36.茸筍戦争
村を出て森の奥を抜けるとその先は断崖絶壁となっていました。向かいの森とは結構な距離があり、谷の深さは相当で落ちたら普通の人は助からなさそう。川が流れてるけど見た感じは浅そう。まぁ私は落ちても死なないけど。
谷の溝はどこまでも続いていて、向こう側へ行くのは飛べない限りは相当遠回りになりそう。キザ天使を庇う気は全くないけど、これは吊り橋の一つでもないと不便には思う。
「……どうしてこうなったんだろう?」
ラプちゃんが言ってます。考えてみる。
「大地震とか?」
「……時間を遡ってみて」
時間を遡る……? つまり過去の食物連鎖がこの環境を生み出した……?
「はっ。まさか過去にここで魔人と人間の争いがあったとか」
「……この天使って記憶喪失なの?」
「記憶喪失というより記憶の偏りが酷いだけだと思う」
むむ? ラプちゃんとフェネは一体何を話しているんだろう?
「ヴィヴィさん。どうしてあのような発言をしたのでしょうか。魔物の谷の問題を解決など本当に可能なのでしょうか」
おお。その話だったか~。
「もちろんです。私にかかればどんな大物も一撃です」
「引き受けてしまった以上は後戻りはできない。ヴィヴィ、頼りにしてるよ」
フェネが頼りにしてくれてる! これは相棒として本気を出そう!
森を歩いていると竹林道へとやってきた。魔物の谷って聞いたから警戒はしてるけど、今のところは周囲から敵意を感じない。ざざーっと竹が揺れてる音しか聞こえない。うーん?
「フェネ、魔物はどこです?」
ていうか今更だけど街へ行くにはここを通らないとダメなんだよね。それって村の人が魔物と遭遇するわけだし、それってかなり危険じゃない? もしかしてあのお婆さんめちゃくちゃ強かったり?
「この付近ではある決まりがある。それはキノコとタケノコに近付かない、これを絶対に破ってはいけない」
「はい?」
キノコもタケノコもどっちも食べ物だよね? なんで近付いたらダメなんだろう。あ、分かった。
「もしかしてそれを食べる魔物と遭遇するからです?」
「ヴィヴィにしてはまともな意見だ。でも違うんだ。ここは魔物の谷って言われてるけど、本当は茸筍の谷って名前なんだよ」
んん? どゆこと? 話が全然見えない。
「キノコを食べようとすれば、その逆鱗に触れ命を失う。タケノコを引き抜こうものなら、その冒険者は命が尽きる。端的に言うと、キノコやタケノコの化物が襲ってくる」
魔物じゃなくて化物?
「……人界だとそんなことがあるの?」
「わたくしも聞いたことがありませんわ」
ラプちゃんもモノコも初耳みたいでちょっと安心。
「皆そういう感想を抱くんだ。それで過去に何人もの冒険者がここに訪れて命を失っている。それで国が地名を変えて魔物の谷にしたんだ。因みにこっちはキノコの縄張りで谷の向こうはタケノコの縄張りだ。一説では谷が断絶しているのはキノコとタケノコの争いによって大地が割れたと言われている。だから地元の人も橋の建設には反対しているんだろうね」
あのー、フェネさん? 真顔で説明してくれるのはありがたいんですけど、内容がまるで頭に入って来ないんですけど。
「熟練の冒険者でもキノコに勝てないらしいよ」
フェネが言うと本当に聞こえる不思議。
「キノコに勝てない? 冗談でしょう?」
モノコが驚いている。とまぁ竹林を歩いていると枯れ葉の隙間に小さなキノコがポツンと生えていました。すこし焦げ茶色の焼いたら美味しいだろうって気がする。
「……これに勝てないの?」
ラプちゃんも本気で首を傾げている。
「私もどうなるかまでは知らない。でもこの手の言い伝えは先人たちの知恵だから守るべきだとは思う」
博識のフェネでもそこまでは知らないみたい。
「私がいるから余裕です」
「ならここはわたくしが」
モノコがレイピアを突いて見事にキノコを串刺しにした。そのまま焼いたらいい感じになりそう。
ドドドドドドドドド!!!
これは……大地が揺れてる? え、何事?
そしたら地面から大量のキノコが生えてきた。しかも超巨大の。軽く人の背丈の数倍はある。キノコの軍団は地面から抜け出すと急にぴょんぴょん跳ねていた。見た目はなんてないのに大きさだけに跳ねるだけで振動が起きてる。地面がぐらぐら……。なにこれ?
「キノコの怒りか。食べられ続けた恨みか、或いはタケノコとの終末戦争の生き残りか。なんて恐ろしいんだ」
フェネ、これは真面目に解説する必要あるの?
でも実際ヤバそう。見た目はなんてないのに大きさが大きさだけに、あんなのに踏みつけられたら即死すると思う。しかも振動のせいでモノコもラプちゃんも動けなさそう。空を飛んで銃を具現化! 銃弾発砲!
吹き飛んだ……!
でも普通に起き上がってる。え? ノーダメ?
「そうか。キノコだから通常の魔物とは違うんだ。だからヴィヴィの気絶させるという概念が通用しないんだ」
えぇー!? それって私と相性最悪じゃない!?
キノコ軍団に囲まれてじわじわと接近され続けている。魔物みたいに一気に距離を縮めて来る気配はなさそうだけど、それだけに絶望が迫ってる感が怖い。銃から剣に変えた。
そして距離を縮めて切り刻む! キノコの細切れ一丁! よし、再生する様子がないからこれなら勝てる! でもキノコの数多すぎ! ざっと見ただけでも100以上はいるんじゃない? 本当に戦争してたのかもしれない。
キノコがジャンプしてモノコに飛びかかった。させない! 銃で吹っ飛ばす! 倒せないけど距離を離すだけなら可能だからね。でも数が多すぎる気がする。
「フェネの魔法で一気に燃やせないです?」
「山火事になったら村の人にも被害がある」
「そこはラプちゃんの水魔法でカバーして」
「こうなってはやるしかないか。ラプス、援護お願い」
「……分かった」
フェネの炎で火炙りになったキノコは当然ダウン。竹林に燃え移った火はすぐさまラプちゃんが鎮火。ナイス連携です。
「モノコの剣に私の魔力を与えます」
光の加護を付与したらレイピアが真っ白に輝きました。
「これなら簡単に切れると思います。私が近くでサポートするので一緒に戦いましょう」
「分かりました。行きますわ!」
そうしたらモノコのレイピアで巨大キノコは次々と斬られていきます。まるで木綿のように。見た目が大きいけど半分に切られただけでも簡単に倒れるみたい。
「ふふ。なにこれ、楽しい。楽しいですわ!」
あれ? なんかモノコにスイッチが入ってる気がするけど……。ともかく私も戦おう。
そうして半刻ほどの激闘を得てキノコ軍団を壊滅に追い込んだ。ラスト一体にモノコが果敢に攻めて腹に風穴を開けた。
「うふふふ……快感、ですわね」
お嬢様に新たな扉が開いてしまったけど、冒険者目指してるならこれくらいの方がいいのかも。多分。
キノコ軍団が消えて一息……。と思ったんだけど何か異変を感じる。風を切るような妙な異音がする。慌てて谷の方へと目を向けた。そしたら目がおかしくなったのかな、私の目にはタケノコが空を飛んでいるように見える。
「キノコの軍勢が落ちたことでタケノコ軍が動き出してしまったか」
フェネ、それわざとボケてないですよね?
ともかく戦わないと。タケノコが空から急に力が抜けたみたいに落下してきた。すると……
ドカン!
爆発した!? 咄嗟に結界張ったから何とかなったけど危なー。
「このタケノコ爆発します!」
「この程度、わたくしが……」
おまけにモノコも息切れしてきてる。どうしよう。あれ、待てよ。爆発するんだったら……。
試しに銃を具現化して狙撃してみる。タケノコ空中で爆散☆
なーんだ、怖くないね。これならキノコの方が強かった。ばいばーい。
タケノコ軍、壊滅! 勝者、百合信仰旅団!




