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婚約破棄された悪役令嬢ですが、王国を支えていたのは私でした。辺境から始める最強国家建国記  作者: 谷本遥叶


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第1話 悪役令嬢は笑って婚約破棄を受け入れる

第1話 悪役令嬢は笑って婚約破棄を受け入れる


「アリア・エヴァレット。今日この場で、お前との婚約を破棄する。」


 王立アルディア魔法学園の卒業記念舞踏会。


 豪華なシャンデリアが輝く大広間で、第一王子クロードの声が静まり返った会場へ響き渡った。


 音楽は止まり、貴族たちの視線が一斉に一人の令嬢へ向けられる。


 公爵令嬢、アリア・エヴァレット。


 幼い頃から王妃教育を受け、完璧な淑女と呼ばれてきた少女だ。


 しかし同時に、人々は陰でこう囁いていた。


「悪役令嬢」と。


「君は平民出身の特待生リシェに嫉妬し、何度も嫌がらせを繰り返した。」


 王子の隣では、栗色の髪を揺らした少女リシェが不安そうに俯いている。


「……そんな。」


 小さく呟くその姿は、誰の目にも守ってあげたくなるような儚さがあった。


 貴族たちは口々に非難する。


「最低だ。」


「王妃候補失格だ。」


「やはり噂は本当だったのね。」


 その声を聞きながら、アリアは心の中でため息をついた。


(やっぱり、この日だった。)


 三日前。


 彼女は高熱で倒れたことをきっかけに、不思議な夢を見た。


 夢の中では別の世界で生きており、本を読み、働き、平凡な人生を送っていた。


 そして、この世界が「物語によくある悪役令嬢の世界」によく似ていることにも気づいた。


 断罪され、婚約を失い、家は没落する。


 そんな未来が、頭の中へ鮮明に浮かんでいた。


(でも、不思議ね。)


 アリアは王子を見つめる。


 怒りも悲しみもなかった。


 あるのは一つだけ。


(ようやく自由になれる。)


 王妃教育。


 政治。


 礼儀作法。


 毎日続く勉強。


 誰かの理想になるためだけに生きてきた。


 そんな人生が今日終わる。


 それだけだった。


 アリアはゆっくりと一礼する。


「婚約破棄、承りました。」


 会場がざわめく。


「……何?」


 驚いたのは王子の方だった。


 泣き叫び、弁明し、しがみついてくると思っていたのだろう。


 しかしアリアは穏やかに微笑んでいた。


「長い間、お世話になりました。」


 その笑顔に、王子は言葉を失う。


 すると、後方から一人の男性が歩み出た。


「失礼いたします。」


 王国宰相、ルーファス。


 王家を支える文官の頂点だ。


「陛下より預かっていた書状がございます。」


 彼は封筒を開き、静かに読み上げた。


「婚約破棄が成立した場合、エヴァレット公爵家と王家との共同事業契約は本日をもって終了する。」


 空気が凍った。


「共同事業……?」


 王子が顔色を変える。


「王都の魔導水路、結界維持、食糧備蓄、医療薬草園。それらはすべてエヴァレット公爵家の管理下にあります。」


 誰も知らなかった。


 王国を陰で支えていたのは、王家ではなく公爵家だった。


「王子殿下。」


 アリアは優雅に礼をする。


「どうか良き国をお築きください。」


 それだけ言って踵を返す。


 すると、広間の扉が勢いよく開いた。


「大変です!」


 近衛騎士が飛び込んでくる。


「北部国境の監視塔がすべて沈黙! 魔物の大群が王都へ向かっています!」


 会場が騒然とするなか、ほくそ笑みながら広間を後にした。

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