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接続を切ったあと、恒一は机に向かい、また紙を広げた。
地球側
•公的観測・安全保障ラインが前進
•“人工的巨大構造物”の語彙が出始める
•恒一本人へ直接接触あり
•元勤務先も外部照会を管理開始
異星側
•避難船
•地球は候補地
•追跡勢力接近の可能性上昇
•艦内で接触継続と接触判断が割れる
自分
•地球受け入れ判断の一端を担っていた
•仕事は続いている
•でも世界規模の接触前夜に巻き込まれている
•ルイゼを切れない
•地球も切れない
書いてから、恒一はペンを置いた。
「……詰んでるな」
小さく言う。
でも、その言葉の後に、ふと別の感覚が来る。
詰んでいる。
だが、まだ終わってはいない。
やることはある。
整理することも、考えることも、選ぶことも。
だから、まだただの絶望ではない。
それがたぶん、一番厄介だった。
宇宙船、という単語は、まだ政府の口からは出ていなかった。
だが、もう皆、そこへ寄っていた。
未確認構造物。
人工的巨大構造物。
近地球空間の大型物体。
言い方は慎重だ。
慎重だが、逆にそこまで慎重な言い換えが必要な時点で、もう普通ではない。
恒一は朝のニュースを消し、少しだけ目を押さえた。
寝不足だった。
当然だ。
顧問先案件の整理。
外部からの不穏な接触。
地球近傍の異常。
ルイゼとの重い会話。
眠れる方がおかしい。
『就寝前整理シートを作った本人が、それですか』
ルイゼの声。
「うるさい」
恒一は即答する。
「お前も寝てないだろ」
『はい』
「じゃあ同罪だ」
『艦長ですので』
「便利ワード禁止」
でも、そのやりとりで少しだけ呼吸が戻る。
恒一は机に向かい、顧問先案件の次段階メモを開いた。
納期・着手・発注の一覧統合。
更新責任の固定。
遅延箇所の可視化。
例外案件の逃がし先。
やることは明確だ。
世界がどうなろうが、工場は今日も詰まる。
事務は疲れる。
現場は営業に苛立つ。
そこに整理は必要だ。
「……」
『今のあなたは、仕事にしがみついていますね』
ルイゼが言う。
「悪いか」
『いいえ。かなり妥当です』
「最近ほんとそればっかだな」
『今の段階では、有効な判定が多いので』
恒一は苦笑し、メモの横に小さく書いた。
今やること
•顧問先案件の初期整理完成
•顧問先向け進行表の初版
•先輩案件のFAQ追加
•牧野案件の確認一覧修正
保留
•宇宙ニュースの進展
•外部接触への対応
•ルイゼ側の接触判断
「……」
『良いです』
「もうちょい褒めろ」
『かなり良いです』
「雑だなぁ」
だが、それでよかった。
正式名称がつく前に、現場の人間は先に腹を括る。
そういう局面は、たぶん現実にもある。




