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午前中。
“内閣府関連安全保障研究会”から、返信が来た。
ご返信ありがとうございます。
今回は、近地球空間の未確認構造物に関し、一般民間の初期目撃・違和感報告のヒアリングを目的としています。
現時点で、他件と結びつけた質問は予定していません。
形式はオンライン30分程度を想定しています。
「……」
恒一は画面を見つめる。
「他件と結びつけた質問は予定していません」
小さく読む。
『予定していません、ですか』
ルイゼが言う。
「言質としては弱いな」
『はい』
「でも、完全に逃げると逆に目立つ」
『それもあります』
厄介だ。
本当に。
「判定」
恒一が言う。
『正しい点』
ルイゼが続ける。
『向こうは“民間観測者”の枠を一応明示した』
「うん」
『不確実な点。それがヒアリング中も維持されるか』
「そうだな」
『不明な点。あなた以外に、どの程度の民間報告者が呼ばれているか』
そこも大事だった。
自分だけならおかしい。
複数ならまだ自然だ。
「……受けるなら、条件つける」
『はい』
「録音可否」
『はい』
「質問範囲の確認」
『はい』
「実名ベースの位置づけ」
『はい』
恒一は短く返した。
承知しました。
その前提であれば、質問範囲を事前確認の上で、短時間なら対応可能です。
なお、こちらでも記録を取ります。
送信。
これでいい。
少なくとも、黙って飲まない形にはした。
『かなり良いです』
ルイゼが言う。
「今日は褒めるな」
『本当に良いので』
「……まあ、受け取る」
◇
午後。
顧問先の社長との打ち合わせで、恒一は初めて少し強く出た。
「この一覧、現場更新と営業更新を同じタイミングにしないと意味が薄いです」
「そこまでやる?」
社長が眉をひそめる。
「やらないと、また“見えてるつもり”だけ増えます」
「……」
「あと、“部材発注は誰かがやるはず”を残すなら、改善案を入れる意味もかなり薄いです」
「直球だな」
「今回は、そこをぼかすと逆に損です」
「……」
社長は長く黙ったあと、苦笑した。
「相馬さん、最初よりだいぶ強く言うようになったね」
「必要なところなので」
「最初はもっと遠慮してた」
「たぶん、前は俺が遠慮しすぎてました」
「……」
「今は、範囲を切った上で言う方が、結局早いと分かってきたので」
それは、本当にそうだった。
何でも受けるのではなく。
何でも飲み込むのでもなく。
線を引いた上で必要なことを言う。
それは仕事だけではなく、今の立場全体に必要な姿勢だった。
社長はそこで頷いた。
「分かった。そこ、こっちでも押す」
「ありがとうございます」
「あと」
「はい」
「宇宙の話でざわついてるのに、うちの納期の方を先に立て直そうとしてるの、ちょっと面白いね」
「……そうですか」
「うん。なんか、助かる」
その“助かる”が、今の恒一には妙に深く刺さった。
世界が揺れても、ここで困っている人はいる。
それは、今の自分の足場になる。




