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【日刊上位ランクイン】チャネリングしたら宇宙船の美少女艦長に繋がったので、ブラック企業を辞めて人生を取り戻すことにした  作者: ハイカラな人


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夜。

 ヒアリング前日というのもあり、恒一は早めに仕事を切り上げた。


 ノートPCを閉じる。

 メモ帳を開く。

 明日の安全保障研究会ヒアリング用の整理を、もう一度見直す。


話すこと

•観測した違和感の時刻

•方角

•光ではなく“ノイズっぽさ”

•撮れなかったこと

•その後SNSで類似報告を見たこと


話さないこと

•ルイゼ

•簡易同調

•異星技術

•自分の“つながり”への疑い

•不自然な仕事の伸びの本当の背景


「……」

 恒一はペンを回しながら、少しだけ考え込む。


「俺、だいぶ嘘つきになってきたな」

『違います』

 ルイゼが言う。

『全部を開示しないことと、虚偽を積むことは別です』

「……」

『今は、線引きです』

「線引き、か」

『はい。あなたは地球側にも、私たち側にも、まだ全部を出す段階ではない』


 それは、今の自分にも納得できた。


「なあ」

『はい』

「お前の方、仮に限定接触に進むとして」

『はい』

「地球側の窓口は、やっぱ政府か研究機関か軍か、みたいな話なんだよな」

『現時点では』

「企業は?」

『優先度は低いです』

「……そうか」


 少しだけ安心した。

 いや、安心ではないか。

 でも少なくとも、“どこかの企業が先に押さえに来る”みたいな俗っぽさは、今のルイゼ側では主流ではないらしい。


「じゃあ、俺のとこへ来てる技術系とか研究所っぽいのは」

『地球側の別筋でしょう』

「……」

『少なくとも、私の側から動かしたものではありません』


 そこも大事だった。


 疑っていたわけではない。

 いや、少しは疑っていた。

 でも、今は切り分けがいる。


「……分かった」

『はい』


 そのまま少し沈黙が落ちる。


 静かだ。

 だが、今日はその静けさが少しだけ柔らかい。

 たぶん、互いにかなり疲れているからだ。


「お前、今日きつそうだな」

 恒一が言う。


『はい』

「具体的には」

『艦長としての判断負荷』

「うん」

『接触継続に関する内部圧』

「うん」

『追跡側への警戒』

「うん」

『あと』

「あと?」

『あなたに、これ以上どこまで言うべきかを毎回測ること』


 恒一は少しだけ息を止めた。


「……」

『それは、想像以上に消耗します』

 ルイゼは言う。

「隠したいからじゃなく?」

『隠したくない部分もあるからです』


 それは、かなりずるい答えだった。

 でも、かなり本物でもある気がした。


「……」

「じゃあ、一つだけ」

 恒一が言う。

「はい」

「今日のところは、もう測るな」

『……』

「疲れてるだろ」

『はい』

「なら、今日は雑談だけにしろ」

『……命令ですか』

「提案」

『……受けます』


 ほんの少しだけ、向こうの張り詰めが緩む。


「よし」

『ですが、何を話せば』

「お前の艦の、くだらないやらかし話でもしろ」

『そんなものは――』

「あるだろ」

『……あります』


 少しの間。

 それから、ルイゼの側から、若い乗員が艦内配給の栄養ゼリーを隠し持っていたのが見つかり、なぜか配給管理規則の見直し議論にまで発展した、という妙にしょうもない話が流れてきた。


「……宇宙でもそういうのあるんだな」

『あります』

「安心した」

『なぜですか』

「完璧じゃないって分かるから」

『完璧な集団は滅びると前にも言いました』

「覚えてるよ」


 少しだけ笑う。

 その笑いで、今日の重さが一瞬だけ遠のく。


     ◇


 翌日。

 オンラインヒアリングの時間が来た。


 画面には二人。


 一人は事務局の女。

 三十代前半くらい。

 落ち着いた声。

 表情は穏やかだが、かなりよく見ている。


 もう一人は、五十代くらいの男。

 大学教授でも、官僚でも、元防衛関係でも通りそうな顔。

 名乗りは“研究会参与”。


 かなり嫌な肩書きだった。


「本日はありがとうございます」

 事務局の女が言う。


「こちらこそ」

 恒一は答える。

「録音は相互に行う前提でよろしいですか」

「はい」

「質問範囲は、事前記載の通り、未確認構造物に関する民間観測としての内容に限定します」

 女はそう言った。


 恒一は一拍置いてから頷く。


「分かりました」


 ヒアリング自体は、最初の十分はかなり普通だった。


 見た時刻。

 方角。

 違和感の質。

 光ではなくノイズっぽかったこと。

 撮影できなかったこと。

 SNSで類似報告を見たこと。


 そこまでは自然だ。


 だが、研究会参与の男が、十二分ほど経ったところで、ふいに言った。


「相馬さんは、もともと観測や天文に関心がおありですか」


 来た。

 普通に見える。

 でも、少しずつ外へ広げてくる質問だ。


「一般的なニュースを見る程度です」

 恒一は答える。

「専門的ではありません」

「なるほど」

 参与は頷く。

「では、今回の違和感を、どうしてそこまで印象深く覚えていたのですか」


 恒一は少しだけ息を整える。


「仕事帰りで疲れていたので、逆に違和感だけが浮いたんだと思います」

「仕事帰り」

「はい」


 参与はそこで、一瞬だけ視線を動かした。

 事務局女の方も、ごく小さく何かメモする。


 嫌な感じだ。


「現在は、どういったお仕事を?」

 参与が続ける。


 質問範囲の外だろう。

 かなり明確に。


 恒一はすぐに返す。


「それは、今回の民間観測ヒアリングとどう繋がりますか」

「……」

 参与は少しだけ笑った。

「感覚の背景確認です」

「一般会社員経験がある、くらいで十分だと思います」

「現在は?」

「個人で事務整理支援をしています」

「……なるほど」

「それは、民間観測者としての位置づけに必要ですか」

「いえ、絶対ではありません」

「では、空の件に戻してください」


 画面の空気が、一瞬だけ止まる。


 事務局の女がすぐに入った。


「失礼しました。では、違和感を見た後、不安はどの程度ありましたか」

「ありました」

 恒一は答える。

「ただ、最初は自分の見間違いかもしれないとも思っていました」


 そこから先は、また一応、観測ヒアリングの形に戻った。


 だが、十分だった。

 向こうは範囲を広げようとした。

 こちらはそれを切った。

 そして、その切り返しは記録に残っている。


 終了後、恒一は通話を切ると同時に、深く息を吐いた。


「……来たな」

『はい』

 ルイゼの声がかなり近い。

『質問範囲は守られませんでした』

「うん」

『民間観測者としてだけでは終わらない』

「うん」


 恒一はメモ帳に、短く書く。


ヒアリング結果

•前半は観測内容

•後半で仕事背景へ踏み込み

•“感覚の背景確認”を名目に拡張

•範囲外と指摘して切り返し

•相手は引いたが、関心は残っている


「……」

『良い対応でした』

「今日は素直に受け取る」

『そうしてください』


 ほんの少しだけ、ルイゼの安堵が流れてくる。

 それで、向こうもかなり緊張していたのだと分かる。


「お前も見てたのか」

『全部ではありません。ですが、かなり』

「そうか」


 その短いやりとりのあと、恒一は思った。


 正式名称がつく前に、腹を括らされる。

 あれはたぶん本当だった。


 自分はもう、そういう場所に立たされている。


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