第19話 もう一人の後継者
第19話 もう一人の後継者
ギィィィィィン!!
黄金の大剣と漆黒の魔剣が激突する。
衝撃は大気を震わせ、夜空に浮かぶ雲を真っ二つに裂いた。
都市最終防衛兵器は、一歩も引かない。
対するバルゼウスも、不敵な笑みを浮かべたままだった。
「いい……。」
「実にいい。」
「千年待った甲斐があった!」
再び振るわれる魔剣。
エクシオンの盾が受け止めるが、その衝撃で大地に巨大な亀裂が走る。
城壁の上では、アストラが次々と戦況を解析していた。
「エクシオン稼働率九十四%。」
「ですが、長時間戦闘は不可能です。」
「融合維持に王核の魔力を大量消費しています。」
アリアは静かに頷く。
圧倒しているように見えて、実際には違う。
このままでは先に魔力が尽きる。
何か決定打が必要だった。
◇◇◇
一方、王国軍では混乱が広がっていた。
城内へ避難した兵士たちは、目の前で繰り広げられる神話のような戦いを呆然と見つめている。
「あの令嬢が……。」
「俺たちを助けるために戦っているのか。」
老騎士は静かに剣を見つめた。
「我々は大きな勘違いをしていたのかもしれんな。」
その言葉を聞いた兵士たちは、小さくうなずく。
婚約破棄された悪役令嬢。
王国でそう呼ばれていた少女は、誰よりも先に人々を守ろうとしていた。
その姿は、彼らが知る「悪役令嬢」とはまるで違っていた。
しかし、その様子を見ていたクロードだけは拳を強く握り締める。
「騙されるな!」
「あれは演技だ!」
誰も返事をしなかった。
兵士たちの心は、少しずつ王子から離れ始めていた。
◇◇◇
その頃、ノクスは一人、王核の前に立っていた。
画面には赤い文字が点滅している。
『管理者候補、二名を確認。』
『第一候補 アリア・エヴァレット』
『第二候補 識別不能』
ノクスは目を閉じた。
「識別できない……?」
王核は血統情報を誤ることはない。
それなのに名前が表示されない。
そんな事例は、千年前にも一度しか存在しなかった。
「まさか……。」
ノクスの表情が硬くなる。
「創造王が残した、最後の切り札か。」
◇◇◇
戦場では、バルゼウスが大きく息を吸い込んだ。
「そろそろ終わりにしよう。」
彼の全身から噴き上がる黒い魔力が、巨大な竜の姿を形作っていく。
黒竜は咆哮とともに空へ舞い上がった。
アストラが警告する。
「超高密度魔力反応!」
「直撃すれば都市防衛障壁でも耐えられません!」
エクシオンが剣を構える。
だが、アリアはその動きを止めた。
「待って。」
「アリア様!?」
アリアは静かに王核へ手を添える。
今まで流れ込んできた創造王の知識。
その中に、一つだけ理解できなかった術式があった。
今なら分かる。
王核が、その術式へ反応している。
「創造は、壊れたものを直す力じゃない。」
黄金の紋章が強く輝く。
「何もないところから、新しい可能性を生み出す力。」
その瞬間、エクシオンの背中にあった六枚の光の翼が分離した。
一枚。
二枚。
三枚。
六枚すべてが空へ飛び立ち、黄金の魔法陣へ変わる。
アストラが驚愕する。
「そんな機能は記録にありません!」
魔法陣は都市全体を包み込み、夜空を黄金色に染め上げる。
バルゼウスでさえ、その光景に目を細めた。
「その術は……。」
「創造王しか使えなかったはずだ。」
アリアはゆっくりと右手を前へ突き出す。
「創造権限・第二解放。」
「――《世界創壁》。」
次の瞬間。
黄金の光が黒竜を飲み込んだ。
轟音も、衝撃もない。
ただ静かに。
黒い魔力そのものが、黄金の壁に吸収され、消えていく。
バルゼウスは初めて驚愕の表情を浮かべた。
「……あり得ん。」
「創造王ですら、この技は晩年まで完成できなかった。」
その言葉に、ノクスも目を見開く。
「違う……。」
「アリアは創造王と同じじゃない。」
「創造王を超え始めている……?」
その瞬間だった。
王核の赤い警告音が、さらに激しく鳴り響く。
『緊急警告。』
『第二管理者候補を捕捉。』
『現在位置――王国王城・地下最深部。』
空中に、一人の少女の姿が映し出される。
白銀の髪。
深紅の瞳。
首元には、アリアと同じ黄金の紋章が静かに輝いていた。
その少女はゆっくりと目を開き、誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
「……お姉様。」
その一言で、アリアの運命は大きく動き始めた。




