34.魔人の秘密
ギルド協会の依頼で樹海の中に隠された古代遺跡らしきところにやってきました。洞窟のようになっていて、中はよく分からない壁画が沢山描かれている。フェネは律儀にそれらの壁画を撮っていた。そういうのも報告しないとダメなの面倒そう。
「モノコ様に魔法を習得させるためにヴィヴィの魔力を譲渡した、と」
フェネがものすごーく淡々と言ってます。これは理詰めされるパターン……!
「は、はいぃ。私の魔力をあげたらモノコも覚醒するかなぁって」
「どういう理屈でそうなるのか逆に教えて欲しい。ヴィヴィの魔力をいくら渡してもそれはヴィヴィの魔力だ。モノコ様の魔力は一切関係ない」
「……死ぬかと思った」
フェネとラプちゃんの視線が痛い……。モノコもしおらしい様子でトボトボ歩いてます。
「ヴィヴィはともかく魔法学を勉強してるモノコ様ならそれくらい知ってると思ったけど」
「……すみません。強くなりたいと願ったのです」
「そんな簡単に強くなれる方法があるなら今頃世界は混沌としてる。魔法を覚えたいなら少しずつ魔力の基礎値を増やすしかない」
「魔力って増やせますの?」
「魔力を消費すると体内で新しい魔力を生成される。体が慣れてくると生成する魔力量も増えてくるんだ。だから普段から魔法を使うように意識していたらいい。最初は効果を感じにくいけど時間と共にそれは実感するよ。要は筋トレと同じ」
えっ、そうだったんだ。初めて知ったんだけど。
「でもフェネは無駄な魔力を使わないって言ってたじゃないですか~」
実際普段から魔法を使ってる気配ないし。
「冒険者が常に魔力が空ならそいつはもう死んでるだろうね」
フェネ相手に意見した私が馬鹿でした。
「ラプちゃーん、フェネが冷たいですー」
「……死ぬかと思った」
ラプちゃんさっきからこれしか言わないです。これはまさか相当のお怒り……? はっ、このままだと今晩がまた茹でた豆になるのでは。
「ラプちゃん、茹でるなら百合で! それなら文句ありません」
「……転生した方がマシだったのかな」
言葉が変わった! よかった、言語が喪失したわけではないようです。
「ですが、わたくしはそもそも魔法を使えません。その訓練もできないのでは?」
「その認識がまず間違っている。目に見えるくらいの形で魔法を実感できるのはそれは相当の魔力を消費してる証拠なんだ。たとえば」
フェネが掌を出してます。肌がきれ~。
「今魔法使ってるけど見える?」
「えっ。使っていましたの?」
「こんな感じで見えないほどの繊細な魔法もある。だから魔力がないと決めつけるのはよくないんだ」
「フェネさん、ありがとうございます。やはり貴方に相談すべきでしたわ」
ちょっとモノコ!? まるで私の教え方が雑みたいに言わないで! 一応私が師匠なんだから!
遺跡の調査は順調に進んだ。なーんにもなくて退屈極まりない。せめて壁画にてぇてぇな絵を残してくれたなら許したのに。暇だー。
……ん? 何か聞こえる。これは、足音だ。音を必死に隠してるみたいだけど私には聞こえる。乙女の吐息も聞き逃さないからそれで隠したと思わないことです。
コッコッと小さな音からして人かな。足音の数からして2人いる。
「フェネ。先客がいるみたいですよ」
百合だったらいいんだけど、私の勘では多分違う。わざわざ音を隠してるなんて、それは秘密のプレイを楽しみたいとかの理由でないと。いや、あり得るのか? でも遺跡だよ? こういう文化的な場所でするから背徳感を得られるわけで。むふふ。
「その顔からしてテテ?」
はっ。また妄想してました。
とにかく確認しないと。足音立てないように飛ぶ。それで先行した。
「本当にこんなものが役に立つのか?」
「タイミー様がそう言ったんだから、そうなんだろう」
「次の時代は一周回って古代文明が来る、ねぇ。こんな壁画のどこがいいんだ?」
「さぁな。でもあの人の予見が外れたことはないだろ」
「まーなー。俺はタイミー様のサインくれるならそれでいいわ」
「早く終わらせて周りに自慢してー」
なんかチャラそうな2本角のある野郎がいる。多分魔人かな。服装がカラフルすぎて眩しい。相変わらずあっちのセンスには付いて行けない。
フェネみたいにギルドカードで壁画を撮ってるみたいだけど、さっきの会話からして協会の依頼じゃないと思う。よからぬ企みに思えるけどどうしたものかなぁ。てぇてぇが関係ないなら私には興味ないし放置でいいかな。関わりたくもないし。
さっさと戻ろうと思って振り返ったら、そこにラプちゃんがいた。声をかけるより先にカラフル魔人のところに行ってしまった。
「……今の、どういうこと?」
「誰だ!?」
「……今、お姉ちゃんの名前を出した」
お姉ちゃんですって!?
「お前は……もしかして噂のタイミー様の妹? 本当にいたんだ。無価値な妹がいるって聞いたけど、まさか本当だったとは」
「タイミー様も可哀想だよなぁ。こんな外界に来るような価値が分からない妹がいるんだからよ」
汚い笑い声があまりに耳障りで気分が一気に変わった。ライフルを武装して野郎どもの前に立つ。
「私の仲間に暴言吐いたのはてめぇか?」
銃を突き付けたらさすがに冷や汗掻いてた。このまま発砲しようか悩む。そしたらフェネと遅れてモノコも追いついた。
「また面倒か」
「こいつらがラプちゃんの悪口を言ったんです」
「ち、違う。俺たちはただタイミー様の命令で……」
「誰が喋っていいって言った?」
試しに地面に発砲して穴が空けたら悲鳴をあげて黙った。
「タイミーってまさか魔界執政官の一人か」
フェネはやはり物知り。その感じはお偉いさんかなぁ。
「鬼神のタイミーですの? 曰く、眠らずの魔人。執政官の中でも特に若いことで有名ですわ」
モノコも情報通です。
「外界でもタイミー様を知ってるやつがいるとはさすがはタイミー様だぜ。推せる」
「タイミー様、さいこー!」
なんだ、こいつら? でもラプちゃんの姉って言うからにはビジュがいいのは間違いないと思う。
「……お姉ちゃんが外界に人を派遣したの?」
「はっ。言うわけねーだろ。俺たちはタイミー様親衛隊だぞ」
「言わないなら脳天ぶち抜く」
頭に銃口突き付けたら顔面蒼白になって口を開いた。
「が、外界の遺跡を調べろって言われてるんだ。本当だ。それ以上は知らない」
「嘘臭いね。魔界の情報網ならこの程度の遺跡の情報はすでに入手してるはず」
おー、さすがはフェネだ。よし、嘘を言う連中に容赦は必要ないな。トリガーに指を当てた。
「ほっ、本当に何も知らないんだ!」
必死に命乞いしてるし、嘘じゃない気がする。こんな野郎の下っ端に情報与える方がおかしいもんね。フェネを見たら首を振ってるし同じ考えみたい。
「で。こいつらはどうする?」
それでも悪巧みしてそうなのが匂う。ラプちゃんが前に立った。
「……お姉ちゃんに伝えて欲しいことがある。もう、わたしのことは忘れてって伝えて」
ラプちゃんが悲哀に満ちた顔をしてる。ただの仲の良い姉妹じゃないのかもしれない。
野郎共はポカンとして放心してた。
「おい、聞こえなかったのか? 幼女の頼みを無視するのか?」
「え、でも俺たちはタイミー様の……」
「ここはいい墓標になりそうかな」
「いっ、今すぐ帰ります!」
最初からそう言っていればいいのだ。カラフル魔人どもは慌てて逃げ去って行った。
問題のラプちゃんの方だけど……。何もなかったように顔を上げた。
「……わたしは大丈夫。仕事の続きをしよう」
それが強がりだって皆気付いてるだろうけど、今はラプちゃんの意思を尊重してあげよう。そんな気がした。




