尊敬?」


「……執政官もあくまで魔界では一人の競争者。でも生み出す物はどれも価値あるものばかりだから、他の人達は尊敬を込めて『神』って崇めてる」


 ああ。推し的な意味での神かぁ。遺跡にいた魔人もそんな感じだったから納得。


 でもそれを聞いたらラプちゃんのお姉さんが確か鬼神の執政官なんだよね? 実質魔界社会でもトップなんだって思う。


 ラプちゃんに話を聞きたいけど、それ以上は言いたくなさそうに離れて行っちゃった。


 モノコのお父さんも人界のトップだし、なんだか百合信仰旅団の面々が只者じゃなくなってきてる。そうしてる間にフェネが戻ってきた。お金は相変わらずラプちゃんのパンドラちゃんに食べられる始末。


「フェネも実は獣界の偉い人と知り合いだったりするのでは?」


「何の話?」


「さきほどラプスさんが執政官の妹だからという流れでそういう話をしていました」


 モノコが補足してくれて助かります。私が言うとフェネはいつもスルーするから。


「……フェーは頭もいいし関わりありそう」


 ですよね!? ギルドランクも高いですし絶対獣界でも有名人って気がします。


「私みたいな末端の獣人が獣王と知り合えるはずがない」


「ですがフェネさんは知識もすばらしいですし、優秀に思えますの」


「……外界にとっての優秀さが必ずしも自国にとって必要な物とは限らない」


 一瞬、フェネの目付きが悪くなったような? 普段からわりと目付き悪いけど。私はそんなフェネも好きだけどね!


 結局フェネもラプちゃんと同じく何も話す様子はなし。付き合い長くなってきたけど、皆のことを知れるのはまだまだ先になりそう。


「そういうヴィヴィはどうなの? 大天使に喧嘩売ったとは聞いたけど」


 フェネが私に興味持ってくれた! これは尊い!


「そうなんです。聞いてください。大天使様が天界議会で急に百合禁止条例とか訳の分からないことを言い出したんですよ。それで誰も反論しないから私が怒ったわけです」


 これだけの説明で何が起きたか察してくれたみたいに返事をしてくれました。


「あれ。でも待って。確か天界議会に出席するには天使長の地位がないとダメだって昔本で読んだことがある」


 フェネは天界の政治にまで詳しいなんて流石の勤勉さです。


「そうですよ。私、天使長でしたよ」


 堕天した今はその地位も剥奪されてるでしょうけど。


「えっ?」


「嘘、でしょう?」


「……天界やばい」


 何故か満場一致の驚きの声。その反応は酷くない?


「天界の人材不足が疑われる」


「私だって真面目ですよ。天使学園での成績も優秀でした」


「主に魔法?」


「正解です」


 戒律の勉強はそこそこだったけど、魔法の実技では常にトップ。おかげで実力を買われて天使長になりました~。結局あそこは腐敗していて話にならなかったけど。


「でも酷いと思いません? 百合禁止なんて勝手に言って反論したら堕天ですよ? こんなの横暴です」


「人界なら絶対にありえませんわね。たとえどんな反対意見であろうとも聞くのが国議です」


 さすがはモノコ。てぇてぇに近いお嬢様!


 ……はっ。なにやら嫌な魔力を察知。

 全力で飛ぶ!


 畑を飛び越えて村の奥へと来たら、長屋みたいな少し大きな丸太の家があった。その家の前で白い制服を身にまとった白い翼のあるキザな天使がいた。噂をすれば何とやら。そいつがお婆さんを必死に口説いている。


「ですからその話は断ったはずですけどねぇ」


「そう言わずにどうか聞いて頂けないでしょうか」


 お婆さんが困ってそうだから迷わず間に割り込んで銃で武装完了。


「老人相手に詐欺か?」


「なっ、お前はヴィヴィエル!?」


 あれ。どこかで会ったっけ? まぁどうでもいいか。野郎の顔なんて一々覚えてないし。


「翼に穴開くのと天界へ帰るのどっちがいい?」


「くっ、くそ。ヴィヴィエル、お前はいつか神罰が下るぞ!」


 負け惜しみの如く捨て台詞吐いて飛んでいった。罰が当たるのはお前の方だって。


「無事ですか?」


「おやおや。ありがとねぇ」


 お婆さんは穏やかな笑みを見せてくれた。乙女の心とは年齢を重ねても枯れないのである。


「ヴィヴィ。久しぶりに飛び出して一体何事?」


 遅れて皆がやって来ました。


「頭のおかしい天使を撃退しました」


「自己紹介を頼んだ覚えはない」


 本当なのに! ていうかフェネの目なら見えてたでしょ! 絶対わざと言ってる!


「本当に助かりましたよ。ここ数日、ずっとうちにやって来て困っていました」


 やはり詐欺師だったか。


「見た所、あなたはここの村長……ごふ」


 モノコが倒れたー! これ絶対無理して走ったやつー!

 ラプちゃんが介護してくれて何とか一命を取り留めた。


「はい。私がこの村の村長です。あの天使は魔物の谷に石橋を築いて交通の安定を図ると何度も仰っていました」


「確か断崖絶壁で凶悪な魔物も住んでいると言われているあの谷ですか」


 おぉ、さすがはフェネ。すぐに事情を察したようです。


「はい。あの谷を越えたら村から近い街に到着するので橋があれば便利なのは違いません。ですがご存知の通りあそこには魔物が多くいるので万一石橋を造ろうものなら、魔物も利用してこの村が危険になる可能性があるのです」


 如何にも自分達の都合を優先したがる天界のお偉いさんらしい思考だ。


「何度も断ったのですが終いにはお金まで用意してきたので本当に困っていました」


「賄賂までか……。おそらく奴の狙いは町議長の一票だろう」


「嫌な予感がしますわね。人界の議会では過半数の賛成で可決されるので何か企んでいる可能性がありますわ」


 もしかして百合禁止条例を本格的に進めていたり? 前はフェネが言ってくれて緊急なんちゃらの時はその力は絶対じゃないって言ってたから、今度は正面から可決させる気?

 はー、くだらな。でも本当か分からないけど面倒になりそうなのは確か。


「ね? 今の天界は腐敗してるんです」


「……ヴィがまともに見える不思議」


 ラプちゃーん、私はいつもまともですぅ。


「それと、実は今の話で1つ気になったことあるんですけどいいです?」


「なんですか?」


「魔物の谷の魔物に困っているんですよね。なら、私にお任せください。この村に平穏を約束しましょう」


 私の言葉にその場にいた全員が言葉を失っていた。決まった……!

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