おかえりなさいませ、お嬢様
ああ、奥さん。なにかご用? え、用がなきゃ来ちゃいけないのかって? そんなことないよ。毎日顔を合わせているべき? 夫婦の親交を深めるって、大事だけどね。
うちはいつも朝ごはん一緒にしてた? ご家族の仲いいよね。普通? 普通かな。
なんか、貴族のお家ってそんなに顔合わせないって愚痴をよく聞いたけど。娘に相手してもらえないとか、奥さんに贈り物したいけど、いまさら遅いだろうかとか。息子の反抗期ツライとか。
どこって、あの黒曜石の会で。対策会議とかマジな顔でやってたりしてた。
しりたくなかった。だよね……。ああ、奥さんのお家の方はその時は入ってなかったから。
うちは一家離散が早かったので、普通がよくわかんない。
あ、別に気まずそうな顔しないでもいいよ。村の人達がいるから別に寂しくないし。それも昔の話だし。
もうちょっといる?
じゃあ、こっちの書類の計算を……そう。3度目の最終確認。田舎なので、役人の差し戻しも遅いし、あとで計算合わないんですけどぉと言われてももう忘れてるから、間違いなく届けたほうがいい。
こっちは家業のほうの売上とか。領地の方はこっちでやるから。
家業の方の温泉宿とかその他のものはお任せしたいって言ってたじゃない? 最高益を叩き出してみせますわって、それはだめ。資源枯渇すると困るし、いっぱい出回ると希少性がなくなって特別感が、あ、わかってくれた。ブランド戦略大事。
侍女やメイドなども使える安価な販路も増やしたい? そっか、奥さん優しいね。
売上と実績ですわって。
え、名前? そのうちにね。
奥さんだって。
…………あ、はい。照れる。やっぱり、そのうちにね。
なに、じーっと見て。
ああ、この服? モーニングコート、タキシード、テイルコートと全て、借りてきた服ですかというくらいに似合わなかったので、ヤケになった服屋がコレが一番に会いますねと着せた一品。
執事っぽい。そう、執事のお仕着せ。
いやぁ、どこの屋敷にも潜入できますねって、うちの執事が言ってた。
一体何をさせるつもりなのか。
そんなに違和感ない? ふぅん?
おかえりさないませ、お嬢様。
…………そんな、赤くなるほどのこと? わたくし、新しい扉がって、閉めて。どこから覚えてくるのそういうの。女子会で。そう、ほどほどにね……。
満喫しているようで良かった。
帰りませんわよ、ってなに? 追い出す気はないよ。お見合いを断られまくったような男でもいいのかとは思うけどね。
…………、素敵とか、そういうの恥ずかしいのでやめてください。奥さんをカワイイというのはいいのかと言うとカワイイのでいいのです。
それはずるいと。
他の誰もいないところなら、どうぞ。羞恥に耐えます。
今!? 今なの!?
仕事中なので仕事してください。全く……。ああ、書き損じ……。紙貼って修正とかしたい。
……顔が赤いってそりゃあ、そんな言われりゃ慣れてもいないんだから。
愉悦って顔してる。からかって楽しい?
からかってはいないが、楽しい。ここに来てからずっと楽しい。
……そー。
なら、ずっといてよ。
俺も楽しいからさ。




