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昼前。
顧問先の社長から、進行表初版への返答が来た。
これ、現場リーダーに見せた
最初は渋ってたけど、
“どこで止まってるか見えるのは助かる”ってなった
「……」
恒一は少しだけ目を閉じた。
地味だ。
でも、効いている。
『足場ですね』
ルイゼが言う。
「うん」
「かなり」
『今のあなたに必要なものです』
「分かってる」
恒一はそのまま、社長へ返信する。
まずは1週間だけ回して、止まりやすい箇所を拾ってください
一回で綺麗にはならないので、詰まりを見つけるために使うイメージです
送信。
こういう一通を打つたびに思う。
世界がどうなっても、改善は一回では終わらない。
それは仕事も、関係も、たぶん同じだ。
◇
午後。
ルイゼ側から、かなり強い緊張が流れてきた。
会議だ、と分かる。
艦内のどこかで。
しかも、かなり空気の悪いやつだ。
「……」
恒一は作業の手を止める。
『少しだけ共有しますか』
ルイゼの声。
「いいのか」
『今は必要です』
意識が少し引かれる。
いつもの深い藍ではなく、もっと艦の内側寄りの感覚。
遠い声。
抑えた口論。
直接の言語は分からない。
だが、意味の輪郭は来る。
接触を急げ。
いや早すぎる。
追跡の線が濃い。
でも地球側の認識は加速している。
今なら限定接触の窓がある。
いや、その窓は罠だ。
「……」
恒一は眉を寄せた。
かなり険悪だ。
そして、その中でルイゼの立場も一枚ではない。
『今、私に向いている意見は三つです』
ルイゼが言う。
「聞く」
『一。即時限定接触へ動け』
「うん」
『二。観測を切り、さらに隠れろ』
「うん」
『三。地球側観測者――つまりあなた――を軸に、反応予測をもう少し詰めろ』
最後で、恒一の温度が一気に下がる。
「……やっぱそこ来るんだな」
『はい』
ルイゼは目を逸らさない。
『私は三番を、そのままの形では拒否しています』
「そのままの形?」
『あなたを、艦のための道具として切り分ける形では拒否しています』
「……」
『ただし、あなたの観測を完全に無視できるとも言い切れない』
最悪だった。
でも、正直だ。
そして、その正直さが余計にきつい。
「……なあ」
恒一は低く言う。
「お前、今すげぇ綱渡りしてるだろ」
『はい』
「艦長としても」
『はい』
「俺との接触でも」
『はい』
ルイゼはそこで、少しだけ苦く笑うような気配を流した。
『かなり』
とだけ言った。
それが、妙に人間くさくて困る。




