石は石屋に聞け!?
難題。
「たぶん、奥さんに一番似合うのはコレだと思う」
そう言って領主様が出してきたのが、家宝の槍だ。穂先が黒曜石になっている。それも珍しい青のもの。アレほど大きいものは早々お目にかかるものでもない。
が、奥方というのは、女性である。貴族のご令嬢である。そんなもの使えそうにない。
そう思うのに、ああ、似合いそうと思ってしまう迫力がある。しかし、ここで儂が敗北してしまえば後はない。
石の専門家が頑張って説得するんだと託されたが重い。重すぎる。儂はただの石工でしかない。彫り上げるような石の専門で、輝石の類は門外漢だ。
この村に伝わる素朴な伝統儀式のはずが、なにか別のものに変容している気がしている。
領主様が持ち出した槍は棒の部分も角度によっては青く見える。金属に詳しいと自称する鍛冶屋(いつもは包丁を作っている)が、流星を使った星の鋼を混ぜてあるという話をしていた。
ついでに竜殺しという物騒な別名がついているらしい。
なにをどう聞いても、女性に婚約の証として渡すものではない。
「勇ましき戦乙女でもなければ喜ばない」
「でも意外と戦いそう」
「それは、そうだが……。
黒曜石コレクションから一つ選んでもらうのはどうだろうか。それで装飾品でも作ってもらえばいつでもつけてもらえる」
これはいい提案だと思った。
しかし、領主様は首を横に振った。
「どれも黒くて綺麗じゃない。変な形とか、面白い形とか、そういうのばっかり」
「儂が見てみよう。ひとまず、槍はしまおう」
とても残念そうに槍に鞘をつける。
工房から領主館という名の小屋に向かう。地下倉庫は広いらしいが、上の部分は狭い。必要最低限を下回ってないか? という感じはする。
先々代の時に老朽化で立て直しする予定が、予定外のことがいくつかあり仮説住居を建ててそのままらしい。先代も家にいないタイプなので寝る場所があればいいのでは?という感じだったらしい。
らしいばかりなのはここに居着いたのは先代領主が行方不明(仮)になって1年後くらいのことだったからだ。
新居の予定はあるが、来春以降と延期されていた。ちゃんと図面を引いて、大工も呼んで建てるには少々時間がかかる。
当面、別居婚が続くだろう。貴族のご令嬢があんな狭そうな家に適応できる気もしない。
……いや、押しかけそうな気がしないでもない、か?
奥方は活力溢れているご令嬢だ。虫も悲鳴をあげず、嫌そうな顔でポイする強さがある。同居あり得るな。
抵抗するのは領主様のほうだろう。いいとこのご令嬢だし、大事にしなきゃいけないしという気負いがある。
意外と繊細なのは領主様のほうかもしれない。
たどり着いた家には先客がいた。ふんすとドヤ顔をしている奥方と疲れたがやりきったという顔のドラバ。
「おそかったの……なんじゃ、そ、それを持ち出してっ」
焦るドラバと首を傾げる領主様。
ああ、そういえばドラバは、妾はドラゴンじゃから、という設定があった。設定に忠実に竜殺しの槍にビビっているのかもしれない。
「それは奥底にしまうのじゃ。即座に、隠せ」
「それ、なんですの?」
さすがにそこまで言われると奥方も気になったのだろう。気にしてほしくなかった槍に視線を向けた。
「奥さんに」
「奥方はなに用ですかな」
領主様の言葉を強引に遮った。今、危機だった。アレをあなたになんて黒歴史確定だ。
「中でお話しますわ」
「じゃあ、儂らも同席させていただこうか」
「え、妾も?」
このまま帰ったら、なにをやらかすかわからねぇぞ、とこそっとドラバに囁く。うっ、と呻いて若い二人を見る。
た、確かに、と同意があり、同席することにした。
本来は若い二人でといいたいところだが、もう、本当に信用ならない。
まず、領主様に黒曜石コレクションを出させることにした。先手必勝。きちんとこの地方の婚約にはと説明もさせた。なにもわからず選んでと言ってはいけない。すでに知っていても手順は必要だ。
興味津々に見る奥方で良かった。黒曜石、とても地味。青いのは綺麗だしと領主様が出してきて理由はわからなくもない。ただ、武器はだめだ。
「どれも綺麗ですのね。
一番最初のものはどれですの?」
「えっと、これかな」
「それではこちらをいただきますわ」
「小さいよ?」
「旦那様が最初に選んだものですもの。価値があります」
厳かに言われるとそういう気もしてくる。そのあたりで服の袖を引かれた。見ればブラバだった。もう大丈夫じゃろとこそっと言われれば確かに。
隠し持っていた花冠を奥方が取り出したところだった。
あとは若いお二人で。
そういう場面である。
我々はこっそりと家を出ることにした。
家から離れたところで二人でため息を付く。
「はあ、なんで儂がこんな苦労を……」
「妾も大変じゃった……」
そのまま別れるのもなんなので珍しくお茶をして帰ることにした。
なにはともあれ、幸せになってほしいものである。あの一人ぼっちだった子どもが誰かと楽しくいられるならそれに越したことはない。




